明るく前を向いて 
「365歩のマーチ」を皆と歌い 
両手を振って明日へと歩む 
「あるべき姿のわたし」 
の下を 
「ふぬけたわたし」の亡骸が 
独りうつむいたまま 
低空飛行している ....
少し前まで 
座っていた席の下に 
置き忘れた
飲みかけのペットボトルを 
扉を閉めた電車は 
線路のかなたへ運んでいった 

きっと 
作業着姿の誰かが 
忘れたゴミを 
無表情 ....
松葉杖を
ついて歩く人を 
追い越し 
ふいに立ち止まり 
背後を振り返る 

その人のずっと後ろで 
松葉杖をつくより 
もっと不器用に 
びっこを引く小さい姿は 
あの頃のぼく ....
Tシャツに汗の滲む 
夏の朝 
長方形の紙パックに入った 
烏龍茶を 
ストローから吸いこみながら 
けだるい道を歩いていた 

全力で走った後ならば 
あっという間に飲み干して 
 ....
喪服で参列する
一人ひとりが 
棺に横たわる亡骸へ 
花を捧げるごとに  

百歳の老婆の
寝顔はほころぶ 

火葬場で焼かれる  
老婆の百年 

晩夏の
蝉の鳴声響く 
 ....
木の幹にとまり 
無心に鳴いて一週間 
地に落ちて 
引っくり返った蝉の亡骸 

無数の蟻に 
体を喰われながら 
丸い瞳に陽の光をうつし 
両手を合わせていた 
{ルビ蜩=ひぐらし}の鳴く 
夏の夕空に 
紅く滲んだ雲のシルクハットが 
傾いて浮かんでいた 

{ルビ鍔=つば}の下に 
もうこの世にはいない 
あの人の顔が 
見える気がした 
 ....
早朝の蝉達は
すでに目覚め 
茂る緑の木々に隠れ 
全身を震わせ、鳴いていた。  

無人の母校の校庭で 
跪き、両手を合わせ 
朝焼けの空を仰げば 
悔し涙は{ルビ搾=しぼ}り落ちる ....
スタンドの明かり一つ 
扇風機の音が聞こえる部屋 
木目の壁に映る 
後ろ姿の影は 
黙って首を振り続ける 

明日 
どんなに騒ぐ人がいようと 
やる気の無い人がいようと 
ぼくは ....
日々の砂漠に 
埋没された 
わたしは一本の指 

墓標のように立ちながら 
指の腹にひろがる指紋は 
いつからか 
一つの瞳となり 
遠くから荷物を背負い 
こちらに向かって歩いて ....
わたしはわたしの 
根深い業から 
解き放たれよう 

闇に咲き誇る{ルビ薔薇=ばら}よりも 
道の{ルビ日向=ひなた}に飾らず咲いた 
一輪のコスモスの前にしゃがもう 

何も語らず ....
路面に{ルビ陽炎=かげろう}ゆらめく 
真夏の正午 

長袖の作業着に 
ヘルメットをかぶる 
眼鏡のおじさんは 
汗水たらし 
鉄パイプを{ルビ担=かつ}ぐ 

路面には 
夏空 ....
汗をかいたグラスの前で 
ケーキが跡形無く姿を消した 
白い皿の上 
スプーンとフォークはうつ伏せて 
優しく寄り添っている 

昨夜の別れ際 
握った君の手のぬくもりを 
思い出す午 ....
お香の煙が立ち昇る 
傾き揺れる炎の指さき 
すうっとのびて 
天をさす 


  * 


{ルビ蝋燭=ろうそく}は 
人と似ている 

明かりを灯し 
身を溶かし 
や ....
旅先で出逢ったひとと 
うまい酒を飲んだ日は 
深夜にひとり戻ったホテル部屋で 
まっ赤な顔のまま 
はだかになりたい 

ベッドの上で 
パンツいっちょう 
はだけた浴衣 
へべれ ....
与党が歴史的大敗をした日 
雷は空に{ルビ皹=ひび}を入れるどころか 
あのピカドンのような 
世界の全てを一瞬に包む光で 
家々の中に身を寄せる私達を震わせた 

再び空が真白く光ると  ....
雨上がりの街を歩いていたら 
何故かどしゃ降りの音がするので 
振り返ると 
閉店前で半開きのシャッターの内側で 
無数のパチンコ玉が流れる音 

今日一日の間に日本中の店で 
この世の ....
ほんとうの幸いはきっと 
奈落の底の暗闇に独り立つ 
頬のこけたピエロが 
無人でゆれる空中ブランコの上に 
茫洋とした瞳で仰いだ 
プラネタリウムに瞬く 
あの{ルビ金星=ヴィーナス}み ....
人込みに紛れ 
駅構内の階段を下りていると 
背後に 
「 だいじょぶですか 」 
という声が聞こえ 
思わず振り返る 

車輪の付いた 
買い物かごの取っ手を 
細腕で握り 
「 ....
なぜあなたは 
病の親の世話をして 
毎朝歯を喰いしばり 
家の門を出て来る部下が 
体調崩し仕事を休む 
辛いこころが見えぬのだ 

わたしは今日も ふんふん と 
あなたの腐った愚 ....
( 世界は 
( 透けた瓶の内にある 

森の小道を裸足で走り 
汗をかいたラムネの器の底を手に 
真夏の空に傾ける 

( 星のころがる、音がする。  

{ルビ蝉時雨=せみしぐれ ....
車椅子に座る 
小さいお婆ちゃんを 
前から抱きかかえる  

少し曲がった 
「 人 」という字そのものに 
なれた気がする 

ごめんなさい、ごめんなさい 
と繰り返すので
な ....
テレビをつけると 
瓦礫の山から掘り出され 
額に血を流した中年の女が 
担架から扉を開けた救急車へ 
運び込まれていた 

その夜 
テレビの消えた部屋で 
歯を磨き終えたぼくは 
 ....
大型台風は 
太平洋沿岸を次第に逸れて 
中心の(目)を閉じていった 

数年ぶりに
{ルビ小動=こゆるぎ}岬に立てば 
鉛色の海に
幾重も立ち昇る 
龍の白波 

腰越港へと続く ....
今日は盆の入りなので 
夜家に帰り門を開くと 
家族は敷石の一つに迎え火を焚き 
両手を合わせ
揺れる炎を囲んでいた 

初老の母ちゃんが 
「 お爺ちゃんがいらっしゃるわよ 」 
と ....
二十一世紀の
ある青年は日々 
( 姿の無い誰か )が 
自分を呼んでいる気がした 

 *

二千年前の遠い異国で 
ある村の漁師は湖の畔に立っていると 
背後を誰かが通りすぎ 
 ....
数週間かけてつくった 
富士山の大きいパズルも 
遂に最後の1ピース 

・・・というところで 
頂上のましろい1ピースが 
無い・・・! 

わたしは探す 
目を血走らせ 
床を ....
地下道の便所の前に 
何も書かれていない 
真っ白な短冊が 
くしゃりと折れて 
落ちていた 

無人の通路に 
夜の靴音を響かせながら 
便所を通り過ぎる 

Tシャツの背中を  ....
若い母の膝上に
抱かれた幼子は 
ぐわ〜ん ぐわ〜ん 
と泣きわめいていた 

やがてその泣き声は 
ぐわはは ぐわはは 
と転がる笑い声になった 

人目を気にしながら 
若い母 ....
利休の茶室は 
入口が小さかった 
天下を取った秀吉が 
身を屈まねば 
入れぬほど 

弟子の手がすべり 
お茶を畳にこぼす 
利休は 
(まぁ気にするな)と 
ゆるしてやった  ....
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
幕の向こう 自由詩307/8/31 20:02
誰かの手自由詩607/8/26 22:42
( 無題 ) 自由詩307/8/26 22:39
水ノ鏡自由詩207/8/26 22:37
献花 未詩・独白407/8/24 22:54
いのり 自由詩607/8/18 0:28
雲の帽子 自由詩507/8/18 0:03
向日葵の声援自由詩507/8/17 23:44
扇風機 [group]自由詩407/8/13 23:22
雲の船 自由詩607/8/12 9:58
野の花 未詩・独白407/8/12 9:49
昼間の父さん 自由詩707/8/6 20:20
Tea Time自由詩607/8/6 18:38
蝋燭の灯 自由詩607/8/6 0:18
はだかになりたい 自由詩807/8/4 4:29
空が割れた日  自由詩107/7/30 22:43
選挙の日 自由詩107/7/30 1:18
Happy Star 自由詩307/7/30 0:52
忘れもの 未詩・独白8*07/7/26 18:47
虫の味 自由詩11*07/7/24 23:56
蝉時雨 自由詩11*07/7/19 17:35
「 人 」 自由詩18*07/7/18 21:50
掌の上に 自由詩13*07/7/17 0:59
腰越自由詩6*07/7/15 14:33
盆ノ夜 自由詩9*07/7/14 1:29
風ノ人自由詩7*07/7/9 21:22
幸福のピース 自由詩8*07/7/8 19:58
白い短冊 自由詩10*07/7/8 2:51
授乳のひと時 自由詩3*07/7/8 2:46
茶人と将軍 自由詩1*07/7/7 3:36

Home 戻る 最新へ 次へ
36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 
0.12sec.