営農センターの方から多くの桃が北側の倉庫に運ばれて来ていた。
フォークリフトの爪が木製のパレットに引っ掛かかる時に出す苦しげな音が梅雨明けの北信地方に反響し、鉄で出来た{ルビ軌条=レール}のような態 ....
とうにもう
枯野の向こうへ行きやったけど
おれに初めてフグを食わしてくれたんは
おんじゃん(おじいちゃん)やった
唇がぴりぴりしたら言いや
フグの毒がまわったゆうことやさかいにな
おれ ....
ただ一つの言葉を言えないばかりに
君は長い長い詩を書く
ただ一つの言葉
それを君は覚えているかい?
君は君が詩を書く動機を
まだ覚えているかい?
君は詩を書くことで
気を紛らわす苦しみか ....
ぼくががんばればいいだけなら
さみしさをこらえて やる よ
やる といったのだからそのことばでもって
ぼくをしばりつけてくれればいいさ
せんそうやさいがいではないんだ
にちじょうのなか ....
みんみん蝉が鳴いている
夕焼け空に鳴いている
巨大な夕陽が今正に
落ちようとしているその時に
みんみん蝉が鳴いている
夕焼け空に鳴いている
巨大な宇宙の営みが
寸分違わず足 ....
誰かとあって
そのひとも
いつかは死んでしまって
ぼくもしんでしまって
でもぼくがしんだら
もう誰も死ねないね
だからごめん
花の首飾りがしたい
空はぽかんとあいた人間で
世 ....
音もなく頑丈な扉を開き、入ってきたのは見覚えのあるような皺だらけの中年男性だった。
署長自らが直々に連れて来たので位の高い人物なのだろう。署長は軽く会釈を済ませるとわたしを指さしてすぐに出て行っ ....
その歳若い上司は、ぼくどころか妻よりもずっと若く、なんとその若さで現場のチーフを仰せつかっているとの事だった。
妻はつねづね、その上司が、制服の上から胸や腹のあたりを無造作にガリガリと掻きむしるのが ....
あゝ窓ガラス越し
物凄い空の青が広がって
自分が何処に居るのか
一瞬わからなくなる
地球、いや宇宙
そうだ、此処は地球という
宇宙に浮かぶ場所なんだ
まぁるく廻る星なんだ
それにし ....
物音と話し声を聞いたとき、ぼくは布団の中いた。
ぼくは、しばらくじっとして、できるだけ注意深く外に耳を済ませることにした。
空耳ではないはずだった。
たしかに、微かな話し声と、横たえられ ....
どうか
この手が
だれかを
たたいたり
せずに
ありますように
どうか
この脚が
届けものを
とどけ
続け
られますように
どうか
この瞳が
まっすぐで
逸らされ ....
言ってやろうか 聞かせてやろうか
俺を産んだ女は無学で
字もろくに書けねえ読めもしねえ女だった
昭和二十年
この国は戦争でぼろ負けになり
東京辺りは焦土と化してしまったけれど
嫁ぎ先は ....
ここにひと{ルビ欠片=かけら}の記憶が落ちていた
天候にもよるが
ふいにキラキラとうつくしく光りだすから
この一片には
よほどの幸せとそれに彩られた日々があるにちがいない
と思われた ....
拡大する意識に
思考が浮遊し始める
感情の奥底に根を張りながら
わたしは別にあなたでもよかった
あなたがわたしのうちに体験されてから
あなたは別にわたしでもよかった
わたしがあなた ....
春はあけぼの
夏は夜
と謳った人が昔居るけれど
確かに
そうやって
自分の好きなものを
実際に
真剣に
数え ....
何もかも全然なっていないなと思う
みんな自分よりずっと立派にやっているよ
ぼくが彼らの何を知っているというのか
彼らの生活と考えと家庭事情の何を知っているというのか
ぼくは本当にこのま ....
心奪われる詩、とりわけ自由詩のそれにかんしてはだいたい数行読んだだけでピンと来て、後頭部から頭のてっぺんにかけてスッコーンと何かが抜けるものだ。
しかし、なかには例外もあり、これが不思議なところ ....
フォー・ビートが沈み込んでいく
目録のない夜の隙間
非常階段の泣声
男か女か分からない
カルヴァンクラインの残骸
浴室に注射針
充血した瞳が
最期の瞬間に見たものは
あなた ....
見えないものが膝の上に居て
明けてゆく空をみつめている
むらさきの径 つじつまあわせ
陽を呼ぶ声 目をふせる声
指のすぐ上を廻りつづける輪
まばたきすると赤くにじむ輪 ....
木々は水を滴らせ
草はより一層繁っていく
水草に似た緑の葉に
合歓の花は金魚のように泳ぐ
微妙にカーブを描く幹
意図しない芽吹き
計算外の美しさ
貴方と繋いだ手はどこまでも柔らかで
....
夜はいい
家人がめくる新聞紙の音
県道を走るオートバイ
二件むこうの玄関ベル
ナツメ電球のだいだい色
夜はいい
電気の下のアイロン台
扇風機の弱
並んだい草のスリッパ
蚊 ....
感情が漂白され
漂流していく時空を
速くなったり遅くなったり
緻密になったり大雑把になったり
なんて自由自在に運ぶ移行
魂の打つ突発的な躍動
変拍子や裏拍に
コレハナンダ?
新たな ....
木立の緑が揺れている
私は冷たい虚を飼って
鉛の監獄から眺めている
気だるく憂鬱な昼下がり
空は一面の灰色模様、
熱風はもう絶えず吹き
荒れ果てた街並みが
ぱたんぱたんと倒れていく
....
林床にはブナ林特有の雑木が生え
そこを刈り払い機で刈っていく
すさまじいヒグラシの鳴き声の海が森を埋め尽くし
私たちの耳に、錐もみ状に刺さっていく
急な斜面を足場を作りながら雑木を刈る
....
みさめがふりつづけばつちはながされて
わたしがうまれた
由来から植物は埋もれ酵素も分解されて
腐食の生きものたちがはみ出してくる ....
20代後半の頃、ボランティアをしていた事があった。
それは人生で唯一、サンタクロースの恰好をしてジングルベルを歌うのを自分に許せた季節であり、一銭にもならない仕事の代わりに、食べきれない量のお菓 ....
君の吐息はちいさな部屋の空気を揺らし
君の想念はだれかのベッドにしのびこみ
不思議な夢を紡ぐだろうか
ヴィトゲンシュタインにも小さな教え子に
猫の骸骨を組み立てさせたり
社会実習を経験さ ....
{引用=「言葉にならないなら、無理しなくてもいいよ。だって海にならないからって、水は流れるのをやめる?」}
サクラソウという名前の花を買った。帰り道に食材を買いに寄ったホームセンターの見切り ....
{引用=地球に於ける生命の反転現象について}
そろそろ認めよう、途轍も
なく分からないのを。まず世界の根底が
分からない。そして根底に根底が
あるかも、根底
の構 ....
大小の刀を二本も腰にさしていては、さぞかし歩きづらいし、走るとなったら駆けづらいだろうなって
常々感じていた
士農工商の身分制度の中でいちばんに位置していても、その暮らしぶりは窮屈で自由じゃな ....
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