おとこが夜中にやってくる
そのおとこは生まれたことがないのである
いっしょにゆこう
どこへ
とおくへ
くちびるでかすかに笑っている
いそいそと身を起こして
服を着て出ていこうとすると
....
土曜日の午後はいつも満室
会うのは今日で最後
ベッドに並んで
チャットアプリを削除する
さようなら。元気でね
父の命日
墓石の花立に梅の枝を挿す
ねえ、元気にしてる?
遅くなっ ....
二〇一五年八月一日 「恋」
恋については、それが間抜けな誤解から生じたものでも、「うつくしい誤解からはじまったのだ。」と言うべきである。
二〇一五年八月二日 「ディーズ・アイズ。 ....
海よりもとおい海の
浜辺には声の真空があり
水と石だけがきざまれて在る
列島の等高線をきりおとして
おんなたちは口々に
あれが星の曲率なのだとささやく
だがひとえに言ってしまえ ....
有刺鉄線をいじっていたら
異常にこんがらがって溶け始めた
俺の熱のせいか、指先は既に燃えていた
閉じ込められたまま閉じ篭もったまま
砂漠に墜ちたプロペラ飛行機
赤いいきもの達が列を ....
玄関を出るときいつも気になっていた
軒先に干されていた玉葱たち
錆びた脚立の三段目に簀子をまたがせ
置かれた大量の玉葱
大きなビニール袋の下では
腐ってしまうその中身を
丁寧に木板の上 ....
二〇一五年七月一日 「I made it。」
あ
かるい
ステップで
歩こう
あ
かるい
ステップで
歩くんだ
もう参考書なんか
いらない
問題集も
捨てて ....
訪れたのは君に会うためじゃない
そもそも君は此処にはいない
谷の翌檜が風邪を引いたので
薬を届けに行くところだ
足のない風が五線譜をくすぐり
君はひと振りの枯れ枝
弦に乗せた指が踊り始 ....
必要なのは、ひろい思考とおもう。
ひろびろとあかるくつめたく心地の良い部屋。
しかもいつどこにいてもそこに行くことのできる。
わたしはふだん灰色の部屋にいますが、
そしてその部屋にはドアー ....
……おいで……、……オイデ……たたたたたっ、
ざ……オイデ、……おいで……、
だれ、
そうして目を、覚ました、厭わしい、あんなにハラリと逝くことができたのに。
よく仲間とし ....
幾重にも重なったチャコールグレーの雲模様
ハッヒフヘホー
バイキンマンが登場する定型場面みたいな
重すぎて緞帳になれなかった布地みたいな
そんな今朝の空を額縁にかける
やがて大粒の雨
....
二〇一五年六月一日 「こころに明かりが灯る」
以前、付き合ってた子が遊びにきてくれて、二人でDVD見たり、音楽聴いたりしてた。世界いち、かわいい顔だと、きょうも言った。「きっと、一週間 ....
ここまで生きてきてパチンコしたことない
明日人生初パチンコしようかな
お酒も人生で飲んだのコップ半分ぐらい
明日レモンサワー飲もうかな
タバコは生涯で2本吸ったことある
明日は3本吸 ....
アスファルトが選ぶ雨は
どうしてこんなに優しいのだろう?
遠い昔に私が持っていたものを
まるで知っているかのようだ
まだ誰も数えたことのない数字が
見つかってしまうかもしれない今夜
....
1.蜂蜜
海のむこうの国から
はちみつを買うきみに
くたばれと思っても
しようがないね
トースト
光
冷めちゃって、
可燃ゴミにて
代謝する
えいえんに腐らない日々 ....
ここは、森であることを、許されてはいない。
しかし、森でなかったことはない。
森について、何も知らない。
しかし、森のすべては、予め知らされている。
森を、思いだすことは、できない。
....
近所の婆さんから焼き芋をもらう
紅はるかって種類を初めて作ったとか
太い焼き芋だ
齢八十余年の初めてをいま喰っている
二〇一五年五月一日 「HとI」
アルファベットの順番に感心する。Hの横にIがあるのだ。90度回転させただけじゃないか。エッチの横に愛があるとも読める。もちろん、Iの横にHがあるとも、愛の横 ....
荒野に一つ
かがやくそれは
ぼくの悩み事をぶちやぶって
窓に張り付く次の夜から
マカロニはしるしになる
やってきては不幸をなげき
とばりの隅に隠れている
宇宙にひとつ
かがやく ....
街はいま
傾いて
春を呼ぼうとしている
四角いからだを
丸く嵌めようとした
壊しながら
(しかもそれを
愛と
呼んだりも
した)
うずうずと
傷む
気持をして
....
町並みに森の匂いがした。
公園を三つ。階段を二つ。知っているパン屋の匂い。スーパー。雑貨屋。ともだちの家。
学校を見下ろす長い坂道を下った。
社を通り過ぎて、実家を通り過ぎて、足は、足を、通り過 ....
空虚が扉を叩くので
愚かにも私はまた、
鍵を開いてしまうのです
生まれたての悪魔は
私の恋人達を連れ去っていきます
暫く経てば私を忘れて
皆幸せに暮らすのでしょう
(きっともうすぐ春 ....
二〇一五年四月一日 「少年はハーモニカの音が好きだと言った。」
これは、『ゲイ・ポエムズ』に収録した『陽の埋葬』の一つに書いた少年の言葉だった。ぼくがまだ20代だったころの話だ。なんで思い出し ....
京急のね
蒲田、平和島あたり通るころ
富士山が見える時があんのよ
そしたら何でもない車内で
あぁってじんわり沁みてくる
それが沁みてくんの
朝はもう乗ってるだけで
鬱になりそうなと ....
夜が深まっていく
連絡がつかない、繋がらない
隣室からコツコツと壁を打つ音、間欠的に
遠くの森を手繋ぎ歩いた愛娘は
青春を謳歌しているだろうか、今頃
夜が深まっていく
オレンジジュース ....
網にかかるのは風に騙され
流れ着いたポリ袋
それとも詩の振りをしたがる風が
書き散らしたメモ書き
アパートの一室で
誰にも知られず
死んだ男の履歴
携帯電話を所持していても
誰 ....
張り巡らされた枝の投網を
小鳥はすり抜ける
月の形に貼られた和紙が
空の水色を透かし
細い絵筆を並べたような
ポプラの ....
二〇一五年三月一日 「へしこ」
日知庵で、大谷良太くんと飲みながらくっちゃべりしてた。くっちゃべりながら飲んでたのかな。ケルアック、サルトル、カミュの話とかしてた。へしこ、初体験だった。大 ....
昨日から
降ってはときおり止んで
降り続くから
朝か夕か分からなくなる
冬の雨は
うすぼんやり温かい
雪になりそこねた雨に
ずっと昔にも出会ったことがある
時間のあわいのような色の ....
冬の地下室へ下りていく軟らかい階段を
見つけられない影たちが
窓枠に囲まれた薄闇の奥にたむろするので
もうないはずの衝動に駆られ
割れて逆さま ....
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