月の光がさしこんでいる
誰もいない部屋
片隅で
灰色猫が爪を研ぐ
テーブルの上には
開封されることのない手紙
赤い切手の消印は───
窓の外を
遠い汽笛が通り過ぎてゆく
....
川で 手を洗おうと思ったのは
いたずらに食べた桑の実で
汚してしまったから
新しいランドセルが
川を覗き込んだ後頭部を倒す
沈んだ 目が水を見る
手をのばした
びっくりした友達のいる ....
一日の仕事を終えて
日誌のコピーをシュレッダーにかける
箱の中に吸い込まれてゆく紙
粉々になってゆく一日
見下ろす私の影
産声を上げた日から今日迄の
私の年譜をシュレッ ....
手と手を繋ぐ帰り道
あなたが嫌いなこの田舎
あなたの涙を見るたびに
私の心が裂かれます
「ねえ、星がすごく綺麗だね」
あなたが初めて褒めた田舎は
夜空の星たちでした
そんな言 ....
雷鳴に少し怯えて
ようやく雨が遠ざかると
いつしか黄身色の月が
丸く夏の宵を告げる
湿度が首筋に貼りついて
ついさっき流れた汗を思う
狡猾な二本の腕を
互いの背に回して
策略の ....
肌の全部が
湿った薄い膜で被われて
少しの息苦しさで
満ちている午後
畳の跡がついてしまうかしら
そう思いながらも
まるで猫の昼寝の如く
時折どこからか吹いてくる風で
意識を保って ....
暑い日だった
目覚めのベッドは僕のにおいで湿ってた
喉がカラカラだった
コップの水をかるく舐めたら
少し、ぬるい
鏡に映るはだかのおとこ
汗 ....
彼方からの気流にのって 届いたそれを
あのひとは
夏だと言った
わたしにとって
わたしの知らない、どこか
遠い場所で あのひとが
笑ったり、泣いたり、しているということは
あ ....
それは
降りしきる雨の
隙間をぬって
遅れて届けられた
一通の手紙のように
雨と雨が
触れあう音に紛れて
見慣れた景色の
匂いの片隅
未送信のまま
閉じられ ....
大きなサボテン
小さな鉢で
よけいおおきみえる
小さなサボテン
大きな鉢で
よけいちっこみえる
だからよけい両方かわいいねけど
大きいサボテン
「なんか家まちごうてへん ....
☆ おへそにピアス
おへそにピアスしています
ローライズのずっと上
チューブトップのちょっと下
夏の視線がやたら眩しくて
わたしのまんなか
おへそにピアス
わたしがまだ
あのひ ....
めろんの翠が涼しい頃
強引な若さだけを連れて
新しい部屋を探したわたしが
照れながら甦る
必ずしあわせになるのだと
啖呵を切って
飛び出した古い家
裏付けるものなど何も無く
ただ
....
{引用=
一、漕ぎゆく者へ
明るいうたは明るくうたおう
明るくないうたも明るくうたおう
そうすれば
必ず
いつかどこかが壊れてゆくよ
治すというのはそ ....
初めての海で
吸いこんだ
風のにおいはふるさとのようで
わたくしは、ただ
何万年も佇んでいたような砂浜の印象へ
飛びこんで
いまこの波の揺らぎに没しようと
荒れんばかりの幾多の波の
....
高音域の理想が響き渡る中を
はぐれないように
迷わないように
独り涙を震わせて
かすかな音色が道しるべ
青白い道に倒れても
失意の海に沈んでも
理想の音波に打ち砕かれても
けだるい ....
洗面台に両手をついて
鏡面にうつる
わたし自身の姿に
すまし顔のわたしを脱ぎ捨て
背後から
すべてを包んでくれる
あなたの胸元にすがりついてしまう
ひとは誰もそうするように
突きつけら ....
ひかりをふところに浸す、
みどりのまるみが、いのちの数式を
一面につめこんだ、
萌え上がる、眠れる森に、鬱蒼と、
うすきみどりを染め上げて。
満たされた隙間を、みずいろの風が、繰り返し、
....
ひとやすみ はながみまもる
雨と雨の間に
かおを出した青空に
並んで一緒に伸びをする
夏草はいつのまに
私を追いこして
掲げた手さえ届かない
ぐうんとジャンプで
きみ(夏草)にタッチ
ぐうんと伸びして
きみ(夏草)は空にタッチ ....
ミサイルを撃ち始めるとは思わなかったので
ことのなりゆきに とまどう
中国へ弟が二ヶ月ほどいるのは
会社の仕事だし
行ったばかり
北朝鮮への経済制裁がはじまった
それは 敵地という ....
この星に死が満ちるとき
歌われる悲しみは
残されたものを慰めはしない
人は孤独だ
死に逝くものだ
と宣言しても
それとて寂しさを慰めはしない
電気的に結びつかない
陽子と中性子は
....
?.
ああ
オルテンシアがほんと楽しそうだ
あんなの日本語だとね、てんこ盛りって言うんだよ。
ひひ、てんこ盛りだって、おかしいね。
まあ、要するに、昨日の俺たちのパスタだ。あれが ....
なめくじは
みんな
ホームレス。
かたつむりは
半分
ひきこもり。
たまに 交代してもいいし
べつに しなくてもいいし。
そんな感じ
....
さざなみが月を潤ませて
消してゆく二人の名前
ゆうなぎは心の糸まで
もつらせて切ってゆくのか
灯台も暮れ馴ずめば影にまみれ
境をなくす浜辺と海
こわれた砂の城に波が
さよならを塗 ....
物語の終えた本を
閉じると同時に
欠伸をひとつ
いつの間にか外は雨
こんなに近く
ガラスを滑る雨に
今更気づいて
覗いてみたのは
深い夜
明けること
わかっていても
朝はまだ ....
{引用=一、くじらヶ丘
口に出してごらん
うるおい、と
その
やわらかな響きは
途方もなくひろい海の
すみからすみまで
満ち満ちてゆくようなものではない
干 ....
かつていた冷凍都市を思い出すような小説書いている初夏
再放送されてる温泉番組を観ているぼくを見ているかか氏
転校生だったあの子は元気かなどおんどおんと胸打つ花火
....
あのときの金魚生きているよ
あなたと何回挑戦しても
ポイはすぐに破けてしまって
夜店のおじさんが呆れて分けてくれた
小さな二匹の金魚
お口をおちょぼにすぼめた金魚鉢は
ひらひら朝顔のように ....
静けさに
包まれて夜は
雨はとどまっても
星はみえない梅雨の空
肌の湿りは
空が落とした夏の皮膜
それとも重ねた体温
外灯が滲んで見える
青く蒼々と
今を映すその目に
私の ....
赤いくちびるの、艶かしい呼吸の高まりが、
耳元をかすめ過ぎて、
世慣れた顔のひろがりは、穏やかに浮かび上がり、
成熟した夏を秘めた、
落ち着く若い寡婦の頬をかしげて、
経験にさばかれた甘い水 ....
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