棚の中のきりちゃん 
服部 剛

長い間
たなに放りこまれたままの 
うす汚れたきりんのぬいぐるみ 

行方ゆくえ知らずの持ち主に 
忘れられていようとも 
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置された夜の中で独り 
幸福だった日々を夢に見ている 

遠い雪国に嫁いだ姉が
慣れない暮らしに疲れ
実家に戻っていた頃  
人に言えない哀しい呟きに 
2本の耳を傾け
黙って聞いていた日々を 

昨夜
探し物をしていた僕は 
久しぶりに姉の部屋の棚を開くと 
ぬいぐるみのきりちゃんは 
積み重なる本の上にうつ伏せていた 

折れかけてガムテープを巻かれた
片方の耳には姉が書いた張り紙1枚 
「 耳がとれそうです・・・優しくしてあげてね 」 

棚の中に手を伸ばし
長い首を抱きかかえ
うす汚れた黄色い毛並みをでると
つぶらな黒い2つの瞳にしずくが光った 

今日
風邪で仕事を休んだ僕は
きりちゃんの顔が見たくなり
誰もいない姉の部屋に入ると 
ベッドの足元にいたきりちゃんは 
少し恥ずかしそうに 
布団ふとんで顔を隠していた 





自由詩 棚の中のきりちゃん  Copyright 服部 剛 2006-08-20 10:32:35
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