秋が訪れれば またひとつ
目じりに刻まれる年輪のようなもの
早いもので開け放した窓の外では
秋の虫たちが鳴き始めている
この様に季節が巡るのであれば
歳を重ねてしまうのも致し方無い事
抗っ ....
夕映えに長く伸びた影の 
手足のしなやかに動くのを 
美しいと見惚れた 

サッカーボールが弾むたびに 
視線が鋭く光るのも 
伸びかけの髪をかきあげて 
おどけて笑う口元も 
 ....
あなたと
ニ色の絵の具のように混ざり合って
小さな夜が更けていくと
奇妙なことに
今朝ふるさとを発つ時に見た
一群れのツユクサを思い出しました

あなたを穢したくないのに
穢してしまっ ....
ひかりの葬列が瞳孔の砂浜に沈み、
溢れる夏が清涼な涙を流す。
新しく生まれた水彩画の冒頭を見つめながら、
わたしは、森の湧き水で掌を浸した
愁風の滴る夏の終わりを均等にまとめる。

青い寝 ....
休憩室の扉を開くと 
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた 

ほんのささいなことで 
誰かとすれ違ってしまいそうで 

思わず僕は身をかがめ 
左右の靴を手にとって  ....
ときには
顔を真っ赤にしながら
たくさんの風船を膨らませてきました

割れたものも
木の枝から離れなかったものも
見知らぬ空や海の彼方へと流れたままの
ものもあります

それは ....
いつの頃からそうなのか
わからないけれど
物心がついた時から
ぼくの家には屋根がない

どうしてなのと
親に聞いたら
そういうものだと諭された

友達の家にも
遊びに行くお店にも
 ....
はじまりは
突然ではなくて
地面に染み込んでいく
雨の速さに似ている

背後に潜む
稲妻と雷鳴の予感
と、その準備に追われる頃
夏の気配はすでに
私の踵を浮かせ始めていた

色濃 ....
わたしが遅めの初潮を迎えたとき
母がお祝いにとお赤飯を炊いてくれた
(今の子もそんなお祝いしてもらうのかな
膨らみ始めた胸の先が痛かったりして
ちょっとだけ…おとなになった気がした
それから ....
おのれの呼吸が
一つの音であるということ
それは
あまりにも気づき難くて
ともすれば
日々の暮らしの意味さえも忘れてしまう


月の満ち欠けは
暦の通りに
全く正しく空に映るの ....
陽ざかりに
影がゆれる
塀の上に
白樫が緑の枝をのばし


陽ざかりに
光がゆれる
そこに咲いている
荒地野菊の花


寡黙な額に
風が吹き


みつめる心も
そっと ....
わたしが生まれ育った郷里では
要らぬものを裏山に投げた
村外れを流れる川に流した
囀る野鳥の気配に誘われて
ひとり裏山を彷徨えば
要らぬものは朽ちて土となり
夕餉の支度でも始めたのか
潜 ....
教えてほしい 
あの空の青みの 
ほんの隙間の翳りの中に 
何を見いだし詠うというのか 

たおやかに流れる川の
水底に沈む
ひとかけらの悪意を
掬って頬張った 
その後の嗚 ....
大きな書店に行くとあふれる本に圧倒されるが、もっとすごいのは、その閉じられたページというページに、無数の文字がちりばめられているということだ。書き手、すなわち文字を発信する側がこれほどに存在するという .... 君は控えめに微笑む

今僕がここで笑ってもいいのかなって

君はそぉっと思いやる

おせっかいにはならないかなって

まだ

子どもの大きさしかない君は

その内側で

広 ....
初恋の人の名前を呼ぶように遠い花火は音だけで咲く


宵かがり すくい上げられひと夏を共に過ごした金魚の記憶


パラソルを少し傾け向日葵と同じ角度で空を見上げる


涼しげな薄い便 ....
冷蔵庫から ほろ苦い
コーヒーゼリーを取り出した
冷風吹きすさぶ 一番上の段
甘いフレッシュの上で
体育座りしている
君を見つけたのは
午後3時

 ああ、寂しかったんだね
 今日は ....
ゆらり金魚
ふわふわ踊る朱色の帯
髪結い上げた女の子の
すくい網から
グルリと
あわてて
飛び出していく

金魚
しなやかに
泳いで
見えないゴールを
いくつも越えて

金 ....
水が割れるのです

いま
指先の銀の引き潮に
水が
割れるのです


うなじを笑い去るものには
薄氷の影の匂い
たちこめてゆきます
たちこめてゆくの
です


紫色の ....
ばっさり斬り落とした短い髪に
唖然とたたずむ
 (なんか、めんどくさくって
照れたように君が笑う
右の頬を隠して

僕の知らない君の夏
正しい折れ曲がり方なんて
よく分からないけどさ
 ....
これはもの、
こわれものだから。
とっても大切にして、
こわさないで。

生きてないの、
これはものなの。
こわれてしまうと、
もう駄目。

こわれ ....
風がふいた
ふうわり さあ さあ

草がゆれた

君をみつけた

 「なにしてるの?」って聞かれたらなんて言おう





風はまだ ふいていて
さあ さあ さあ

僕 ....
わたしの余白には言葉を埋めないで、
どうかそのままにしておいて下さい。
あなたが埋める言葉はとても想いので、
ふたりはいつも沈んでしまいます。

句読点のない ....
パンに トマト ぬるぜ

カタルーニャ式 だぜ これ

オリーブオイル かける よ

バージン エクストラ です よ

たまご も 焼いちゃう 

べーこん イベリコ豚 だよ 
 ....
昆布の匂いがする、と

おんなの言うままに
おとこはそっと確かめてみる


漁師町で育ったおんなは
季節ごとの海の匂いを
知っている

おとこは
ただなんとなく海がすき、とい ....
長い間
{ルビ棚=たな}に放りこまれたままの 
うす汚れたきりんのぬいぐるみ 

{ルビ行方=ゆくえ}知らずの持ち主に 
忘れられていようとも 
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置され ....
五山の文字の
ゆえんなど知りません
それでも私は
わずかに香る炎が尽き
夜が少し涼しくなるのを
ただ待っているのです

まだきっとどこかで生きているだろう
あなたを見送っているのです
 ....
空虚な腹部で
命と鳴いている
今日は夏だ
われんばかりの空だ
あぁ、こぼれてゆく

大地の精霊を
宿す
からだは
青空のもとで響く
首すじに光る雫を
ハンカチーフにすっと吸わせる ....
空を飛びたいなど思わない
眠ってしまおうとも思わない
そんな明るい雨の昼下がりは
激しく窓ガラスで弾けて
つたい落ちる滴を
ずっと、ずっと見ていたい

  大切に飼っていた金魚を
   ....
偽物のような朝日に照らされてスローモーションで抜けおちる髪


みずたちは迷路に惑わず進みゆく辿りつくもの溢れでるもの


窓越しに電線のたるむ一点を凝視する裸婦をデッサンするきみ

 ....
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