椅子の並んだ暗い部屋
映写機の背後に立つ人が 
かちっとスイッチを入れる 

 闇をつらぬくひかりの筒 

スクリーンに映し出す 
交差点を行き交う 
無数の人々の足 

試写室の ....
建築中で骨組みの
家の前で 
彼はぼうっと立っています 

皆それぞれ忙しそうに 
柱の上や足元で 
とんとん釘を打ってたり
しゅっしゅとカンナで削ったり 
重いバケツを運んだり 
 ....
{ルビ呑気=のんき}な仮面を被っていても 
ほんとうは 
わたしもあなたとおんなじように 
ひとつの大きい影を背負って 
流浪の旅路を歩いています 

木造校舎の開いた窓に 
手を振って ....
今にも崩れ落ちそうな
{ルビ脆=もろ}いわたしの内側に 
いつまでも崩れずに立つ 
たったひとりの人がいる 
これは一体誰だろう 
心から重荷を取り除けない 
無気力な秋の日 
よい本を探しに本屋へ歩く 

背後の空から 
何者かが舞い降り 
わたしの髪にのったので 
{ルビ咄嗟=とっさ}に手を出し振り払う 

 ....
わたしは怠け者であるゆえに 
連休前に風邪をひき 
おまけの休みの時間のなかで 
らんぷ一つの寝台によこたわり 
両手に持った本を開いて 
在りし日の 
詩人の哀しみを読む 


  ....
らんぷ一つのテーブルに 
湯飲みはひとり 
ねじれた影をのばして立っている  

窓の外から聞こえる 
鐘の音や鈴虫の唄
歪んだ唇を開いた{ルビ縁=ふち}からすいこみ 
器の形のままに入 ....
昨日は忙しい時間に 
トイレに座らせたお婆ちゃんの 
下ろしきれなかったパンツが 
お尻と便座に挟まって 
無理に脱がせると 

  びりり 

両手で持ったパンツには 
小銭の穴が ....
異国へ旅立つ 
彼の背中を 
小さい額の中から 
いつまでも 
亡き母はみつめていた 

手前に置かれた花瓶の百合は 
あふれんばかりに咲き乱れ 
いくつかの細長い{ルビ蕾=つぼみ}は ....
信号が赤になり 
車を停めると 
予報外れの雨粒を拭う 
ワイパーの向こうに 
頭を霧に覆われた
高層マンション 

霧のちぎれる間に覗いた 
バルコニー 
干されたままの布団がひと ....
自分の名前を忘れてしまった
お婆さんのお尻を
「よっこらせ」
と抱えながら
車内の椅子に乗せた後  

息子の嫁さんが 
「これ、ありがとうございました」 
と透けたビニール袋を手渡し ....
ぎらぎらと 
眼の光る犬が 
飼い主に首輪をつながれ 
通りすぎた 

わたしもあんな眼で歩き 
いつも空から{ルビ観=み}ている飼い主が 
今日という日にそっと隠した 
見えない宝を ....
捨てられた便座の{ルビ蓋=ふた}が 
壁に寄りかかり 
{ルビ日向=ひなた}ぼっこしている 

日射しを白い身に浴びて 
なんだか 
とても幸せそうだ 
見上げた秋の夜空に昇る 
丸い月の下を 
千切れ雲は{ルビ掠=かす}めゆく 

光に浸した綿の身を 
何処かへ届けるように 

月明かりに照らされた 
十字路に立ち止まり 
マンホー ....
早朝、床に坐り 
瞳を閉じるマザーは 
今日の路上で出逢う飢えた人と 
お互いの間にうまれる 
あの光で 
幸福につつまれるように 
無数の皺が刻まれた 
両手を合わせる 

身を包 ....
コンクリートの壁に囲まれた 
独房のような病室のベッドの上
路上に倒れていた男の 
ふくらはぎに密集して肉を喰う
すべての虫を布で拭き取る 
白い服の老婆 

「 マザー・・・  
  ....
朝食をとるファーストフード 
一年前はレジカウンターの向こうで 
こまめに働いていた 
君の姿の幻を 
ぼんやりと夢見ている 

その可愛らしさは 
指についたシロップの味 
今ここに ....
先週皮がめくれてた 
お爺さんのお尻の傷を 
トイレの時に確認したら 
するりときれいになっていた 

看護婦さんもやってきて 
「先週塗ったわぜりんが効いたのね 
 わぜりんは、いい奴 ....
早朝の{ルビ人気無=ひとけな}い聖堂で 
十字架にかかった人の下に{ルビ跪=ひざまず}き 
両手を合わせる
マザーテレサのように 
つらぬかれたこころがほしい 

修道院から 
何も持た ....
店内に置かれた 
壊れた自転車の傍らに 
しゃがんだ青年は 
工具を握る 

「 本屋さんはどこですか? 」 

歩道を通るわたしの声に 
こちらを見上げた青年の 
汚れた頬に 
 ....
小高い緑の丘の上 
地面を離れ 
羊が宙に浮いていた 
大きい背にのる子羊は 
仰いだ空から降りそそぐ 
見えない言葉を 
浴びていた 
家族による暴力で 
老人ホームに来るごとに 
体中の傷がどす黒くなってゆく老婆 

国も 
市も 
施設も 
ケアマネージャーも 
ヘルパーも 
一介護職員の自分自身も 
手を差し ....
不器用な自分という役を 
脱ぎ棄てたくなった夜 
無人のバス停のベンチに 
重い腰を下ろし 
虚ろな瞳を見上げると 

( お気軽に ) 

壊れた電光看板の 
止まったままの赤文字 ....
誰も知らない薄闇の部屋で 
鏡を見ると 
虚ろな瞳で呆けた人が 
消えかかった足で立っている 

虚ろな人の背後に現れる 
黒布で覆い隠しにやける 
{ルビ朧=おぼろ}な{ルビ髑髏=どく ....
水は 
どんな器でも 
形のままに入る 

わたしはいつも 
誰かの器に合わせず 
濁った水を 
入れすぎたり 
足りなかったり 

もしもわたしが透明ならば 
誰かの器にぴった ....
目の前にいる誰かを 
幸せにできぬ自分など 
無くなってしまえばいい 

わたしの消えたところに 
もっと優れた人が現れて 
そこは{ルビ日向=ひなた}になるだろう 
緑の山の真中に 
{ルビ白鷺=しらさぎ}が一羽枝にとまり 
{ルビ毛繕=けづくろ}いをしている 

曇り空に浮かぶ 
青い空中ブランコに腰掛けた 
わたしの眼下に敷かれた道を
無数の車は ....
居酒屋で 
ビール片手に酔っ払い 
まっ赤な顔して 
柿ピーの一つひとつを 
座敷畳の隅に並べ 
目尻の下がった
頼りない 
顔をつくる 

「 なんだか俺みたいだなぁ・・・ 」 
 ....
気まぐれな
夏の恋に傷ついた
氷の心

{ルビ尖=とが}った氷が
音も無く溶けゆく 
晩夏の宵 

やがて
秋の虫の音は 
一人きりの夜に
無数の鈴を
鳴らすだろう 


 ....
銀座の路地裏に入ると 
色褪せた赤い{ルビ暖簾=のれん}に 
四文字の 
「 中 華 食 堂 」 
がビル風にゆれていた 

( がらら ) 

曇りガラスの戸を開くと 
「 イラッ ....
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
空の映写機 自由詩607/10/7 18:30
うつろな大工 自由詩107/10/7 18:07
山下 清 自由詩7*07/10/7 17:29
( 無題 ) 自由詩3*07/10/5 18:00
虫の信号  自由詩207/10/5 14:38
風の顔 自由詩707/10/4 17:15
湯飲の影 自由詩507/10/3 18:53
三つ編みの手自由詩8*07/10/2 19:46
Ave Maria 自由詩4*07/9/30 21:04
濡れた布団 自由詩3*07/9/30 20:38
味噌汁の絵 自由詩207/9/29 22:27
犬の眼 自由詩4*07/9/28 20:47
ゴミ置き場 自由詩5*07/9/28 20:35
月夜ノ呼声 自由詩3*07/9/27 22:04
足裏の顔 自由詩6*07/9/23 19:01
天使の人形 自由詩5*07/9/23 18:01
金細工の人形 自由詩4*07/9/21 21:28
わぜりん君 自由詩7*07/9/19 22:49
「 踏絵 」 自由詩207/9/19 1:18
自転車屋 自由詩407/9/17 20:42
( 無題 ) 自由詩007/9/17 20:23
老婆の心臓 自由詩3+07/9/14 22:05
夜空のバス 自由詩207/9/14 21:44
月夜の手紙 自由詩107/9/14 21:23
水のこころ 自由詩307/9/12 21:40
( 無題 ) 自由詩5*07/9/11 4:58
空の椅子[group]自由詩7*07/9/9 12:20
福笑い自由詩707/9/2 17:31
夜ノ鈴音自由詩4*07/8/31 21:20
中華食堂自由詩1007/8/31 20:38

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