シリウスの光る夜
服部 剛
夜道を散歩しながら
人知れぬ夢を呟くと
胸に溢れる想いは
目の前の坂道を昇り
仰いだ頭上には
只 白い月が
雲間から地上の私を見ていた
半年前
オートバイに乗ったお爺さんが転倒し
息絶えた歩道に闇の穴が開いていた
誰もが通り過ぎる日常の身近な場所に潜む
未知への通路
夜道を歩き続けると
ふと見下ろした足元に捨てられた煙草の空箱
「HOPE」の文字が夜風に吹かれて
路面にからからと音をたてる
やがて見えてきた教会の門に近づくと
「止まれ」の路面標識の先に
揃えた白い足跡と爪先に引かれた白線があり
足跡の上にはある人影が立ち
白線から前へと身を乗り出しながら
なんとか踏み止まっている
避けながら通り過ぎた私は
教会の門に凭れて振り返る
ある人影にうっすら浮かんだ顔は
嘗
(
かつ
)
て「永訣の朝」という亡き妹に捧ぐ詩の言葉を
絞り落ちる涙と共にノートに綴った人の顔であった
再び 夜風は吹き
近くを流れる川のせせらぎが聞こえ
白い足跡の上に立っていたある人影は
いつの間にゆるやかな
碧
(
あお
)
い炎の
蕾
(
つぼみ
)
となり
花開こうしていた
凭れていた門を離れ
ひとすじの夜道を歩む私は
家の門に入る前に夜空を見上げる
いつになく
壊れそうな碧さで
光の糸を放ち
瞬いていた
シリウス
自由詩
シリウスの光る夜
Copyright
服部 剛
2006-03-11 01:20:35
縦