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しかし、ハッジズにはそれでも捨てられない野心があった。
アースランテをライランテ大陸一の国家にする、という思いである。
彼の価値基準によれば、クールラント、ラゴス、
そしてファシブルは滅ぼされね ....
そのころ、ハッジズ・ア・ラ・ガランデは、
息子であるクレールとともに、ファシブルの軍勢と対していた。
それは、アースランテの国内における、
ファシブル領の領民たちが反旗を翻していたからである。
 ....
その時、クーラスの密使が部屋の中に入ってきた。
密使は、祭祀クーラスの耳元に何やらささやく。
祭祀クーラスは、にやりと口の端を歪ませた。
「イリアス殿。どうやら、貴女の期待は裏切られるようです」 ....
少女は泣いていた。
それは、何年ぶりの涙だったろうか。

少女は、泣いていた。
物心がついて以来、

少女は己の無力を、
顧みたことがなかった。

しかし、今は涙の時だ。
少女は、 ....
夢はまぼろし。夢はどこにあったのだろうか?
わたしの心のなかに? わたしの未来に?

問うても詮無いことを、今さらのように言葉にして、
わたしは言葉の轍を行く。

そうね。そうして、どこへ ....
月の満ち欠けに思いをたくして、
わたしのこころは欠け、
また満ちる。

思い出のなかに、幸福はあったか?
いや、幸福などというものに、
価値はあったか?

月の満ち欠けに思いを尋ねて、 ....
「あなたには一つの弱点があります。{ルビ祭祀=ドルイド}クーラス。
 それは、あなたがわたしを十三歳の小娘だと思っていることです。
 わたしは、数々の秘密の教えを受けてきました。
 アースランテ ....
イリアス・ナディは自分の運命を受け入れていた。
アイソニアの騎士が己の命を全うしていても。
十三歳という年齢を比しても、アイソニアの騎士は、
世界の安寧を守ろうとしていたのである。

「グー ....
「何度でも言います。わたしは世界の行く末の鍵にはなりません」
「ははは。そう思っているのは、あなただけですよ。
 現に、アイソニアの騎士は、この場所へと向かっている」
「グーリガン様……」

 ....
「アースランテは負けません。クールラントにも、
 ラゴスにも、ファシブルにも……」
「あなたは、一つ事を忘れています。ヒスフェル聖国です」
「ヒスフェル聖国……」イリアスは息を呑んだ。

「 ....
「クールラントは、中立を保とうとしています」祭祀クーラスは言う。
「そのためにも、アイソニアの騎士を我が国に取り戻したいのです」
それが嘘だということを、イリアスは即座に見抜いた。
「あなたは何 ....
「あなた方がアイソニアの騎士と呼ぶ人物、
 グーリガン様は、私情のために国を売る人物ではありません。
 今この瞬間も、あなたたちを倒そうとしているのです」
「それは、あなたの懸想による妄言ですね ....
麻袋の中から出されたイリアスは、数日食事を取っていなかった。
その表情は、憔悴して青ざめている。
その眼前に、祭祀クーラスが彼女を{ルビ睨=ね}め付けている。
「なんだ、こんな子供か! アイソニ ....
二日の時が経った。フランキスは、
再び祭祀クーラス邸を訪れていた。
そこで交わされる密談は、今後のクールラントの行方、
そしてライランテ大陸の行方を必ず左右するはずだった。

その時、祭祀ク ....
「ところでだ、フランキス。お前はよもや、
 クシュリーの身を奪い損なったからと言って、
 わたしを裏切ろうとしてなどいないだろうな?」
そのクーラスの言葉に、フランキスは思わず青ざめた。

 ....
「先ほど、アースランテからの早馬が到着しました。
 イリアス・ナディの身柄は、クールラントへと向かっているとのことです」
フランキスは、祭祀クーラスの激昂に触れないように、細心の注意をもって言った ....
「それが、クーラス様。思わぬ邪魔が入ったのです。
 戦士エイソスの邸宅には、エインスベルがおりました」
「なんだと?」クーラスが顔色を変える。
「あれは、リーリンディア監獄に幽閉されているはず… ....
フランキス・ユーランディアは祭祀クーラスの面前に控えていた。
心のなかには、エインスベルに言われた言葉がよぎる。
「祭祀クーラスを暗殺してほしい」と。
それは、フランキスが心から戦慄した瞬間だっ ....
エインスベルは一瞬戸惑ったが、次の瞬間には自身を取り戻していた。
「貴女の言いたいことは、よく分かった。要は、
 有言実行を他者に対しても敷衍せよ、ということなのであろう?
 しかし、己の身を己 ....
「まずは根拠を示してほしい。何故、わたしが世界を滅ぼすのか?」
「それは、貴女自身が分かっておいでです。貴女は復讐を是としている。
 それは、やがては世界そのものへと向かうものです。
 古の賢者 ....
「貴女は、わたしが世界を滅ぼすと言うのか?」と、エインスベル。
「そうです」クシュリーは、きっぱりと言い切った。
「しかし、わたしは貴女を救った。わたしが世界を滅ぼすのであれば、
 貴女の命を救 ....
「この世にはそもそも、魔導などというものはなかったのです。
 この世には、祈りだけがありました。それがいつしか、
 人々は魔導に頼り、この世からすべての言葉が失われました。
 それが言語崩壊の真 ....
そして一同の前に、クシュリー・クリスティナが現れた。
彼女は青白い顔をして、戦士エイソスを見つめる。
自分がどうしてここで招かれたのか分からない、といった表情だった。
その面持ちを、エインスベル ....
「クシュリーを呼ぼう」唐突に、戦士エイソスが言った。
「彼女は、未来を見通す力を持っている。そして、言葉によって、
 現世を変える力を持っている。俺も彼女の力の半分ほども分からないが、
 彼女は ....
この世界での戦いは、すでに国家間の戦いではなくなろうとしているのだ。
現世と異界、人々と魔物。そんな戦いが始まろうとしている。
祭祀クーラスは、そんな世界にあっては小物だ。しかし、
小物が世界の ....
「いや、戦争ならばまだ良い。いつの時代にあっても、
 人と人との争いは絶えなかった。今はそれが問題ではない。
 ヨランが知らせてくれたのだ。この壮大な戦いの後ろに、
 エランドル・エゴリスが構え ....
そのころ、エインスベルはフランキス・ユーランディアを解放していた。
「あいつは、上手くやりますかね? 再び祭祀クーラスに寝返るのでは?」
そんなリグナロスの疑念を、エインスベルは一蹴した。
「彼 ....
「おのれ、ガージェス・ノルディア! 俺のイリアスをどうしたと言うのだ!」
アイソニアの騎士は、怒りに駆られるままに言った。
しかし、その言葉が、言動が、彼自身の運命を縮めさせるものだとは、
この ....
たしかに、イリアス・ナディは、クールラントの国で幽閉されていた。
アイソニアの騎士は、何よりもそれを恐れていた。
祭祀クーラスが、イリアス・ナディを虜にしていることを。
そして、それは今や現実の ....
「他愛もない戦いでしたね」と、ヨランは言った。
「いや、そうでもない。ガージェスのあの奇策、
 お前がいなければ、わたしは勝てなかったかもしれない」
「千人隊長のあなたがですか?」ヨランは驚く。 ....
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エインスベルの逡巡(三)- 朧月夜自由詩2*22-12-16
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暗闇のなかの戦い(六)- 朧月夜自由詩1*22-12-14
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