平日の空いた車内に腰かけて
「記憶のつくり方」という本を開いたら
詩人の長田弘さんが、見知らぬ町を旅していた。
喫茶店に腰を下ろした詩人は
ふぅ…と溜息をひとつ、吐き出し
哀しい歴史を帯 ....
冬の冷気が
身体に刺さり、抜けてゆく
雪の一片が
銀木犀の花弁に見えて
淡雪の香りが心を満たした
視界の端で誰かが動く
誰もいない
ただの錯覚
既視感
また君じゃなか ....
都会の住宅街の歩道を 年末を迎えようとする空から
心臓に刺さる零度の雨が 濡れ落ち葉にも突き刺さる
若葉だった頃 親木が大切に繁らせた「父」という葉は
厳格ではなく 風が吹けば吹くまま ....
約束の日の天気予報は雨。
神様、お願い。
雨、雪に変われ!
波のない、凪いだ海、森のなかの湖、
そこに立つ漣、私は水、悲しい水、
誰かはそれを泪と呼ぶ、
出るべきところから水が流れ落ちるという事象に対して
なぜひとは悲しみだなんて、
うつくしいタイト ....
母ちゃんが、洗濯物の皺をのばして
竿に衣服を干している。
実家を離れて久しい
娘についての深い悩みを
ひと時、忘れて。
日にましろく照らされた
タオルを
丹念に、のばして。
....
お父さんはきょうだれとも話さなかった
たくさんたくさん
お母さんは赤ちゃんと話をしたのだろう
お母さんは話し足りていたから
お父さんはただ眠たいなみだのなかにいる
だ ....
神も仏もないので
修羅は泣いた
結晶が壊れてゆく傍らで
産女の子が動いた
それでも生きていかねばならない
あり続けるのなら
甘んじて
それができないのなら
修羅はすべてを捨 ....
世界のずっと東にある農村では
もっと西の都会よりも早く
夜明けが始まっているはずなのに
朝を待ち続ける
不思議な潅木がある
新緑が芽吹く軟らかい音が聴こえる
....
「かわいい」
保育園の部屋に初めて入った周を
年長の女の子が、迎えてくれた
「じゃあね」
僕と妻はにこやかに手をふって
若い保育士さんに抱っこされたまま
きょとん、とする周をあずけてか ....
わたしの母は詩をかいていた。
いつもテーブルの上に無造作に置いて
あったのでたまによんでは見たけれど
それはよくわからないものであったよ
うに記憶している。そもそも小学生の
わたしにはよ ....
潮騒を聞いてあなたを見ていたのあなたはずっと海を見ていた
ひきだしのおくから
あなごりょうりのみせの
チラシをみつけた
いつかちちを
つれていきたくてとっていた
チラシだった
あなごが
すきかきらいかなんて
かまわなかった ....
幸せな 人見て吾が身 嘆く我が
いやらしかなし ゆく日の気配
なにかをやりつづけていると
なにかをやりつづけているなりに
できているわたしがいる
こんなこともできるんだね
あるひとが
あるわたしをみつけて
いってくれた
それでい ....
必要と
している同士
出会うこと
悩み学びつ
良いタイミングで
風の中 金木犀の香りして
会えない季節 四つ数える
その肌の 温もり 匂い 思い出し
会えない時間と距離つら憎く
オレンジの アスタリスクを ....
天はどこまでも
果てしない
地はどこまでも
底がない
起き上がれ
勇者どもよ
立ち上がれ
賢者どもよ
一度きりの人生
有効に生きよう
ではないか?
人を愛そう!
何とか追いついたもので袖をふるなんてふとした呼吸がある落ちこみ隔て窪み凹み雨宿りする気なし縞模様の空は晴れている夜だ
君がわたる
私がある
前から踏んでいったステップが宙の階段を蹴着 ....
ははににたろうばが
えきのまえにすわってる
ちいさなリュックひとつで
このひとにも
かつてしあわせなひびがあったのだ
としったのは
わたしがこえをかけたからだ
それだけでわた ....
老人ホームのお婆ちゃん達の前に
エプロン姿の僕は立ち
「花嫁修業です!」と言いながら
台の上にボールを乗せて
今日のおやつのお好み焼きの生地を
でっかい泡立て器を握り
ぐるぐる ....
私の小さな声が聞こえますか?
この小さな息づきが聞こえますか
心臓を
守って
眠っている
今にも落ちそうに
大きく揺れている 鈴の音は
広すぎる世界の隅々まで
響き渡らせるには ....
君の夢を見たら
君のことせいいっぱい愛したくなった
それって当然のことだとおもうんだ
エアコンをつけっぱなしで寝ちゃったから
頭はがんがんするし
鼻もぐじゅぐじゅなんだけど
君の偶 ....
息吹を置き去りにして君は
素直になった
砂を走った
八月は並行して走る
水打ち際で風に舞った
戸惑いは前触れもなしに
鮮やかなモノローグを割いて
今ここに君といることを
あまりにも ....
コンビニエンスストアで働く大学生は
夜な夜な床にポリッシャーをかけながら
有線放送の音楽に耳を傾けている
ちっぽけな自分の有様 理不尽な世界の情勢
半年も前の性交渉とか 自己流の写真のこと
....
かなしみの花を敷き詰めたその
庭園であなたは白い息を吐くの
見失うために出会う速度超過の
ただ二千年に一度の出会いだよ
もう表面張力ではとめられない
世界は私の網膜で壊れていくよ
....
虫取りの子たちが
アジサイの茂みに見え隠れする
夢の色を追いかけて
おおきくなってしまった
ぼくは
その動きをなぞることができない
思い出して叫んでみても
ブランコの揺れと ....
鏡の中に
鏡の中に、ともに映った
妻の姿と僕
にっこり微笑んで
買い物のため
二人で訪れた,スーパー
明日は。その後は
君と僕
きっと幸せだろうね
三十二年一緒だ
君には少 ....
ぼくには廊下を走るしかないのか
なにもできずに世界の一員であることを
ぼくは駆けつけることもできなかった
文学で立ち向かえるのか
どうやって立ち向かうのか
立ち向かう理由なんてあるのか
....
じっと見つめると
あなたのようにあまく
とけてゆく夏を
シロップのように
かき氷にかけると
ひんやりつめたい
つまりね。
あなたに向かって
ただ今咲いています
そういうメッセージ
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