{引用=ぼくの記憶の螺旋の、森
その先に蔦の茂った廃屋がある
寂れた椅子に 小雨が降りつづけ、
緑は天を刺す、あるいは、地に従属する
苔生した兵士たちは歩みを止めることもなく
繁茂 ....
トントンと コゲラのリズム 森の中 詩人も聞いた 妙なる調べ
優柔不断に打ち過ぎた
卯月 皐月が素通りとなって
セイロンサファイアの
鳴神月を出迎えた
寒がりな卒寿のおひとりさま
広場の木立ちには
回遊の子雀 ....
オオタカの幼鳥はかわいい 一月ほどで親と同じ大きさになり
いつの間にか巣立ってしまう 大きすぎて巣に3羽は無理となるためだ
巣立った幼鳥は人を恐れない 1メートルくらいまで近づいた時もある
....
黙ってただ生きる
ということができない
永久に
見つけてもらえないから
暗いさみしい器の底で
発語したがる
別なあたし
世界中でたった一人の
ひとに向かって
そのひとだけに
....
朝の光に濡れた電車には
七人掛けのシートに七人が腰を下ろし
つり革にも人の手がゆれていた
厳つい男と痩せた男の間に
若い女がはまり込み
ゆらーり ゆらりと
自分の世界で揺れ始めた
....
光が濁っている
花粉のように
ここは
朝なのか
もうずっと前
愛した
あの誰でもない……誰か
夜の湿り
かさねた翅
月の淡い幕に覆われて
昨夜のことか
精をささげ
....
うずくまっていた
卯の花月がながされて
田の草月にめざめるとき
老残は猫背を反りかえし
両手をかざして
なかぞらに満ちあふれる
かぜとひかりと星をま ....
冷たい灌木の素足を芝草が覆う
うぶ毛のようなスギナの森
露に閉じ込められて朝の光が震えていた
「友よ お飲みなさい
こっちは先に頂いています もうすっかり
辺り一面へ溶けだして ほら太陽 ....
おれが猫背になる前は
風と光に色つやがふくまれて
祝い旗が屋上ではためいていたのに
卒寿となってからは
皺だらけの手旗となって
軒下で垂れさがっ ....
ああ 蟻の体で
君の思考をあるいたら
どんなに気持が良いだろう
意味や理由から赦されて
わずかでもたしかな重みをもってあるいたら
でもこれは
ぼくの罪で
いつまでも脳を出ない
....
骨折をした年の暮れ
左手で 年賀状を 書きました
蚯蚓ノタウチ回るような 面持ちで
心持ちだけは 穏やかに
ただ お餅だけは
何故か 食べる気が しませんでした
そろそろと流れる ....
愛については
猫が、大統領よりずっと詳しい
だって猫は いろんな壁の上を
やすやすと あるいてきたんだ
ひとびとが にぎわう繁華街
ひとびとが やすらうベットタウン
肩をおとそうとした ....
いまでもわたしはあの9月の川べりに座って、可愛いあのこと好きなものを言い合ってる。いいかんじに色あせたTシャツのプリント、外国のバンドのロゴが書いてある、ぼうぼうに伸びた雑草、東北のさばさばした風。で ....
最近 どうしたわけか
卒寿となった おひとりさまに
わけもなく
にじみでてくる泪がある
それは・・・・・
....
私の口癖は
わからない
彼女の口癖は
面倒くさい
画面をすべっていく
文字
君の顔のうえを
永遠にすべって
君には
降ってこない
ザラメ
それには
トゲがあり
それには
色 ....
穏やかな風と光が
丘のひだにあふれて
卒寿の猫背を包みこむとき
おひとりさまのスライドには
しみじみとよみがぇってくる
はるかに過ぎ去った
白い季節の ....
隣近所の思いを気にしながら育てる桃
摘花はほどほどにして花を愛でてもらい
消毒は風のない朝ひっそりと行い
花が過ぎて
ようやく形のできてきた実を摘果する
このときワタシは
親から切り離 ....
いいにおい
夜のおわりのみどりのにおい
なま白い手足で泳いでいく女のこたち
文字の群れとあかるいカステラ
いいにおい
頭の右うしろのほうの記憶
こうばしいおとこの子たち
めくばせとジ ....
指先で、
するすると水面を辿っていく。
水面は指先の森だ。
いくつもの指が、
滑った痕がある。
指紋が重なって枝になる。
いくつもの記憶の羅列が連なり、
あたらしいいのちをつくる。
....
仔犬を胸に抱いた少年
あるいは
眠っている赤子を
抱っこ紐で抱えた母親
のように
買ったばかりの
ラナンキュラスの
花束を
両手で持ち
包装紙の隙間から覗いて
微笑ん ....
薔薇がそらを向いて開き、まちの花盛りは終わろうとしている。連休の留守から戻ったら、好きだったなにわいばらの花はひとつもなくなり、花弁さえどこかへ行ってしまった。なつかしいあの清廉な白。
来て半年 ....
庭木がかもしだす
日陰と日向が
その鮮明度を増し
遥かに漂っている
卯月の雲も
田の草月に移行するとき
いままで眠っていた
老残の ....
グランドの脇の水路に
サッカーボールは半身を浸していた
昨日も今日も橋桁に寄り添って
沈むことも飛ぶことも出来ないで
流れることさえ出来ないで
水面に出た半身が陽に焼かている
赤耳 ....
あかあか てる
あかあか と てる
そら と
そらの みなかみ
かか
かか
なく かげに
そっと くび めぐらせ
母
おもふ
ものも けものも
そらみあげ
みな目鼻も ....
浅いひびわれができた
ベランダの三和土でみる
一匹の蟻
単なる散策なのか
それとも
餌を探すためなのか
まるで卒寿となった
おひとりさ ....
見えなかったものが見える
ふくらんで
ふくらんでほどけ
ふわり ひらく
ゐろかおりかたちあまく
風に光にとけて
そらを渡るもの
ほそい弦で触れながら
匂やかな{ルビ詩=うた}の足跡をた ....
【無口】
山高帽の男の顔は見えないが
どこにでもある石を缶詰のように
開けようとしている
男にだけにわかる匂いを閉じ込めたのは
誰なのか
日記帳の文字の旧字体が
机 ....
【こめる】
ちいさな人が ちいさな声でいった
「あさがおは かさ みたい」
くるくるたたんでいる花は かさみたい
雨の日にひらくと かさみたい
ちいさな傘から
ぬー ....
かるくて
あかるくて
はかなくて
さくらの花は
詩そのもの
花びらいちまいいちまいに
残った風が
地面に落ちてもまだ
ふわり ふわりと
その浮力を手放さない
逃げ足ばかりが ....
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