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もうそろそろだと
祖母は言う
おかいこさんのからだが透けはじめると 
そのうち糸をはきだして
楕円のおうちで
別者に生まれ変わるのだと

その不思議な虫は
一日中
桑の葉を食べている ....
秋風のなかに
ほんのわずかに残された
夏の粒子が
午過ぎには
この洗濯物を乾かすだろう

通夜、葬儀の放送が
朝のスピーカーから流れて
犬が遠吠えを繰り返す

香典の額を算段して
 ....
大切な約束をしたことを
いいかげんなわたしは
いつのまにか
忘れてしまった
むきだしのアセチレンランプの猥雑さざめく夜市
腹を見せて死んだ金魚は
臭う間も与えられずに すばやく棄てられる
 ....
君は
覚えたての「こんにちは」を
わたしがこぐ自転車の前に付けた補助椅子から
道行く人はもちろん
畑仕事をしている人にも
隔てなく投げかける

たいていの人は
一瞬驚いたような顔をする ....
やわらかな鉛筆の芯で
ここにはいない君を
スケッチしました
身体をおおう毛は
鉛筆を少しねかせてふんわりと
ひげは鉛筆を立てながら
細い針金のように
それは君の
生きることにまっすぐだ ....
どんなにおそろしいか
どんなにふあんか
まくらやみのなかで
ふみだす そのいっぽ

声をかけられなかった
ずっと昔
学校帰りの交差点で
その人は白杖を持って
信号待ちをしていた
声 ....
いちじくがなりすぎて
おしうりされて
いやになる きみの
ことがだいきらいなわけではないけど
だいすきなわけでもない
いっそきらわれたほうがましとでもいうように
そのみはすこしわれていて
 ....
いくつかの
起承転結が
たとえば
レース編みの
小さな花模様のように
点在しているような
ひざかけを
(今朝、突然に秋が来たので、
 それが不意打ちであったため
 タオルケットだけの ....
スパイダーマン
バットマン
スーパーマンたちが
こぞって
窓拭きをしている

ヒーローたちは
そこでは闘わない
闘っているのは
きみたちだから
やわらかな夜の入口で
関節のありかを
ひとつひとつ
たしかめていく
幾度となく
繰り返してきた
解体のための
いとおしい作業
継ぎ目よ
さようなら

肉体は部品となって
ていね ....
まばたきは
シャッターだから
夜になると
わたしのなかは写真だらけになる

そうやって
撮り続けた
日常のいくつもの場面を
夜の川に流していく
笹舟のゆくえを追えないように
それら ....
言葉を持たない
ほどけゆくはなびらに顔を寄せる
月曜日のこんにちはが
金曜にはさようならになって
まだ夏は来ないというのに
固い棘に触れた
わたしの指先に
染みのような血だけを残して
 ....
空き地にはヒメジョオンの花盛りラブアンドピースアンド猫

     ヒメジョオンってその名のとおり、可愛らしいいでたちで
     あるのですが、群生していると、なんだかガールズトーク
    ....
雨が降ったあとだけ
わたしは
この世に生まれます

黒い空から
産み落とされたというのに
見上げれば
 ――おもいわずらうことなど最初からなかったように
 ――おもいわずらうことは誰で ....
ひと押し
ふた押し
み押しするたびに
深いところから
吸い上げられてくる
手応えがあって
ほとばしる
夏でも冷たい水、水、水

水という命を手に入れるために
用意された
一連の単 ....
小さな靴の愛おしさを
ときおりこうして取り出してみる
小さな足はもう消えてしまったけれど

バーゲンセールは年々前倒しにやってくる
梅雨が明けてもいないうち
夏服には割引の赤いタグがつけら ....
ちゅんとしか
啼けないでなく
ちゅんとしか
啼かない

くちばしの
下にある
君の発音器官が
そう決めたから

多くの言葉を持つ人は
たくさんの選択肢を持つけれど
ほんとうに伝 ....
金属製の留め金は
時折きしむ

わたしを
ここに
留めておくもの
家族とか
四季咲きの薔薇だとか
増えていくばかりの本棚とか
愛すべきものたちばかりなのに

長雨のあと
造成地 ....
ことがら は 昨日の記憶

そばがら は 今夜の枕のなかで

ひとがら を 朝のヒカリで描きこむ

うまれたての雛のあたまに
残された
一片の から

どこからと問うこともせず
 ....
ようやく咲き始めた
耳たぶを
かすめるように
散ってゆく
くたびれた
きのうの薔薇

美しい季節はいっとき
残酷な
まやかしのようでもあるけれど
改行される刹那こそ
愛おしい
 ....
よそへいくための服は
襟のレエスがまぶしくて
びろうどのスカートが重くて
ぴったりしずぎてきゅうくつで
母さんが
帰宅するやいなや
着替えさせてくれるとき
ほっとして
わたしは
すこ ....
いやさなくて
いいよと
それはいう

かなしみは
いやされることなど
のぞんでやいないさと
筆先でなでていく

涙の成分は
瞳に必要なものだという

いわさきちひろの描く
こ ....
つたったあとを
つたうものあれば
つたったあとを
つたわないものもいて

誰かのまなざしのあとを
なぞるものもあれば
誰かの言葉のあとを
なぞらないものもいて

きょうのまことが
 ....
さあ、どうぞと皿が私に差し出される
その上にきれいに盛られている
とてもいい匂いのする料理は
食べやすいように切り分けられている
中には苦いものもあるけれど
健康でいたいでしょう?
それを ....
かあさんは白
とうさんは黒
ばあちゃんは茶色で
じいちゃんは巻き尾
そのまたばあちゃんが
どんなだったか知らないけど
たぶんボクの中にいるんだろう

抜け落ちた
冬毛のなかに
いろ ....
朝はこんなにも鳥の声であふれている
それが
そらみみでないことを知ったあと
染み出てくる
当惑を
奥歯でそっとかみしめて
(愛おしいシーツの皺を伸ばすように)
こんなふうに
人は日常に ....
広い平和な公園の片隅に
行ってはいけない
小山があった
5月になると
咲いたツツジに誘われて
子が行こうとすると
親はきまって
こう言う

行ってはいけません とだけ

ダンボー ....
ちいさな命が逝きました

なにもできないことが
くやしくて
何度も名前をよびながら
一度も
空をとぶこともなかった
幼い翼を撫でておりました
スポイトからこぼれた水を
君は果たして飲 ....
覚えたての縦笛から
頼りない汽笛のような音が
飛び出したから
思わず笑って
私は手をふる

どこかへいくの?
またかえってくるよ

音を作るこどもたちが
今でもほら
とても楽しげ ....
洗いすぎて
ごわりとした
ネルの小さなパジャマ
ふたつめのボタンだけ
なぜか赤い糸で
不器用にくくられている
夜泣きのたびに
私にしがみついた
熱を帯びた袖
黄色いライオンの模様
 ....
由木名緒美さんのそらの珊瑚さんおすすめリスト(191)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
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