文字という星々の
umineko

大きな書店に行くとあふれる本に圧倒されるが、もっとすごいのは、その閉じられたページというページに、無数の文字がちりばめられているということだ。書き手、すなわち文字を発信する側がこれほどに存在するという事実。そんな世界に私は立つ。

私のフィールドは、たとえば誰かのブログだったり、投稿掲示板だったりする。あと、とある社報にエッセイを書いている。OBとかにも送ってるみたいだから、500部くらいあるんだろうか。無数に散らばる文字の宇宙に、私の文字が点在する。文字たちは、寄り添い、あるいは反目しながら、誰かの胸へと落ちてゆく。それが私の文字かどうかは、それは知らない。

詩を書くという作業が私は好きだ。

詩を書いてますよ。そういうと、暗いとか、内向的だとか、そんなふうに形容されることも多い。たしかに書いている瞬間、意識は内方へと向かう。でもそれは、意識を外へと放射するための、ぐっと弓を引きしぼるような、そんな時間でもある。遠くへとことばを放つために、もっと深淵に踏み入らねば、と、私は願う。その作業は孤独の一種だ。鏡のように、ひとりぼっち。

だけど。それは決して悪ではない。どんな喧噪にいても、私には帰る部屋があるということ。だから喧噪も苦ではない。喧噪の隙間の、エアポケットのような静寂がかつては怖かった。いまは、大丈夫。砂風が舞い込んだカタツムリのように、首をすくめてやり過ごす。そんな術を覚えたから。そういった意味でも、このアートフォームにはどれだけ感謝しても、足りない。

メディアは今日も、新しいニュースを伝えくる。海に落ちたワゴン。青いハンカチブーム。正しいことは何かという問いを、私たちは失くしていく。内向しなくても、文字がやって来るから。意図も持たずに。

私は私と対話をする。時空を越えた無線機みたいに、詩というアートフォームを通じて。私の向こうに青空があり。あるいは白い庭園がある。私がそこで手を振っている。

詩に一歩、足を踏み入れた人。詩が語らなくなった人。無限の空に、文字を放て。
あなたが本物である限り。文字もまた、たましいを持つ。

あなたの意志で。あなたの文字を。
無限の空に解き放て。
 
 
 


散文(批評随筆小説等) 文字という星々の Copyright umineko 2006-08-27 11:08:34
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