映画を観た後
外は黒で暗く固められていて
妙に丸い機械の部品ばかり転がっていた
映画を観た後
キラキラとしたフィルムは頭を離れることなく
そのまま走馬灯に加えられた
映画を観た後
....
あなたが夕刻を告げると
わたしのお遊戯が
奇妙な形で切り落とされて
真っ暗になって
ぽた、ぽた、落下する
わたし
という無数の子供たち
の見上げる、灯り
に群が ....
´
生まれたての
ダッシュされない
耳の美しいカアブ
描いて
´
(何か音)
聞いたこともない
さわれない
見る
ことも
青空に
シャープ
黒鍵に落ちる
細い指
....
真実が、
私を知っていれば、
それで良い。
たくさんの鳥
そして少しの懐かしい人を乗せ
他に何も無いような空港から
飛行機は飛び去って行った
覚えていることと
忘れていないことは
常に等量ではない
夏の敷石の上で ....
{ルビ空中線=アンテナ}に張ってある
鬼蜘蛛の巣が
霧雨にぬれて
{ルビ銀色=しろがねいろ}にゆれている
風を孕んだかなしみが
失せた振動鳴きつくす
ああ
空中 ....
自明なるものに囲まれているから
ぼくらの内側では
一切の悪が育ってゆくのだ
風景としての自分に
すっかり慣れてしまったぼくらは
生まれた瞬間からすでに年老いている
という叫びの正当性を ....
買わなければいけないものがあるのに
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなく ....
したたる、
水のひびきのなかに、私の声があ
ります。暗いこころのままで死ん
で幽霊となった私のとうめいな喉。
ぬれながら、だえきもでないほど
にかわいてし ....
あなたがいた
ある午後のことを
ただ
あおいビー玉と
して
ふと
体をわるものと認めたら大人になり
わるさがすでにこころに及んでいることに
気付くころには、あ、 ....
一番線のホームを
羊の群れが通過していく
海の近くに
美味しい牧草地があるのだ
その後を
羊飼いの少年が
列車でゆっくりと追う
夕暮れ近くになると
列車に羊を乗せて
牧舎へと帰る ....
ほとんどの人は、もう
溺れているの
誰も気づいていないだけ
澄んだ指さきが
アルカディア、と答えて
空の一角をさす
新しい風景、新しい秩序
それは
見たことのない宇宙
(行け ....
夕暮れの音楽室で
ピアノを弾いた
平穏で無難な和音
誰がつくりあげるとしても
たとえばそれが夕暮れのサイレンだとしても
F#はF#にかわりはなくて
壁からみおろしている楽聖だって
....
先生をビーカーに入れて
塩酸で溶かすと
同じだけの虚しさが
胸の中に生まれた
誰かが
質量保存の法則だ、と叫び
それはたぶん正しいことだった
その日
トスカーナ州の子供たちは
ピサの ....
おちてゆくとき 全景がみえた
滅びのあとも 日々のいとなみはつづき
死んでいるとも知らずに 人々が暮らす街の
道だけが いのちあるもののように
地平線へ向かって のびていた
朝日影にふくまれた わたくしの陰影が
ありのままの白い骨格で
よるべなく
この家に嫁いで来たのです。
その
わたくしが、
わたくしであるが故に、
わたくしを焼べねばなりません。
そ ....
水平線に帽子を被せている人を見た
世界と対等に向き合うということは
それほど
難しいことではないのかもしれない
子供たちに蹴飛ばされた波が
海の向こうで
砂浜に描かれた絵を消している
....
雨の、話など誰もしていないのに
空が溶けてきたねとあなたが言う
気が付けば隣で誰かが溶け始めていて
手紙に残された文字が一人、笑っている
手のひらは繋ぐためにあって
思えばそんな場所ばか ....
かぞえられないものばかり
あいした罰に つけられた
おもい影を ひるま
ひきずっていた魂が
夜のベンチに 碇泊している
夕暮れ色の飛行船、
たくさん空に浮かんでいたけれど
空と一緒の色だったので
誰にも気付かれないままでした。
*
毎朝、起きたらすぐに顔を洗います。
....
窓辺には
ガラスケースにしまわれた
誰かの心臓が置かれている
真夜中の無人の部屋に現れる
今は亡きピアニストの面影
奏でられる旋律に
永い眠りから覚めた心臓は
脈を ....
まぼろしか白夜の夢に君を抱く 鼓動ひととき重なりて、泣く
時を打つ鐘の音色も{ルビ夜=よ}の色も白くまどろみ繰り返す「恋」
白夜なら大地もぬくもり忘れずにいるから今宵は許しあお ....
透明なベッドをぬけだし
格子硝子の窓の隙から
そっと外に腕を差し出せば
つめたい風に吹かれ
植物のゆめとなって
旅をつづけるわたしは
そのまま尖りはじめた
伽藍のそらへつづいていく
....
黒縁の眼鏡をかけた教授の講義が一段落すると
スクリーン上に映し出されたままの
夏の星座がゆっくりと回転し始める
古びた校舎の窓側を覆う暗幕は
その歳月 ....
夜が季節の名前ならば
今夜は惜春
雷雨が迫る黒雲
まだらに明るい空を映して
海が水銀のように揺れる
指先の温度が融点の
あなたという液体
わたしという液体
いつまでも
満たさ ....
駅前に
都会が落ちていた
命のように
きれいだった
なくさないように
拾って
ポケットにしまった
そして
三年振りの待ち合わせに
僕は現れなかった
そうしてノートを閉じますと、随分時間の過ぎたようでした。
季節も時間もとち狂った朝顔について、見てこなければなりません。
でないと、ほんの2ミリの成長を見そびれるとも限りませんから。
ええしかし ....
さよならは青い背もたれ始発にて四月の夢を温めにいく
アンニュイな晴間が秘める春雷に片目をとじて君を待つ午後
ないしょです。星くず燃える屋根裏で子猫と愛し合った日々など
....
ある夜から、ガラス球が衝突によって砕ける事さえ悦んだ。
哭いても仕様がないのに、ひとつにはなれないのに。
まるで知らない、仄明るい迷路を彷徨う内に。
はしり火、彗星の尾ひれ、その燐光を追うよ ....
約束、という響きに手繰り寄せられたつもりで
何かを手繰り寄せようとした
霧の先
眠い、眠い、と繰り返す手鏡は
いつここへ置き忘れていたのだろう
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