古井戸  【詩サークル群青 六月の課題『水』への提出作品】
そらの珊瑚

ひと押し
ふた押し
み押しするたびに
深いところから
吸い上げられてくる
手応えがあって
ほとばしる
夏でも冷たい水、水、水

水という命を手に入れるために
用意された
一連の単純な作業は
再生されないおとぎ絵のなかに
仕舞われている
なつかしいのは
それが
かつては在ったけれど
今はもう存在していないから
地中につながる
もしかしたら
地中以外にも通じていると思わせる
地球の中心へ向かう
垂直の深い一本道は
既に埋め立てられていた

たどってゆけば
おそらく今この時も
水は清冽なものとして湧いているのに
わたしは
それを汲み出すことが出来ない

取り付けられた
やさしい顔をした蛇口ならあるのに
その水じゃないと
首をふってみる

逆流してくる
水のままの水、を
小さなてのひらで受け止めた
夏が来るたびに
想い出す
ポンプ式の古井戸
跳ね、跳ね、跳ね、
あたりいちめん水びだしにしてゆく



自由詩 古井戸  【詩サークル群青 六月の課題『水』への提出作品】 Copyright そらの珊瑚 2014-07-07 19:25:18縦
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