私は無人の都市を歩いていた 
 
見上げた無数の窓の一つから 
青い小鳥が堕ちて来た 

{ルビ掌=てのひら}で受け止めた
{ルビ痙攣=けいれん}する小鳥の青い羽は 
灰色へと変色し 
 ....
夜道を一人歩いていた 
道の先に立つ街灯が 
{ルビ辺=あた}りをほの白く照らしていた 

街灯の細い柱に{ルビ凭=もた}れると
地面に伸びる
薄ら{ルビ哂=わら}いを浮かべた 
私の影 ....
今夜 私には 
逢いにゆく人がいない 

孤独な夜の散歩者は
アスファルトに響く雨唄と 
ビニール傘に滴る雨垂れの 
二重奏に身を浸しながら 
果て無い雨の夜道を{ルビ彷徨=さまよ}う  ....
誰かと笑い転げる日々を過ごす私
仮面を一枚{ルビ捲=めく}れば 
誰の手も触れ得ぬ「もう一人の私」がいる 

あたりまえの幸福は 
いつも手の届く場所にあり 

浜辺へ下りる石段にぽつん ....
 湯田は温泉街なので、道を歩いていると数人で腰を降ろし足浴で
きる場所が何ヶ所もあった。記念館に近付くにつれて、「中也ビー
ル」という暖簾の文字が風に揺られている店をいくつか見かけた。 
 中原 ....
 僕の部屋のベッドの枕元には、去年の夏の終わり、一人旅をした
時の写真が入ったままの白いビニール袋が置かれている。中から取
り出した無数の写真の中の一枚に、雨の降る公園に立つ石碑があ
り、幾本も ....
祝日 新宿の午後は人波に{ルビ溢=あふ}れて 
逃れるように僕は古びた細い路地に入る 

道の両脇に{ルビ聳=そび}え立つ高層ビルの壁に挟まれた 
細い空を見上げると吹いて来る向かい風 
ア ....
少女は長い間 
窓の外に広がる海を見ていた 
{ルビ籠=かご}の中の鳥のように 

時折 
人知れぬ{ルビ囀=さえず}りを唄っても 
聞こえるのは 
静かに響く潮騒ばかり 

( 浜 ....
一 

仕事から帰ると 
僕の机の上に本の入った封筒が置かれていた 
裏に書かれた名前を見ると
{ルビ一昨日=おととい}「 周作クラブ 」の会場を探し歩く僕に * 1 
「 〜ホテルは何処 ....
日曜日の朝 
シャワーを浴び 
鏡の前で髪を整え 
{ルビ襖=ふすま}を開け
薄暗い部屋を出ると 
何者かが{ルビ袖=そで}を引っ張った 

振り返ると 
ハンガーに掛けられた 
高 ....
君が帰った Cafeの 空席に 
さっきまでノートに描いていた 
空へと届く望遠鏡の幻がぼんやり浮かんでいる 

別々に家路に着く 
君の切なさも 
僕の切なさも 
この Cafe に置 ....
開店時刻の前
Cafeのマスターは
カウンターでワイングラスを拭きながら
時々壁に掛けられた一枚の水彩画を見ては
遠い昔の旅の風景を歩く 


 *


セーヌ川は静かに流れている ....
朝起きて 
寝ぼけた{ルビ面=つら}で 
鏡を見たら 
直毛の黒髪の中から 
ふにゃりとした{ルビ白髪=しらが}が1本 
飛び出していた 

指でつまんで 
ハサミで切って 
手のひ ....
深夜の浜辺で
青白い顔をした青年は 
{ルビ焚=た}き火の前で{ルビ膝=ひざ}を抱えている 

肩を並べていた親しい友は 
すでに家路に着いた 

胸の内に引き裂かれた恋心 
誰の手に ....
その破天荒な男は 
ある晩、僕等の目の前に現れた 

目に映るあらゆるものに逆らい
虚空に拳を殴りつけ 
いつも目に見えない何者かの影に怯えながら
心の弱さと戦う彼は 
一体何を求めてい ....
春の日のベンチに腰かけ 
ひらひらと舞い落ちる 
桜の花びらを見ていた 

肩越しに吹き抜ける風が 
「 誰かの為に身を捨てる時
  そこに天はあらわれる 」 
と囁いていった 

 ....
半年振りで姉は嫁ぎ先の富山から 
5歳の{ルビ姪=めい}を連れて帰っていた 

家族{ルビ揃=そろ}って
僕の出版記念すき焼パーティーをするので 
今朝の出勤前母ちゃんに
「 今日は早めに ....
    春の夜の

    朧な月を仰ぎつつ

    草露を踏む

    真白い素足 
音楽好きな老人ホームの所長と 
週に1回演奏してくれるピアノの先生と 
介護職員の僕と 
レストランで夕食を共にした帰り道 
最寄の駅に先生を車から降ろした後 
夜の{ルビ空=す}いた国道を ....
夜明け前の道を 
自らの高鳴る鼓動を胸に秘め
歩いていく 

川に架けられた橋をわたり 
駅の改札を抜けて 
無人の列車に乗り込む 

腰掛けると 
発車を告げるベルがホームに響く  ....
一月前 
長い間認知症デイサービスに通っていた 
雷造さんが88歳で天に召された 

だんだん体が動かなくなり 
だんだん独り暗い部屋に置かれる時間が多くなり 
ある日ベッドで瞳を閉じて横 ....
春風にそよぐ{ルビ枝垂桜=しだれざくら} 

青空に響く{ルビ鶯=うぐいす}の唄 

{ルビ我等=われら}は{ルビ童=わらべ}

肩を並べてさくらを唄う 



  * 第一詩集「 ....
誰から声をかけられるでもなく 
彼は{ルビ日陰=ひかげ}を静かに歩む 
足元に人知れずなびく草の囁きを聞きながら 

上というわけでも 
下というわけでもなく 
{ルビ只=ただ} 彼は彼と ....
私は足場の固まった
真新しいベランダに立っている 

腐りかけた古い木の板を{ルビ軋=きし}ませて立っていた時 
私は世界の姿をありのままに{ルビ見渡=みわた}すことができなかった 

今 ....
あのレストランの前を通り過ぎるといつも 
寂しげな人影が窓の向こうに立っている

何年も前、飲み会を終えた夜 
あなたはいつまでも電車を降りず 
家路に着こうとしていた私は仕方なく 

 ....
身に覚えのないことで
なぜか{ルビ矛先=ほこさき}はこちらに向いて
誰かの荷物を背負う夜 

自らの影を路面に引きずりながら
へなへなと歩いていると
影に一つの石ころが浮かぶ

理不尽 ....
春の陽射しに 
紅い花びらが開いてゆく 
美しさはあまりに{ルビ脆=もろ}く 
我がものとして抱き寄せられずに
私は長い間眺めていた

今まで「手に入れたもの」はあったろうか 
遠い真夏 ....
夜道を散歩しながら
人知れぬ夢を呟くと 
胸に溢れる想いは
目の前の坂道を昇り 
仰いだ頭上には 
只 白い月が
雲間から地上の私を見ていた 

半年前 
オートバイに乗ったお爺さん ....
幸せは一杯の紅茶 
飲み込めなかった昨日の苦さに 
{ルビ一=ひと}さじの砂糖を溶かす 

幸せは真昼の入浴 
日常の{ルビ垢=あか}に汚れた{ルビ心身=こころみ}を 
泡立つタオルで浄い ....
少女は高い{ルビ椅子=いす}に上ろうとしている 
小さいお尻をどっかり下ろすと 
食卓には色とりどりのご馳走とデザートが並んでいる 

食べ終えると飽きてしまう少女は 
物足りず他の何かをき ....
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
「窓」自由詩9*06/6/3 18:18
街灯 自由詩11*06/5/28 0:01
夜の散歩者 〜 反射鏡を探して 〜自由詩24*06/5/26 18:41
「自画像」自由詩12*06/5/22 1:50
中原中也記念館に行った日 〜後編〜散文(批評 ...11*06/5/15 21:01
中原中也記念館に行った日 〜前編〜散文(批評 ...8*06/5/10 23:17
「夢」 〜 新宿にて 〜 自由詩14*06/5/6 19:29
海を翔ぶ翼 〜 少女と羊 〜自由詩8*06/5/3 19:19
「あたりまえの日々」自由詩4*06/5/1 1:29
壁に吊るされた学生服自由詩10*06/4/25 1:00
黒猫の瞳自由詩14*06/4/24 23:58
セーヌ川の畔で 自由詩12*06/4/18 22:11
「?」 自由詩7*06/4/18 0:59
幻の太陽 自由詩15*06/4/16 23:00
カオリン・タウミに捧ぐ自由詩2*06/4/15 1:24
春の夢 自由詩6*06/4/14 22:33
姉のまなざし 自由詩18*06/4/7 12:52
春の冷気を泳ぐ女(ひと)短歌10*06/4/7 11:25
無言の声援 〜同僚のMさんに〜 自由詩5+*06/4/6 23:20
始発列車未詩・独白13*06/4/4 22:50
雷造じいさんへの手紙未詩・独白13*06/3/26 14:13
幸福。 未詩・独白7*06/3/25 20:08
青年と老婆自由詩6*06/3/18 17:32
桃色の風船自由詩7*06/3/18 17:31
朧な太陽 〜空の色 ♯2〜自由詩8*06/3/18 17:30
六地蔵自由詩13*06/3/15 18:57
夕暮れの並木道自由詩14*06/3/13 0:25
シリウスの光る夜自由詩11*06/3/11 1:20
真昼の入浴 〜デクノボウの休日〜自由詩8*06/3/10 19:12
小景 〜父と娘〜自由詩6+*06/3/10 19:11

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