塾の講師になって二年
はじめから
教えられることなど
何一つなかったのかもしれない
今日も一人の生徒が
僕のもとを去ってゆく
「高校へ行ったら、此処へは戻ってくるな ....
朝起きると武士だった
(拙者、もうしばらく眠るでござる
と、布団を被ったが
あっさり古女房に引き剥がされた
長葱を{ルビ購=あがな}ってこいという
女房殿はいつからあんなに強くなったのだろう ....
妻が子を産んだ。
女の子である。
わたしの子ではない。
山神さまの子だと妻は言う。
山神さまの子は妻に似て、
肌が白い。
むずかると、
白い肌を紅くして泣 ....
夜行列車の車窓。
夜明け前の雪国。
宙に舞う風雪。
山々の裏に潜む朝陽に
うっすらと浮かび上がる
ましろい雪原。
( {ルビ転寝=うたたね}の合間
( 車窓の外に離れて浮 ....
しろいしろい部屋に
しろいしろいテーブルと椅子
しろいしろいお皿に
なにかうつくしい食べるもの
朝の桃色の光が
しろいしろい部屋の
しろいしろいテーブルと椅子と
しろいしろいお皿と
....
しんかんせんが はっしゃする
ぐんぐんとはなれゆくきみのすむまちへ
ことばにならぬおもい
かそくするしんこうほうこうにさからって
きゅっ とくちをつぐんだまま
きみのことを すき ....
どんな夜にも月は鎮座して
炎と水とがこぼれ合うから
欠けても
ゆるし
て、
けものは静かに
帰属する
荒涼の異国を踏むようにして
夢見の鮮度に奪われて
....
幼子が堅く握った手を
僅かにゆるませるように
朝の光を浴びた梅の木が
真白い花を孵化させている
豪華さはないが
身の丈に咲く、その慎ましき花に
頬を寄せれば
まだ淡い春が香る
....
キャッチボールする
子供のときのように
幼馴染と
キャッチボールする
幼馴染の大ちゃんの球は速い
少年野球やってたから
川島イーグルス
俺は 嫌いだった
疲 ....
たった一言の失言のせいで
創りあげたい美しい国の
議会はまた空転を続けている
かつての集団就職の金の卵たちが
機械化の波に押され
三高神話に駆逐され
猫もしゃくしも
大学と言 ....
ひとりの人間の哀しみに
わたしは立ち入ることができない
十日前に夫を亡くした同僚の
目の前を覆う暗闇に
指一本たりとも
わたしはふれることができない
( 背後から追い立て ....
目覚めると
駅のホームの端に立つ街灯の下で
粉雪はさらさら吹雪いておりました
次の駅の街灯の下で
雪は舞い踊っているようでした
その次の駅の街灯の下で
雪はまばらに降っ ....
血、が、
腹の上にこぼれてとどまる
暗い おまえの血 月がこぼした おまえの血
おまえは笑っている
自分からこぼれ出た色の美しさに
おまえは目を見張る
血、は、
....
雲は遅刻したけれど青空は遅刻しなかった晴れのち曇り。
曇のカーテン薄いから、
向こうが透けて、
青い影。
ぐうん空魚が、
ほわわわ ....
?.
ヒヨドリたちが庭に現れる
鳥は歌うものだと思っていた
あれは
叫びだ
桜木町から横浜に向かう道で
君は叫んで
何度も叫んで
アスファルトの上に寝転がって
....
満たされた月が
静まる夜に息をかけ
澄みわたる気配は
、まるで水の中
地に影おく木々の枝先は
水草のように揺らめきたって
浮かびあがる山の稜線で
青さを図る
私は膝をかかえ
天を ....
名古屋から来た君は
動物園通りを抜けて
髪の毛ぼさぼさで
連絡を待つ
ろくでなしの
連絡を待つ
ろくでなしは
その時ある一つのやさしさに抱かれていて
抱いていて ....
光を
真昼の太陽を 目に映す
視界は暗くなり
ただ一点太陽だけが白く浮かびあがる
そこから
視線を外すと
しばし辺りは暗転して
浮遊する幻覚となってしまった
私は
みずから ....
わたしの水は干からびる
あなたが逃げた
ささいな
謝辞に
わたしの水は追いかける
あなたがこぼした
祈りの岸から
わたしの水は溢れない
あなたがなくした
なみだの代わり
....
君の誕生日、だとしても
ケーキの苺は譲れない
ぼくはこれでも、苺が好きだ
で、次に
ぼくのじいちゃんは船長だった
海賊船の
もう随分昔のことだけれど
なんて言ったら、笑う?
笑わな ....
冬だね
ほんと
もう公園の木
裸だね
寒そうに
ねえ
踊ろう
でもまだ
カーテン
つけてないんだね
外の人々から
どう見える
だろうね
幸せな
風景か ....
「マザコン」「ニート」「友達親子」・・・色々な言葉がやや否定的に言われているけど、様々なマザコンやニートや友達親子があって、様々な原因があって、それが良いのか悪いのか、の判断もすぐにはしてはいけなくて ....
「雪の音階」
舞う羽の静かな音こぼれるよう
手のひらの中で羽化した希望(のぞみ)
こんこんとこころに積もる雪の下
あなたが埋めた種が芽を出す
....
じいちゃんの初盆
霊がいっぱい飛び回るよ
八月十五日
船にあなたの思い出
ゆらりのせて
{ルビ黄泉=よみ}へ流そう
どーいどい
鳴り止まない爆竹
どーいどい
浮かぶあなた ....
{引用=
雪睫毛、って言葉を
貴方に送る手紙の冒頭に書きたくなって
意味も勿論分からないままに
便箋を箪笥から出してきました
}
「雪睫毛」
二〇〇六年 十二月 三十一日 大 ....
しゃがみこんでジャブジャブと
わたしわ洗濯おする
みんながわたしわ白いきれええな服お着てるとゆう
わたしわぜったいいにそんな服わ着てないだから
しゃがみこんでジャブジャブと
洗濯おする
....
答えの見つからない黄昏は
何も語らず海に呑まれた
わたしはハルシオンを含んだまま
冷たい駐車場で{ルビ瞼=メ}を閉じる
柔らかな夜風が
アルコホォルの香りを運び
弛緩したピアノ線が
わた ....
かえりみち転んだら
夢が転げ落ちて、
下り坂を走り出す
過ぎ行く時に
流されないように
小さいころの夢、
つぶやきながら
闇の中 必死で
転がる夢を追いかける
夢、
追いか ....
地球上の七割は海で覆われているって言うけれど
性懲りもなく奪われてしまう命のせいで
哀しみばかりが満ちてきて
涙で水没しそうな勢いである
毎日どこかで涙が溢れ、乾く暇もなく
陸地面積を脅 ....
ぼくが
ぼくから許されて
きみがきみから贈られる
ぼくは
ぼくだけど
きみを愛しているわけで
いちたすいち、は
いまならわかる
たやすく
解ける
ぼくは
....
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