二〇二〇年九月一日 「転移」
『猿の惑星』を書いたピエール・ブールの単行本『ジャングルの耳』が、Amazon で5983円してた。ぼくは、3000円でネット古書店で買った記憶がある。3000 ....
なぜこんなきつい仕事を請けてしまうのだろうか?自問自答しながら私は三条市吉ヶ平に車を走らせていた。
次週に請け負った、二名の宿泊込み歴史の道八十里越道ガイドの仕事であったが、気分はまったく乗らな ....
古い教室の机の落書きのように
六月は音も無くひっそりとしている
机は時々降る雨音に聞き耳を立てて
暗い机の隅に棲む名もない蜘蛛と
会話を楽しんでいる
すでに廃校となった校舎の屋上で
昔 ....
─おーい夏夫くん──
青空の炎天下
青空の炎天下
青空の炎天下
夏夫くんのこぶしが水風船みたいにパチンと割れた
ポン をなくしたグーチョキパー ....
二〇二〇年八月一日 「リハーサル」
ホラー・アンソロジー『999 狂犬の夏』の4つ目は、トマス・F・モンテルオーニの「リハーサル」舞台で起こる怪異談。といっても、芝居がはけてから起こる出来 ....
二〇二〇年七月一日 「『幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる』」
『幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる』の再読終了。憶えていたのは、パトリシア・ハイスミスの「かたつむり」だけだったが、繰り返しになるが、シオド ....
骨で寝息を守る夜
祈りのなかにあるのは死
死のなかには
小さな庭を作り
可愛いベンチを飾ります
誰も彼もが座れるように
二〇二〇年六月一日 「夜のみだらな鳥」
ドノソの『夜のみだらな鳥』を読み終わった。さいごのとこらへんは、修道院に住まう老婆たちの話になっていた。ディートと呼ばれる男が老人なのか赤ん坊なのか ....
ひとつの声が磔にされた
影が七つ震えていた
見つめるだけで魚の群れを孕み
蒼いシーツをまとって巻貝を奥へと遡るひと
血を流す鍾乳石
鏡自身の顔
その微笑み
宝石箱に喰われた指
そのク ....
二〇二〇年五月一日 「柴田 望さん」
柴田 望さんから、同人詩誌『フラジゃイル』第8号を送っていただいた。お名前を知ってる方から知らない方まで、20名以上の方たちの作品が載っている。紙の質 ....
今日でゴールデンウイークが終わる。こういう期間に家業がないと落ち込むのだが、昨今のスキー場閉鎖やコロナ禍ということもあり、暇なことに慣れてしまっている。それでも暇ながら五泊ほどの客が居たと言えば居た ....
其処程には
私の死体がいるはずだ
同時に生まれてる
其処程は
空より広く海より深い
死体は時間の階段を昇る
其処程とは
もう横町を曲がったあたり
私と抱き合った瞬間
彼は ....
本物となにも変わりがなければ
にせものに対する嫌悪はどこから来るだろう
本当はにせものであることを憎めなくなっている
火星へ昇る体力がない
もうとっくに気づいていた、おれは
おれはおれのにせ ....
二〇二〇年四月一日 「論理詩」
①は②である。
②は③である。
③は①ではない。
二〇二〇年四月二日 「論理詩」
①は②より醜い。
②は③より醜い。
③は①より醜 ....
いつもの
川ぞいのみちを
いつもの
サウナスーツをきて
ふらふらはしっていると、
むこうから
春が
じてんしゃをこいで
もこもこ
やってきた。
もこもこ
も ....
情景は語彙を求めていたが、それはただ、うなだれて瞼をとじていた
季節は何度も密会を続け、新しい季節が生まれ、産毛を生やしている
空気の隙間を鵯の鳴き声が斬り裂いていく
列島は黄金色に包まれている ....
深呼吸して目眩につつまれ
手近な柵にしがみつく
両肺を染む芳しい毒素
むらさき色に染めあげた
絶え間ない恍惚にいざなう、十年ぶりの/帰郷、敗散/執着、
慨嘆/それら懐しいひとときの必要にせま ....
たまには近道を通ったほうがいいと
私の手を引いて 導く人がいる
私は
どこかへ行こうとしているのか
どこかへ帰ろうとしているのか
その人に 手を握られ 腕を引かれた瞬間
わからなく なって ....
記憶の旅をすることがある
降り立った駅では君はまだ幼くて
ディズニーランドで迷いかけて
私を見つけて半泣きしていた
おとうさんと呼ばれた時代があった
記憶は珠玉でいたましい
せつなく傷 ....
二〇二〇年三月一日 「夢」
けさ見た夢。10人くらいの男女がいて、ひとりの男が女の頭に大きな岩をぶつけて殺そうとしている。べつの男がナイフをもっていて、ぼくのほうに近づいて腕を刺したところ ....
三時四〇分に目覚め、家業宅へ移動中、雨は降っていなかった。四時半に表に出ると霧雨よりも少し大きめの粒の雨が降っていた。散歩を課していた。雨のため、歩くのをやめるという選択肢もあったが、いくぶん濡れる ....
春はみじかくて、すぐ終わってしまう。恋人の背に物語が咲いて育っている。知らないまちの空はどことなく高くて、咲きはじめたばら、パンの匂い、錆、信号機、そういうものに救いを求める。
あたらしい部屋は ....
二〇二〇年二月一日 「女子高校生」
もう何年もまえのことだけれど、電車のなかで見た光景が忘れられない。目の不自由な男のひとが杖をもって入ってこられたときのことだ。制服を着たひとりの女子高校 ....
{引用=鳥たちよ}
ヒヨドリが鳴いた
喉を裂くような声で
天のどこかを引っ掻いた
それでも皺ひとつ寄らず
風の布は青くたゆたい
樹々の新芽を愛撫するが
ささやき返す葉はまだない
公 ....
春は淡い
命がそこかしこに生まれては散る
風はそよぐ
樹々の葉がさざ波になる
風と水は似ている
そうかな
そうだよ
どちらも掴もうとしても掴みきれない
手のひらを開いたとたん
そこは ....
二〇二〇年一月一日 「ウィルス」
あたいの携帯、へんなウィルスに感染しちゃったみたいで、勝手にアドレスを書き換えられちゃってて、知らないひとにつながるようになっちゃった。でも、偶然 ....
にんじんを刻みながら
風のみつ編みをおもう
それは水面をふるわせ
はげしく雨を叩き合せる
老女につかまれる
ほそくて
ながい
時のすがたを知れる
おしゃべりなちえの輪
ま綿の花束 ....
ひとり見つめる青空を
透かし通した大宇宙を
あゝとてもクリアだ
わたしはひとりだ
充ちる春の街を行く
どこもかしこも光の散弾
弾ける人々の笑いは満ちて
いのちが優しく芽吹いている
....
十二月から三月いっぱいは無人駅の除雪作業員として、ごく早朝の勤務があり、あまり深い睡眠を得ることができなかったが、四月に入りそれがなくなり、割とよく眠れているのではないかと思う。
家業、山 ....
息子に釣りを教えて欲しいとせがまれた
おれは釣りなどやったことがない
息子にそう伝えると不思議そうな目でおれを見た
釣りをしたことがないお父さんだっているのさ
へぇ、そうなんだ、まあ、パパはお ....
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