幼い男児が
  朝、
  一匹の蜥蜴を手に捕らえる
  厚い辞書に差し込んだ
  すみれ色の栞のような朝
  国
  という言葉がいま浮かんだけれど
  どうしたものか思案している



  一ヶ月近く洗っていない
  ランチョンマットには三箇所の染みがついているが
  それでも洗 ....
  手引きにそって
  あなたは杏の皮を剥ぐ



  かわいた頁がそっと
  透き通るように捲れてゆくと
  それが風のせいなのか
  陽の光のせいなのか分からない


 ....
  ひだまりのなかで
  かなわない夢をかぞえて



  暮らしたいのです
  ねむたくなるくらい
  語りあって、
  愛しあって、
  傷つけあって、



  ....
  膝を折って
  床の上に散らばった
  数枚の紙の、種類をかぞえていた



  たえがたい白さは
  閉じたドアを容易くすりぬけ
  光へと落ちぶれ
  痩せた手の甲に ....
  精一杯
  わらい疲れたあとはさ、
  窓際にいってごらん?



  夜を徹して
  つみあげられた花が
  ひとときに燃やされてゆくからさ
  空のはじっこに
   ....
  座るきみの膝に
  とうめいな猫がねころんでいて
  真っ赤なりんごを撫でている



  僕のじっぽんの指は
  オルガンの鍵盤に載せられ
  ゆるやかにだまりこむ
  ....
  椅子の上に
  左脳がひとつ置かれていた



  色褪せた譜面から
  いくつかの音符はこぼれ
  床のうえでひょこひょこ跳ね
  透き通った窓は、わたしたちと
  青 ....
  あいするひとよ、
  ほんとうの
  きみのその気持ちは
  とうめいな廊下になって



  蜘蛛の巣がからまったような
  きょうの丸い月にむかって
  ひたむきに伸 ....
  苔色の水のうえに
  釘が一本刺さっているのを
  みとめて、きみは
  小さく立ち止まった



  むし暑い夏の午後の風は
  邪悪な商人のように
  きみのポケットには ....
  陰気な病院が
  頭の方から
  青空をゆっくりと降りてくる



  逆さまになったまま
  患者のひとりは今、
  あざやかなレタスを食んでいる
  桃色の看護婦がそ ....
  夜が、
  たえまなく改行を続けているあいだ
  いくつかのケーキがゴミ箱に捨てられ
  何匹もの犬が鳴きながら焼き殺され
  きみの体に秘められた、すべての
  愛らしい軟骨は ....
  小雨の降る
  夏祭の夕べ
  タキシードを着た中国人が
  屋台と雑踏を縫って歩く
  みすぼらしい電飾にきらめく
  濡れたビニール傘の匂い



  その中国人の着 ....
  ぼくらは
  月の上で、
  胡坐をかいて麦茶を呑む
  部活を終えた中学生よろしく



  ぼくらは宇宙の果てで
  煌めく星を見ない
  空気も吸わない
  ただ ....
  割れた
  イチジクの実から
  生まれたかったわたしは
  椅子に座っている
  文鎮よりも正しく、
  鶯よりも所在無く
  

  八月、湿り気に膨らんだ夕暮れどき
  片田舎の駅に停まった盆の列車は
  沢山の人いきれと垢の臭いと
  目には見えない透明な虫とを一緒くたに載せて
  間もなく動き出そうとし ....
  

  かたすみで
  ひざまづいているような
  夜の闇に
  蚊取線香のけむりが
  しろく冷めてゆくのを



  いのるように
  きみは見ていた



   ....
  巨大な
  塊から切り落とした
  その赤い棒は
  どろりとしていて
  静かなのだが
  耳を押し当ててみると
  きいーん、
  きいーん、と
  響きが高速回転し
 ....
  ココナツを叩き割ると
  青い空がちゅるりとこぼれた



  そう、
  キミはいつも
  輝いているものを
  見かけるたび猫のように
  是非もなく追いかけた
  ....
  闇に
  眼が灯ったので



  無人の食卓はむしろ
  円く、
  青白く
  幼子の夜泣きは
  ぬるい風に裂かれ



  アスファルトの上に散る
   ....
  左眼にいっぴきの蛇
  右眼には、たくさんの魚が泳ぐ
  蒼いみずうみを湛えて
  あなたは笑う
  とてもアンバランスに



  血と肉と骨によって
  それから、回 ....
  手を振って離れた
  あの夏の暮れどき
  街の声にまぎれた
  当たりまえの毎日



  息をのむほどに
  あなたの黒い髪は
  ただ静かだったから
  赤、
 ....
  その石には
  一房の夜が埋め込まれていて
  羽をひろげた名もない鳥が
  宙返りをして遊んでいる
  ならば
  僕は
  手のひら一杯の嘘をあげる
  その重みで
  ....
  夜半、
  食器棚の中に
  銀色の双眸を宿した
  生温い女がはいっていて
  その白い吐息は
  ガラスの扉を曇らせていた



  他にはいっていたのは
  腐っ ....
  あなたの狭い部屋の
  ヤニ臭いキスと
  ヤニ臭い枕
  抱きしめられるたび
  ごんごんと揺れる古いギター



  それは嫌い
  私のしかめ面に
  気づかない ....
{引用=(煙突)

   獣たちの
   輝いていた瞳は
   もう、眼窩にひそみ
   昼の祝祭は
   夜の灰となり
   細い導管を
   遡る


(車)

 ....
{引用=  21.徹頭徹尾といったら
     それは徹頭徹尾なのであって
     尾藤イサオではないのです


  22.アイム
     パウロ・シルヴァ
     ト ....
  干草色をした
  豚の死骸の、腹の上に
  尖ったつま先を押し当て
  バレエダンサーが回転している
  白く、
  白く
  バレエダンサーが回転している
  酸素を吸い込 ....
  夢を見た
  左脚を喪った
  整った肌の少女が
  ふらふら回っているような



  君は
  か細い針金を
  丁寧に折り曲げて
  全身の骨と取りかえた

 ....
  月が
  奏で、
  室外機が歌う



  実直な夜
  君が
  眠りにつく頃には



  風が
  そっと
  欄干を滑り落ちて
  夢の水へ沈む
 ....
草野春心(1149)
タイトル カテゴリ Point 日付
[group]自由詩7*12/9/29 8:39
ことのなりゆき自由詩1212/9/20 22:23
手引き[group]自由詩212/9/20 22:12
ひだまり[group]自由詩612/9/16 21:43
紙の種類自由詩5*12/9/16 8:13
つみあげられた炎自由詩612/9/15 20:41
とうめいな猫[group]自由詩712/9/6 22:18
左脳の時間自由詩1112/9/2 9:55
あいするひとよ[group]自由詩812/8/27 22:03
水のうえの釘自由詩312/8/26 12:24
病院が墜ちる自由詩712/8/22 20:46
たえまなく改行を続けているあいだ自由詩812/8/20 23:17
祭の夜、拳銃を探す自由詩212/8/18 9:05
麦茶自由詩212/8/15 22:11
[group]自由詩212/8/15 21:55
盆の列車自由詩412/8/12 23:28
なつのいのり自由詩512/8/11 12:15
赤い棒自由詩412/8/9 22:37
ココナツ・ブルー自由詩212/8/9 22:34
闇の眼自由詩312/8/6 23:19
アンバランス自由詩312/8/5 11:40
ざわめき自由詩612/8/4 19:19
石の夜自由詩712/8/2 21:17
生温い女自由詩812/7/25 22:29
Love And Hate自由詩412/7/25 22:27
樹々へのコラージュ[group]自由詩512/7/21 8:21
詩の磁場(2)[group]自由詩212/7/21 8:05
回転自由詩3*12/7/17 0:02
シャドウ・ワルツ自由詩5*12/7/16 23:59
欄干自由詩712/7/12 23:36

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