小景 〜父と娘〜
服部 剛
少女は高い
椅子
(
いす
)
に上ろうとしている
小さいお尻をどっかり下ろすと
食卓には色とりどりのご馳走とデザートが並んでいる
食べ終えると飽きてしまう少女は
物足りず他の何かをきょろきょろ探す
かじりかけのパンと
苺
(
いちご
)
のへたを皿に残し
椅子から飛び降りて走り出す
大小のマグカップを並べて紅茶を入れる父の背中をめがけ
「パパーーー」
と一直線の足音をたてて
ふいに母の不在を思い出し
少女の瞳から涙があふれる
父の首に小さい両手を回し
肩に震えるあごを乗せ
ぴったりと抱かれた体は暖まる
柔らかい髪を大きい手に撫でられ
宙に浮いた足をぶらつかせる
父は静かに瞳を閉じている
自由詩
小景 〜父と娘〜
Copyright
服部 剛
2006-03-10 19:11:10
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