{ルビ賽子=さいころ}が胡座をかいている
  {ルビ褥=しとね}は素っ気なく冷えている
  彼女の頬には、涙の痕がある
  それがいつどのように流されたのか、
  彼はしりたかった ....
  水母は しばらく空気をさまよって
  やがて岩にぴったりと貼りついた
  月が喋らない夜に
  三角定規ひとつだけ残された廃校で
  誰かのあくびのように だらしなく伸びていく廊下 ....
  わたしはあなたを愛していたのだろうか
  どしゃ降りの雨のなか、傘のひとつも携えず
  空の彼方を見つめているような
  そんな気持ちだった
  あなたと居るときはいつも
  た ....
  椅子に座り、瞼を閉じて 静かにしていると
  彼女の心は川の水に深くゆっくりと沈んでいく
  遠い、淵のところからあふれた透明なものたちが
  灰色にくすんだビル街を薄い膜で包みこむ ....
  細かな砂や木屑とともに その数字はガラス瓶にいれられていた
  穏やかに晴れた休日、ひと気のない公園や路地裏に出むいては
  彼は 度々そういうものを拾ってきた
  いま、彼の部屋に ....
  さっきから、あなたが
  夢中になって眺めているのは……光の断面
  あられもなく剥き出しにされ、あなたの鼻先に
  それは 突きつけられている
  鉢に植えられた何らかの緑
  ....
  朝、
  利き手ではないほうの手でつくられたような
  拙い光たちが 睦まじく庭じゅうを飛び回っている
  だが 光だけがここにあるのではない
  ここには机がある 椅子もある
 ....
  街灯の{ルビ鏤=ちりば}められた夜が 冷たい川を流れていく
  対岸に立ちならぶ水玉模様の繁華街は深雪を浴び 
  緩慢な微睡みのなかに沈みつつある
  彼女はかじかんだ躯をコートに ....
  仔馬の湿った毛並みを、
  女は なぞるように撫でていた
  よく晴れた三月の日曜日に、陽の光は
  光よりも寧ろ風に似ていた……風は吹いていなかったが、
  風は吹いていなかった ....
  ところで、
  思い出のなかのあなたは春先のキャベツのように
  何よりも甘く、温かく、笑い転げている
  意識のあやうい外縁を一匹の野良犬が走る
  窓の外で雨が降っているのかど ....
  埠頭には、柔らかな潮風の敷布が行儀よく掛けられて
  その何処かにはカモメたちの鳴き声が隠れている
  物欲しげで それでいてひどく退屈そうな
  女たちのことがふいに彼の気にかかる ....
  百葉箱のなかに置かれているのは 古めかしい爆撃機の模型である
  縞状になった日の出の薄明は その謙虚な空間へも差し込まれる
  若がえっていくのか年老いていくのか それは定かではない ....
  焼き上げたばかりのロールパンを 手早く皿に移し
  純白のシルク地のカーテンに 挨拶するみたいに軽く触れ
  彼女は朝日を一番たっぷりと浴びることのできる席についた
  だがそれは彼 ....
  けたたましい光に 四方から刺され
  花柄の水風船は 少女の手のひらで割れた
  寒々しい水滴の火花はそのまま 少女の記憶の形となる
  よく熟した七月の片田舎は 躾のいい室内犬に瓜 ....
  蛙がいっぴき、
  きみの眼のなかで凍え死んでいる
  その皮膚は潤いというものをうしなっている
  そんなことお構いなしにきみは蕎麦を食べている
  分厚いダッフルコートのボタン ....
  夢の隙間から、その日
  僥倖のような光が差しこんでいた
  雨と埃の匂いを嗅ぎながら私たちは抱きしめあった
  目を閉じたまま、腕がしびれてしまうまで……
  その日、私は女だっ ....
  朝がきた
  薄ぐらいもやの向こうに
  金色の光が輪をかけている
  あなたが いつか その手のひらに
  汲んできた水は だいぶ前に
  何処かでこぼれてしまったけれど
  ....
  風は南へいった
  月の光は道にころがり、
  小石にぶつかって止まった
  肩まであった長い髪をきって
  聖なるひとのように きみはわらう
  二人して ベランダの手すりに体 ....
  ペンキは塗られたばかりだった
  ずっと、夏のあいだじゅう
  きみはアイスクリームを食べにいった
  ぼろい車に乗って闇雲に海沿いをひた走った
  読まなくてもいい本を読んで 読 ....
  蛇口は しばしば朝だった
  時折それは睡蓮だったし
  無口な背の低い青年だったのだが
  腰から下を火燵にしまいこんで あなたが
  丸っきり正気をなくしているときなどは
  ....
  土管のうえに猫がととのっている
  紋白蝶はさえずりのように風にふくらんで
  もはや言葉の色はしていない



  捨て去られた、黒い缶コーヒー
  夕空に向けて屹立してい ....
  同刻、家の裏では百合の花の一群が燃やされていた
  大幅に腐食の進行した数々の欺瞞に関しては、
  某町の空き地を使用して年末迄には燃やされる手筈になっている
  水槽……
  そ ....
  伴奏のない音楽をきいていた
  たぶん
  心のなかで
  夕暮れの時間が
  まぢかにせまっていたあのとき
  ひとりでブランコに座っているきみをみつけた



  し ....
  遠くまで、
  その日は夜霧でなにもみえなかった
  ダッシュボードに置かれた読みかけの雑誌は
  信号の赤を浴びるとき、諦めたようにあなたの膝に落ちた
  まるで亀の甲羅のように ....
  貘の食べ残した悪い夢が
  きみの唇のまわりに散らかっている朝
  窓越しにみえる庭は 素晴らしく綺麗だ
  気丈な松の樹に 少しだけ雪がかぶさって
  玉砂利は少女のごとく濡れ  ....
  さびしいことを言ってくれ
  秋の幕がひかれるころに
  紅葉色のセーターに袖をとおして
  氷雨の似合う 唇のような{ルビ瞳=め}をして
  かなしくてたまらなくなることを言って ....
  小学生が輪になって栗拾いをしている
  裸になった枯れ木の足もとに 赤と黒のランドセルを抛って
  わたしはコートの内ポケットから名刺入れを手にとって
  なんだか ひどくかなしい気 ....
  白鳥はうつくしい
  あなたの細い両の腕は、きょうも
  わたしの首をきりきりと締めつけていた



  あなたの長い髪の毛は
  あなたの言葉に似ていない
  みじかくけ ....
  ビールジョッキをあしらった看板から
  たっぷりとした影が道に{ルビ溢=こぼ}れていた
  旅の荷をおろした無口な男は
  これから何処まで往くのだろうか
  それは 知りようもな ....
  夕暮れのなかで 光たちは話をしていた
  かつて朝日だったとき じぶんがどんな色をしていたか
  藍色の 円い 夜のうちのひとつになって
  薄暗くとけていくことへの 微かな畏れにつ ....
草野春心(1124)
タイトル カテゴリ Point 日付
エーテル 14自由詩214/1/19 20:41
エーテル 13自由詩414/1/19 12:08
エーテル 12[group]自由詩314/1/13 20:17
エーテル 11自由詩314/1/13 18:21
エーテル 10自由詩314/1/12 23:24
エーテル 9自由詩214/1/12 17:49
エーテル 8自由詩314/1/5 23:45
エーテル 7自由詩214/1/5 19:09
エーテル 6自由詩313/12/29 23:27
エーテル 5自由詩313/12/28 18:24
エーテル 4自由詩113/12/26 18:03
エーテル 3自由詩213/12/26 14:34
エーテル 2自由詩313/12/24 0:49
エーテル自由詩013/12/24 0:00
蕎麦屋自由詩213/12/21 11:50
僥倖自由詩113/12/21 10:17
むかしの歌自由詩913/12/20 22:50
風は南へ[group]自由詩213/12/17 23:25
ペンキ自由詩413/12/14 0:23
朝がくるということ[group]自由詩3*13/12/14 0:12
[group]自由詩513/12/12 22:46
言葉たちの去就自由詩213/12/11 23:09
少し早い月のように自由詩313/12/10 22:55
透明な死人のために自由詩413/12/9 0:12
王の庭自由詩913/12/7 10:37
たそがれ[group]自由詩713/12/6 0:15
栗拾い自由詩413/12/5 23:17
白鳥はうつくしい自由詩313/12/5 0:10
歴史書[group]自由詩413/12/1 21:08
光たち、影たち自由詩613/12/1 17:05

Home 戻る 最新へ 次へ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 
0.11sec.