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アイソニアの騎士は居室で佇んでいた。そこに取り縋った者があった。
イリアス・ナディである。彼女は言った、
「グーリガン様、あなたは今どこへ行こうとしているのですか?
 あなた様は、わたしにはいつ ....
「あなた様には、二日の猶予をさしあげましょう」と、ヨラン。
「いいえ、猶予などと不遜なことは申し上げますまい。
 二日間の間、じっくりと考えてくださいませ。世界のことについて」
「世界だと?」ア ....
「お前はここで何をしている?」アイソニアの騎士は、腰の剣に手をかけた。
祭祀クーラスがエインスベルを処刑しようとしている今、
クールラントの裏切り者であるアイソニアの騎士に対して、
刺客が振り向 ....
「馬鹿な。アイソニアの騎士は裏切り者だ。
 いつ世界を裏切るやも知れぬ、悪党だ」エイミノアは切り返した。
「一人の悪党にも、五分の魂というものがあります。
 わたしはそれに賭けたいのです」ヨラン ....
「お前の言葉には、根拠というものが欠けている。
 お前はすべてを自分の思惑通りに、そして、感性に従って、
 行動しているのではないか?」エイミノアの疑念はさらに増した。
「いいえ、あなた様にも分 ....
「そうです。ここはまぎれもなく、アイソニアの騎士の私邸です。
 あなたも薄々、そのことは感じていたのではありませんか?」
「なんと言うことだ、一度ならず二度までも、他人の家に侵入するとは……
  ....
瞬く光が、ヨランとエイミノアとを包み込んだ。
「これは何か?」、エイミノアは恐れと懐疑の念とに捕らわれた。
(四肢が溶けていくではないか? いったい何事が起ったというのか!)
そんなふうに恐れる ....
その時のオスファハンの怒りは、静かながらすさまじかった。
それは憤激とも、恩讐の念とも言えるものだったろう。
ライランテ戦争の際に、エインスベルが放ったヒアシム・カインの魔法。
それをまだ、オス ....
しかし、ヨランとエイミノアが再び地下室への通路へと潜ろうとしていた時、
一人の来訪者があった。それは、魔導士オスファハンである。
「ねずみがかかったな。わたしの書庫を荒らしてどうするつもりだ?」
 ....
ヨランは、その暗視の能力を活かしながら、次々と書物のページをめくっていく。
いい加減に、エイミノアは忍耐心を失いつつあった。
それは、オークという種族の特性であろう。
エイミノアを始めとしたオー ....
盗賊ヨランとエイミノアは、地下室からの狭い抜け穴を辿っていく。
二人とも、這いずりながら四つん這いの姿勢である。
「おい、盗賊、これが本当に出口へと通じるのであろうな?」
「もし、この穴が単なる ....
「もっと詳しく話せ。お前は、その他にここでどんなものを見つけた?」
エイミノアが明らかに焦った表情をして、言う。
盗賊ヨランは、ただ漫然とここに捕らわれていたわけではなかったのだ。
(なんたる不 ....
「ご覧ください。これは木切れではありません。燐寸と言うものです」
ヨランは静かに言葉を続ける。
「燐寸? それは何かの魔道具なのか?」
「いいえ、魔道具ではありません。科学の道具です」

「 ....
「これは魔法ではありません。火を起こす道具です。
 どうです? 今は、あなた様にもこの紙片がご覧になれるでしょう?」
「うむ。しかし、分かり兼ねるな、これが何を意味しているのだ?」
エイミノアは ....
「では、何だと言うのか? この部屋は、我らを閉じ込めておくための、
 牢獄ではないと言うのか? オスファハンは、
 エインスベル様の、そしてクールラントの敵に違いないのだ。
 祭祀クーラスとも通 ....
「なんだと! お前はそれを知って、黙っていたというのか?」
エイミノアの怒りは、さらに激しくなった。
「はい。わたしどもがここに捕らわれた、そに日のうちに」
「それを我に隠していたというのか!」 ....
ヨランとエイミノアが、オスファハン邸の地下室に捕らわれてから、
およそ三日の日にちが経った。
エイミノアは憮然としている。
それもそのはずだ、ヨランはいっこうに動こうとしない。

「おい盗賊 ....
「俺はこんなにも無力だったのか!」
怒声とともに、アイソニアの騎士は机を叩いた。
「くそっ、祭祀クーラスめ!」その憤怒は収まらない。
彼の怒りは、その召使たちにも向けられた。

「お前たちは ....
「軽々な発言はしないほうが良いぞ」
エインスベルは、振り向かずに言った。
「ご安心くださいませ。わたしはあなた様の味方です。
 そして、祭祀クーラスを憎む者です」リグナロスの声が響く。

「 ....
石壁に横顔を当てて、エインスベルは耳をそばだてていた。
廊下の向こうから、足音が近づいてくる。
エインスベルは急いで寝所に潜り込む。
その足音、それはリグナロス・アルテのものだった。

エイ ....
戸外では叩きつけるような雨が降っていた。祭祀クーラスは、
一人考え込むように、チェザリの盤面を見つめている。
時折雷鳴がとどろいた。しかし、クーラスは動じない。
ふと見上げると、蠟燭の炎がゆらめ ....
アーゼン・クラウトとは、ヒスフェル聖国の闇の組織である。
その影の仕事によって、ヒスフェル聖国は小国ながらも、繁栄してきた。
しかし、オスファハンにはアーゼン・クラウトを取り仕切る力はない。
今 ....
「オスファハン様、どうしてあのようなことをお話しに?」
石造りの牢獄を出ると、オスファハンの侍従長が待ち構えていた。
「控えていろと言ったはずだ。命令が聞こえなかったのか?」
「はっ。それは心得 ....
「わたしはそれを探り出してみせますよ」ヨランが再び微笑する。
「それがお嫌であれば、今すぐわたしを殺すことです」
「わたしはクールラントとの火種を望んでいない。
 お前も、そこにいる傭兵も、わた ....
「ハーレスケイド? そんな幽冥界の名は聞いたことがありませんが?」
「それもそのはずだ。他国の文献には載っていまい。
 ハーレスケイドは、時間が止まった冥界、とも呼ばれている」
「冥界? それは ....
「エインスベル様は今、虹色の魔法石による結界によって、
 リーリンディアの監獄に封じ込められているのです!」
ヨランは勢い込んで言った。その急な変化に、エイミノアも圧倒される。
「どうかわたしに ....
「それは出来ない。ライランテの諸国家では、内政干渉は禁じられている」
「それは平時の場合でしょう。今もしや、再び戦乱が起きたとしたら?」
「それはない。アースランテもファシブルも、今や戦いをする余 ....
そこは、地下室のような場所だった。辺りは薄暗い。
しかし、盗賊ヨランには暗視の能力があった。
その隣で、エイミノアは逡巡している。
「ここは、きっと牢獄のようなものでしょう」ヨランが言う。

 ....
その時、窓ガラスの割れる音を聞きつけた衛兵たちが、
部屋のなかに駆け込んできた。「オスファハン様、どうしたのですか?」
「遅いぞ、お前たち」「はっ、申し訳ありません。そして、その者たちは?」
「 ....
(この短時間に、話をエインスベル様のことへ持っていくとは……)
エイミノアは、感嘆していた。盗賊ヨランは、ただ者ではないのかもしれない。
エイミノアは、ヨランとオスファハンとを交互に見つめた。
 ....
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タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
アイソニアの騎士の決断(二)- 朧月夜自由詩1*22-8-11
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