カミツレの花
そらの珊瑚

朝はこんなにも鳥の声であふれている
それが
そらみみでないことを知ったあと
染み出てくる
当惑を
奥歯でそっとかみしめて
(愛おしいシーツの皺を伸ばすように)
こんなふうに
人は日常に戻ってゆく

コーヒーに溶けていく
ミルクは穏やかな希釈を与え
固くなったフランスパンは
産まれなかった卵に浸す
喪失を攪拌したら
君のくちばしの色と同じ黄色だったよ
ダイアモンドの針は
円にみたてた溝の上を歩き
――円を伸ばせばかけはしのような道に等しく
ピアノの音を再生させる
(空間を埋めていくように)
日常という電熱線の上でバターは
泡をともなった液体になり
君のさえずりのない
食卓に
静かな日常が戻ってくる

小さな墓に供えた
カミツレの花は
すっかりしぼんで
(転調されたしらべのように)
いつのまにか
そこは塔の立つ神殿になっていた



自由詩 カミツレの花 Copyright そらの珊瑚 2014-05-11 08:20:02縦
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