影の、模様が、オレンジ色の光の混ざって、
ひときわ目立つ、クリーム色の壁。
朝には、日差しが、ベランダの、遅起きの昆虫を、
執拗な温度で照らす。
次の日も、町内に響く、下校のチャイムが ....
洗濯物をたたむうちに
不意に可笑しさがこみあげてきた
昨日までの
それまでの
汚れを落した衣服の形
そうだとしても
ひとつひとつ
笑顔や葛藤や
その他{ルビ諸々=もろもろ}の生活を ....
つぐないの花に
光が降る 雨が降る
半透明の蜘蛛が
空を見る
何もかもが破けてしまいそうな
たくさんの鈴の音がする
名前の無いもの
にくしみを
とどまりすぎ ....
あたりじゅうすべてが蜃気楼と化してしまいそうな
夏の午後
裾の長い木綿の部屋着に包まれ
籐の長椅子で微睡む一個の
流線型の生命体
窓からのゆるい風が
肌にときおり触れて過ぎる
ほの甘くあ ....
キャッチボールしよう
あめ色に拡がる陽炎の向こうから
胸に光る勾玉の下げ飾りをつけた少年が叫ぶ
他に人影は無い
揺らぐ時流
熱気流に渦巻く少年の瞳
キャッチボールしよう
....
灰空の下に立つ
くすんだ緑の家
不吉な青空から逃れて
独り 雨を見る
紫の夜の光
顔に映る枝の影
冬の空を埋める十字架
次々と手から落ちる絵図
....
ぼくらはあまりにも醜いから
醜いから誰かに会うことが恐くて
となりの惑星にさえまだ行く勇気がない
そんな醜いぼくらのせめてもの救いは
この星にうたがあるってことだ
どこを捜しても どこを ....
雲になる花
見えない鳥
午後は夜より深く
地は空より暗く
屋根だけが鈍く透きとおる
高く遠いひとつの窓が
誰もいない部屋を明るく照らす
ちぎれずにいる雲から先に
逆 ....
わたしはあなたの声の中に家を建て
夏の風をちょっと吹き入れて
声を聞きながら
寝そべっている
わたしに用事はなかったのですが
あなたの方で用事があるらしく
声色をぴんと伸ばして
いそ ....
陽に焼けた黄土色の文庫本を開くと
なつかしいあなたの横顔が
鉛筆で、薄く描かれてていた
添えられた文字は
照れくさくって読むことは出来なかったが
横顔はまったく記憶の通り
....
ぼくの恋愛感情は
小学6年生だった
授業のチャイムが聞こえたならば
急いで席に着かなくちゃならない
なのに先生である彼女は休みがちで
せまい教室でぼくは自習ばかりしていた
そこ ....
みてみたい
星の誕生する瞬間を
流動する熱い肌
なめらかですべやかな肌
それでも
笑えるしあわせ不仕合せ
今晩のおかずは何?
魚の視界
鳥の羽ばたき
貝の呼吸
ひとりのつぶ ....
亡霊にとりつかれている
幽霊がいるという話ではない
夏の{ルビ最中=さなか}の冬といえばいいのか
忘れることができない過去
どこまでもついてくる
忘れたことまでも
ついてくる
遺 ....
かち とろう
ゆき ゆこう
ふくみ ささぐ
きはくな ほし
こい こごう
ゆめ とばそ
ぴりぴり とした
ひりひり ときた
なげく なじる
ぬいでしまえよ
こ ....
夜の水の音
青と白の花
夢のつづきに至る光
髪を目を照らす
かつて夜の中で所在なく
ただたたずんでいたものさえ
わずかな陰影の揺らぎを貫き
独りではない笑みを ....
わたしがむやみに数えるものだから
蛍はすべていってしまった
わたしが思い出せるものは
ひとつ
ふたつ
と
美しい光
いつつ
むっつ
と
美しい光
けれどもそこ ....
帰り道に迷うのは
せめて僕のほうだったらいい
通りすがりで、そっと交わす言葉からは
いつだって真ん中のところが零れ落ちていく
駅の階段を
夏に降りていく
君は一つの呼吸で
手を振 ....
波が押し寄せてくる
出し抜けに吸い取っていく過保護なアルコール
君が冷房を消してくれたから
世界の温度がすこし下がった
雨が降るのも、それが理由なのも
走り出す、それだけの、焼きつい ....
ひとしれず
くさかげのはいいろに
ある男女のすがたあり
わたくしと
しねる?
ああ
それがさいごの会話だった
涼やかな目
はいいろが 濃くなる
しなやかでとげとげしい ....
魚になった
私の名を
呼んで下さい
{ルビ愛=かな}しみの風に 微笑みながら
道の空を泳ぐ
白い時に影を落しました
雲に溺れた{ルビ暁月夜=あかときづくよ}
{ルビ白露=しら ....
容赦ない夏の
どこかの軒下で
わずかな風を拾い集め
リンと鳴ったところで
気休めなのだろうけれど
気休めに救われる
瞬間もある
声にならない声が
遠くから鳴り ....
かなしい夏 ?
夏の首すじが
眩しい
何もすることのない午後
空気さえ発光している
しなやかな夏のゆびさきが
飽きもせずあやとりしてる
夏はあの木立のてっぺんあた ....
川の向こうに
痛みが待っている
少女の姿をして
けだものの背にもたれて
得られないもののように笑い
届かないもののように立ち
詩わないもののように腕をからめる
....
雨の道を歩く、水溜りの歩道。
灰色の雲は灰色の光を閉ざす。
届かない熱は届けない大気を怨む。
振動に驚く大気の呼吸。
こもる音。飛び去るフラミンゴ。
やがて、届かない、熱を想う。
....
緑に呑まれた家のかたわら
雨が次々と壁につかまる
二匹のけものの哭き声が出会い
遠くからさらに遠くへと
逃れるように午後を越えてゆく
空を影の卵が流れる
涸れか ....
干乾びたのだろうか 私は静かに干乾びていくのだろうか
風の強い静かな午後 ほら、耳の裏側で
ガラスの器 丸く並ぶ石粒 揺れる水
指を離す ゆびをはなす 知っているのに・・・
鳴る音は飛沫 ....
夏にゆうれいがいなくなってから
夜はとても蒸し暑くなって
何だか過ごし辛くなった
ゆうれいを捜しに
ときどきぼくらは心霊スポットに出掛けるけれども
工事中にたくさん人の死んだトンネルにも ....
私の
家の裏には
杉林があって
その向こうには
すこしばかりの空があって
夏になれば
蝉時雨が満面に鳴り響いているのです
しばらくそれを
みつめていると蝉の声が深く
静かに命を説いて ....
オニヤンマは、
空の道をもっていて
すうっと、
夏の光の騒がしいすき間を
無邪気な笑みで通りぬけていく。
この間、
{ルビ明日=あした}の出来事を
うすく
ニンマリ
なんて笑うの ....
どちらから
わたしの見ている世界は一つではないらしい
多次元的(あくまでも「的」)に
連なった酔った琴線
縁側の夜で
わらう猫
どちらから
白の黒さから
歪んだ笑み
しか ....
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