坂の下は霊魂の溜まり場だった
降りて行ってはいけない と彼女に言われた
彼女は二十四の歳に逝ったままの若さだった
その代わりにある家を見て欲しいと言う
二階に八畳間が二つ在るのだけれど何か ....
夢よ幻よ。やるせなくそして ひざまずく。
たとえば湿ったアスファルトと、推し量る
仄かに照り返すみちびき。
一本の露地のその先へ、
うちとどめなければならない
なにかを
砂 ....
お互いにコーヒーが好き
出逢いはよく行く喫茶店
コーヒーの話題で盛り上がる
コーヒーが繋げた恋愛
何処となく身体に染みついている
使う豆によって
味や深みが変わる
切ない気持 ....
私だけを見て、わたしだけが知っている、
この夜は永遠に はるかかなた
まるで幻覚を具現化したみたいね
ただ原色が波打つばかりの
クレヨンをまき散ら化したような、
ポップアートな臨場感 ....
{引用=施錠された雨へたどりつくまでの足取り
輝ける虚空の大理石に屈服してしまうわたしの
一歩を待つ夜を繋いだ
白熱灯が光る死角を擦れ
吸った湿気る一悶着に
手を打ち鳴 ....
わたしの頭蓋をひとつ
ぽこんと叩いてごらんなさい。
きっとがらんがらん、と鳴るでしょう。
空洞なのです。
人が言葉で象られるなら
この空洞にひゅうと風の吹き込んで
体内で反響するものを ....
ちいさな、迷いの、
みえない、
硬い、戸惑いのプラスチックを、
決断の、とがらせた指さきで、
突きやぶって、
それから、送信の、まるで火災報知機のボタンを、
ほんとうに、
押してしまった ....
毎日すべての珈琲が
あたたかい国
街の真ん中には日時計の柱
海の上で
狩りを覚えはじめた小禽
無人の駅を震わせるピアノ
なめらかな不発弾
幾何形体
迎える身体が
どんなに拒んでも
....
穂渡りの君が
口笛を吹く
錦糸町にお蚕さんの面影を重ねてみる
ほら
そんなふうに季節を忘れた町に
探している何かを求めている
探している
穂渡りの君が
嘘をつく
....
紅葉の文様、その磨りガラスを叩くものが、
とんと鋳る
虚しいものだけ集めて終いたい
僕の中には それが軸になって
ぐるぐると塒をまく
ひかりだのやみだの、
どうせ狂ったように刺し混むだけ ....
{ルビ蜩=ひぐらし}の かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が
空へ心地好くひびく
一人 林の陰に立ち 傷を思う
傷の増えた この銀製の指輪は
あの人が亡くなった頃に求めたもので ....
素晴らしい朝は
岬の鴎たちが啼き交わす言葉までわかる
遠い希望は持たないほうがいい
ただ一瞬の充実が幸福論のすべてならば
そこに集力してそれが結果になる方がいい
それからが始まりだと ....
雨上がりの後に時間があると
少女は
いつも散歩にでかける
行く先は
街の高台にある
見晴らしのよい公園
ベンチに腰掛けて
虹のでるのを待っている
が
今日もまた
い ....
轢死の残滓、まだ夏の在処の片隅に、凍る息を見つめながら、語れる言葉も無しに…そのまま、そのまま、塵のような雪に埋もれる、春になる頃に骨組みだけの姿でまた会えるさ、口笛は曰く付きのインストゥルメンタ ....
分厚い雨雲の真ん中が綻び
底なしの穴の遥か遠く
水色の空が薄氷越しに透かし見えると
遠い夕焼けが破れ目の縁を
なぞるように湿らせる
逝く人の
輪郭を切り取るだけの硝子窓
....
秋の雨が窓を打つ
静かな音の中
君の寝顔を間近で見ていた
冬の厳しさがすぐそこにあり
空気は冷たく
一向に縮まらない距離に悩んでいた
近付けば逃げるのに
留まると残念そうな顔なのは何故
....
詩は
ペンが見る夢だ
私が
書いているのではない
普段は眠っているペンが
キャップが外れた拍子に
ぽつり、ぽつりと語りだす
詩人にできるのは
耳をすませて記述すること
ペンの中を流れ ....
真水に白線を正して、記憶が薄まるのを待つ
どうせ影は伸びて滲む
こたえは ひとつでなく
深層に寄せた若気も廃れ
丸裸の木の葉に、踏みしめて道とする。
しかし
ふくれている、あまざらしのさく ....
星が虹のように降りそそぎ
三日月が帆船に変わる夜
無いものをどれだけ欲しいと思っても
たとえ星に願ったとしても
たとえ月に祈ったとしても
ただ夜風がやさしく吹くだけだろう
それは言 ....
いつか見はらしのいいどこかへと
ひらいた傘が浮かんでゆれてく流れ
しずみつもった景色をさけて
わたしに望遠の目がもてたなら
ビルとビルの隙間をはしる列車を待っていいけれど
屋根裏の秘密がもて ....
夢の底を揺蕩えば
予感に包まれ
陶然となる
夢の向こうとこちら側
遠く近く奥まって
底の底に横たわる
わたし独りのたましいが
融通無碍に踊り出す
この晩秋の青い時
深い眠りに揺蕩って ....
「あなた自身、自分では気づいていない暴力性を持っている」
ある占い師に言われたその言葉が、
私を救っている。
「自分が他人にどう思われているかについて不安になり、
他人との交流や人前で ....
まだ里に雪は降りていないが、初冬である。晩秋にかけて、割と寒くはなく、むしろ暖かいと感じた。
あたりはすっかり寂れた風景となっていて、収穫の予定のない近所の畑の渋柿だけが鮮やかな色を呈している。 ....
{引用=声の肖像}
どこかで子どもの声がする
鈴を付けた猫がするような
屈託のないわがままで
なにもねだらず行ってしまう
風がすまして差し出した
果実は掌で綿毛に変わる
ぱっと散った ....
シルエットのほうが美しい
とでも
言いたそうに
絵画のなかで
熱心に
シルエットを見つめているのは
シャルロッテに恋をした
ゲーテという詩人
若き乙女の
可憐なシルエ ....
心の闇に
騙された部屋
愛というなら
殺してよ
愛しい首を
かき抱きたい
月も隠れる
熱い夜
罪は罪とて
承知の上で
くれない夕日に
騙されて
好きは好きと ....
庭で夕空を仰いでいると
足下の、少し離れた場所が
ふいに がさっ と鳴った
古い柿の木から
枯葉の吹き溜まりに
実がひとつ、落ちたのだ
よく熟れた柿は
ほんのりと夕陽に染まり
....
偽りながら
偏りながら
擦り減っていく踵を
平気な顔して
舐めて歩くな
許されなくても
願うこと
愛されなくても
愛すること
自分らしく生きるために
傷付いたら
アスファ ....
一陣の風、
吹き抜ける
この晩秋
空は青く
何処までも高く
天蓋は涯までまぁるく
外部はなく
凪いで
人々は歩を進める
この地上にて
神々は居られ
その豊穣なる艶姿
人 ....
乳児のわが子と遊んでいて
腹の底からわが子に笑いかける
するとわが子は
ひらひら笑って返す
妻がわが子を膝に抱きながら
向かい合わせで笑いかける
するとわが子は
くるくる笑って返す
仕 ....
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