傘の似合う日
  けれど雨はふっていない
  ベッドで女がねむっている
  醜く大きな口を開いて
  その腕に巻かれた腕時計の針が
  淀みなく回っているのはひどく滑稽だ
   ....
  春がきて
  やぶれた椅子に
  ラムネ瓶が座っている



  恋をして
  想うのは
  詮無いことだけ
  詮無いことだけ
  詮無いことだけ



   ....
  僕のなまえがとけてゆく
  きみの
  鎖骨にたまる、
  やさしげな影の湖で



  カタツムリの殻のような
  気だるい模様を描いて
  きみのなまえもとけてゆく
 ....
  ひかえめな大きさの
  山の中腹に建つ小屋で
  ハリネズミと時を共にする
  ところどころに開いた隙間から
  緑色に澄んだ風がしのびこんでくる
  ひどく惨めな小屋
  私 ....
  かなしみに塩をふる
  ほんのひとつまみ



  朝の光を浴びるとき
  雨に濡れたいくつもの言葉が
  「うれしい」という言葉に変わる
  あなたのえくぼが深くなるとき ....
  赤い女が
  椅子に座っている
  詩のような塵と
  塵のような詩が
  電子のように周囲をまわる
  アーモンド
  バームクーヘン
  傷ひとつない夕暮れ



 ....
  よれよれの野球帽をかぶった
  一人の男が歩道に立って
  車の往来を眺めている
  肌寒い初春の朝に



  ジャンパーのポケットに突っ込んだ
  両の手をもぞもぞさせ ....
  ざらついた道にとまった
  いっぴきの天道虫を
  きみの足がよけた



  たとえ空が青くても
  心が翳る日はあるけれど
  分厚い雲からこぼれた雨を
  きみとい ....
  緑しげる季節に
  ぼくたちが出会うとき
  そこへと水がながれ
  そこへと水がたまり
  そこから水がぬけた
  だからだろうか
  白昼よりたしかで
  暗闇よりくるし ....
  井の頭の夜に
  ラブホテルがひかっている
  いのちのかなでるはかないワルツ
  塵が山になり
  山はまた塵になる
  井の頭の夜
  黄色くかがやくラブホテル
  木の ....
  春うらら
  くじら雲ながれて
  どこでまた会えるの?
  そらの青ゆれるころ
  その笑顔、忘れそう



  水さらら、
  宵の月ながして
  どこでまた会える ....
  縁側に置かれた
  座布団にひなたと
  猫のにおいが残っている



  どこかで水が流れているのに
  影も形も消えてしまったみたいだ
  風に運ばれ
  気まぐれな ....
  透明な石になりたかった
  あなたのからだを
  ただ
  通過するだけの



  暴かれることのない
  巧妙な嘘になりたかった
  ひとのこころのくらがりに
   ....
  筏を組み上げて
  稲穂の海へと浮かべる
  あなたの両眼にはいつも
  息をのむほど静かな炎が灯っている
  風が吹いて黄金の波が揺れる
  考えていたことを忘れてしまう
  ....
  きみの親指と
  ひとさし指の間を
  一羽の兎が往復している



  冬の夜がするどい針金を張る
  白い煙がきみから蕩け
  それからあわ立ち、
  草原を{ルビ艶 ....
  数匹の
  空を走る鼠たち
  太陽を追いかけて



  アンテナ
  風と風が起こすかすかな摩擦熱
  あなたの悲哀はゲーセンのメダルと同じ形
  あなたの歓喜は書物 ....
  魚を燃していたのだと
  きみが言う
  誰にともなく
  酸化をはじめたばかりの
  鉄の表面に似て



  せつないくるしい
  いとしいさびしい
  かなしいや ....
  春の光が曇天を縫い
  硬い空気を細く通り抜けてくる
  すべては卓上に出揃った
  いくつかの瞳、
  いくつかの臓器



  毟り取られた数枚の花弁
  床に落ち埃 ....
  雨が降り木々の葉は濡れた
  川沿いに張られたガードレールの錆び
  秘密を抱えるように口を噤む家並み
  けれども日記帳にしみこんだ太陽の匂いを
  夜がきてもこの胸に憶えている ....
{引用=――はるな「物語たち」に寄せて}


  つめたい夜がやってきて
  わたしの両手の爪を、一枚いちまい
  丁寧にはいでいった



  つめたい夜がやってきて
  物語の ....
  毒は出ていった
  二階の部屋の窓から
  小さくてかたい何かが
  机にしまわれる音をのこして



  ゆうべの雨がつくった
  川になりきれぬ、ささやかな
  水の ....
  吉祥寺駅の
  ロータリーでしゃがんで
  靴ひもをむすぶ
  あちこちに捨てられた
  煙草はどれもしめっていて
  茶色い葉がとびだしてしまっている



  きみと ....
  時計の針が午後にすすむ
  ぬかるみに片方の足をつっこむ
  目に見えぬ羽虫をよけるような、
  ぞんざいなしぐさでカーテンを閉めた
  


  部屋の卓上に置かれていた
 ....
  長靴の似あう男になるよ
  そこらに散らばる水たまり
  しょぼいスキップで駆けぬけてくよ



  きみが
  うまく涙を落とせない日は
  かたほうの手をギュッと握るよ ....
  無数の傷のついたフライパンで
  三枚のベーコンを焼いている
  その男はただの大人だった
  円周率を小数点以下八桁まで記憶し
  足指のひとつに水虫をわずらう



  ....
  めぇいっぱいのかなしみを
  ちいさなかばんにつめてたら
  ほころびからおちていった
  あたりまえだ
  ふゆのあおぞら
  ふゆのあおぞら
  かぜがふいた
  ほころ ....
  きょうの朝は、
  灰色の水にひたされている



  人びとは鈍い眼をしてさがしている
  ありもしない排水溝や
  冬の葉のかけら、
  あるいは大切なひとの
  い ....
  居酒屋にはいると男は
  コートを椅子の背にかけ
  焼酎と焼いた秋刀魚を頼む
  それからラークに火をつけて
  深く吸い、
  重く吐き出す
  カウンターに載せられたテレ ....
  煙草屋のわきに
  ポストがたっている
  阿呆みたいに



  屋根をつたって
  落ちてくる雨だれをうけ
  それは錆びてしまっていて
  もう誰も近づいたりしない ....
  どうしてこんなに
  あなたを好きかわからない
  あたまのなかに星がうかんで
  どんな夜よりはっきりかがやく


  どうしてこんなに
  たんじゅんなことを伝えられない
 ....
草野春心(1124)
タイトル カテゴリ Point 日付
傘の似合う日自由詩313/4/21 9:05
アコーディオン自由詩213/4/20 12:18
きみと出会った日自由詩613/4/20 8:49
ハリネズミ自由詩313/4/17 23:06
自由詩613/4/10 20:01
赤い女[group]自由詩313/4/7 11:30
影のような男自由詩313/4/7 10:07
天道虫[group]自由詩313/4/4 23:43
水のありか自由詩413/4/4 22:15
ラブホテル[group]自由詩413/4/4 0:12
ゆめのわ自由詩413/3/31 11:18
座布団自由詩1113/3/28 23:21
Being自由詩713/3/28 0:32
自由詩513/3/25 0:08
指と兎自由詩513/3/24 23:39
アンテナ自由詩413/3/21 23:45
魚を燃す自由詩713/3/20 21:58
祭壇自由詩6*13/3/20 14:29
自由詩9*13/3/19 23:39
物語へ自由詩5*13/3/12 21:20
自由詩513/3/9 17:36
ロータリー自由詩8*13/3/3 15:51
自由詩613/3/3 13:33
つばさ[group]自由詩813/3/1 20:13
大人自由詩513/2/25 23:58
ふゆのあおぞら自由詩313/2/21 0:14
灰色の水自由詩413/2/20 22:30
秋刀魚自由詩7*13/2/19 22:47
ポスト[group]自由詩7*13/2/13 21:50
ラブレター自由詩613/2/9 19:37

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