アライグマに石鹸をわたしたら
小さな手をちょこちょこ動かして
とても楽しそうにしていた
まるまるとした石鹸は
みるみるうちに小さくなり
無数の泡だけを残して
アライグマの視 ....
もこもこと頭がうずくので
シャープペンで突付いてみたら
きれいな角が、生えてきました
その角は
避雷針みたいに全部を受け止め
暖房みたいに暖かくなり
まるでパソコンのように忠実で
相 ....
いつのまにか、テレビの画面には
砂嵐が起きていて
そこに住むヤツらは
顔にターバンを巻いて
ラクダに乗りながら
ノイズで出来た歌を
陽気に歌っている
三十分前にかけたやかん
....
ねこがいた
まあるくなって
ねむってた
それはそれは気持ちよさそうで
僕もまねして
まあるくなって
ねてみたら
思ったよりさむかった
ねこを少し押してみた
目蓋に浮かぶのは 淡い光
脳裏に浮かぶのは パソコンの残照
会社から帰ると
バスタブよりもベッドよりも
まずはソファに沈みこんでしまう
ストッキングを脱ぐと
両脚が渇きを満たすよう ....
真夜中眠れずかぞえた羊
眠ろうとするほどに増えてゆく
小さな柵をとびこえて
いつしかそれは羊ではなく
羊のようなものになって
やたらと足が長かったり
やたらと顔が大きかったり
すっかり見とれて ....
呑んだくれた父が
血まみれになって帰宅したことがある
前歯が三本折れていて
目の周りは真っ黒だった
何がおきたか怖くて聞けなかったが
父は喧嘩をするような人間ではなかった
呑んだくれた ....
そうです
世界から隠れて
潜って居られる場所が要るのです
まじりけない初期衝動とだけ
ひたすらに戯れて居られる
そんなパラダイスを
とめどなく夢見てしまいます
子どもじみているの ....
我が子の繊細な横顔の
そのとりわけゆるやかな{ルビ頤=おとがい}に触れたくて
私は
そっと静かに手を伸ばす
触れたい
触れたくない
その繊細な構造を知りたいのに
やさしい{ルビ頤=おとが ....
シュレーディンガーの仔猫たちは
母を捜して彷徨っていた、
小雪ふる池のほとり、
量子の石榴をもとめる彼女は、
仔猫たちをみつけるたび貪った、
死ね、
さもなくば生きろ。
夜になると
考え事が増えて
朝も考えているけど
いつでも
今から
考えることができる
たくさんの雪の
物憂げなテレビニュースに押されて
僕は
やらなくちゃいけないことを
考える
....
いつもの時間に
スーパーのプラスチックの袋を
振り回しながら
その女の子はやってくる
道路に落ちた吸い殻を
熱心に拾い集めていく
この寒空の下に
しかも素手で
そして左 ....
昨日、ゆるせないことを話すひとがいた
その瞳は私に向かってまっすぐ
しかしその瞳の奥にぎらりと光る諸刃の刃
それは許せない事の全てを 私にぶつける眼だった
それは許せない事の全てを 私にも ....
驚くほどのことはない
わたしは、空中に髪をほどき
視線を結着させている
あこがれは、あこがれ
先天的な太陽は、この時
肺の浮沈までも漂白して
果ての分裂を結晶化している
わたしは、今 ....
私は何も無いものを持っている
全て捨てさってしまった日から
いったいどれだけの月日が流れただろう
空っぽになることで満たされたのは
きっと悲しみだったはずなのに
いつの間にか
笑うことができるよ ....
先輩が威勢良く{ルビ梯子=はしご}を駆け上がり
天井近くの狭い{ルビ頂=いただき}に腹を乗せ
{ルビ扇子=せんす}を指に挟んだ両手・両足を広げて
「 {ルビ鷹=たか}・・・! 」
と ....
紫陽花の頃
手をつないで買った気早な花火に
火を点すことは結局なかった
意地をはる間に夏は去り
空は遠のき
てのひらはかじかむ
(恋は続 ....
大阪駅
十一番線
遠い目をした
電気機関車
彼方への思いだけで
切符を買いはしなかったか?
帰るという意味を
部屋に忘れてこなかったか?
いつもどこかに
....
今朝書き終えたばかりの
手紙を紙飛行機にして
あなたへと向かう
風を探している
雲ひとつない晴天の空は
太陽の傾きが眩しすぎて
方向を示すものが
見あたらない
そこへ向かう風は ....
国語の教科書
「急がないと」の「急」が
「魚」に見えた
魚がないと大変だと思っているうちに
心もひれになって
ふわふわと泳ぎだした
先生や友達もみんな
大きい魚や小さい魚 ....
もう自分の場所に
やすらぎがあるので
という理由で
前に進むことを停めた友へ
アガー整骨院は
久茂地交差点の近くにある
それは痛いという意味なので
痛くなったらおいで ....
1.僕が許せないこと
僕のお菓子を食べること
知らない誰かにメールすること
時々黙って家を空けること
僕は君を愛している
世界で一番愛している
だから僕は君を許せない
....
君の声がどうやって千切れてゆくのか知らない
どうか耳をよせてください
いいやよせないでください
僕はカミキリ虫みたいに叫んだ
その声は成層圏を真っ二つにした
そんなわけない
ど ....
眠りに就く時間
西の窓に月明かり
眺めて寝るには
ちょうどいい
感じるほどの冷たさに
静まる鼓動
もの思うには
ちょうどいい
きのうの顔と
きょうの景色
きょうの顔と
あ ....
二年前にコップを地面にたたきつけた
この左手と
昨日捨て犬みたいな顔をしたおっさんを撫でた
この心を
燃えるような恋に溺れ、もがいた
この右手を添えて
みみっち ....
距離にたたずむ私の{ルビ首=こうべ}は
ついに飛び去ることはなく
天と地を結び
{ルビ収斂=しゅうれん}を{ルビ咽下=えんげ}している
星々がめぐり連なる
境界
深く眠る視線は果てを知 ....
待ち合い室の窓辺には
枯れそうな観葉植物がいて
誰もそれに気付かないまま
誰もがうつむいている
ただ水をあげればいい
枯れそうな観葉植物は
まだ枯れてはいないのだし
渇きをいやせれば
また青々とし ....
胎内の命いとおし幸せな君らの目方は51?
手に余るサイズとなった乳房に戸惑いながら自慢する君
母となるその日にそなえ髪を切る君はしっかりたらちねの母
あなたの為に言葉を捜す
あなたが言えない想いを言葉に託す
少しだけ
私の心もそれに乗っけて
台詞になる言葉は私の心
音になる言葉はあなたと私の魂
....
日溜まりの青空でダンスを踊る君は
或る日
突然
斑模様の水面となって
5番目のドアを叩き続ける
まるでドラムのように
5番目のドアを叩き続ける
まるで魂の叫びのように
自分が何者な ....
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