蜜柑の木々が生い茂る 
庭園の芝生に立つと 
山の緑の間に 
遠い海は{ルビ煌=きらめ}き 

枝々の無数の実は 
青みがかった光を帯びて 
自らの歓びを 
天に捧げておりました 
 ....
混みあう電車のなかに 
何もわからぬ少年が 
瞳を閉じた 
父の両手につつまれている 

車窓の外は 
今日という日を照らす
太陽を背に 
一羽の{ルビ鳶=とび}の黒影が 
翼を広げ ....
さりげなく立ち上がり 
少女は老婆に席をゆずった 

吊り革につかまる少女と 
{ルビ安堵=あんど}のため息で腰を下ろす老婆の間に  
見えない幸福がふくらむ 

やさしいものは 
す ....
日曜の床屋の順番待ちで
向かいに座る少年が 
ウルトラマンの本を開いて 
手強い怪獣の輪郭を指でなでる 

少年の姿に重なり 
うっすら姿をあらわす 
30年前の幼いわたし 

開い ....
長い間 
部屋の隅に折り畳まれ 
埃を被った 
老人ホームの誕生表 

空色の模造紙を開き 
両端に咲く 
太陽の花 

まっすぐのびる 
2本の茎の間に 
お年寄りの名前と誕生 ....
「目には見えない神仏は 
 いったい何処にいるのでしょう」 

わたしの問いを聞いた師は 
砂を一山{ルビ笊=ざる}に盛り 
{ルビ篩=ふるい}にかける 

どんなに激しく振り落としても ....
バス停に置かれた 
切り株に腰かけ 
川沿いの道の向こうにある 
斎場を眺める 

{ルビ一月=ひとつき}前に 
木魚の響くあの場所で 
遺影の額から微笑した 
老婆のからだはすでに溶 ....
手にしたペットボトルから 
色水みたいなジュースを飲み 
{ルビ騙=だま}されたような気がした日 

長い間畑仕事をしていた 
老人ホームの{ルビ婆=ばあ}やは言った 

「昔は農薬なん ....
最近運動不足だったので 
行きも帰りも 
家と駅の間を歩き 
めっきり乗らなくなった自転車が 
ある冬の日の玄関で 
肌寒そうに置かれてた 

( 今日は休みだたまには乗るか ) 

 ....
女を抱きたいと思う 
白いからだに潜む 
うるんだ瞳にすける 
哀しみを抱きたいと思う 

街の隠れ家で 
互いの{ルビ凹凸=おうとつ}をくみあわせ 
闇に吐息の漏れる時 

寂しい ....
北風に震える 
枯葉並木の向こうへ 
携帯電話の画面を見ながら 
朝の歩道をのんびり歩く 
ふたりの女子高生を 
追い抜く 

シャッターを開いた 
動物病院の女医が運ぶ 
{ルビ檻 ....
小さい頃 
目の前に立ちはだかる 
でっかい親父と向き合い 
パンチの練習をした 

額にあてられた 
ぶあつい手に 
視界を覆われ 
打っても打っても届かない 
小さい拳 

 ....
わたしは欠けた器です 
あなたも欠けた器です 
テーブルの上に置かれた 
欠けた器がむきあうと 
さびしいすきまに 
風のふしぎは吹きぬけて 

別々だった 
あなたとわたしは 
ひ ....
重労働でつかれた日 
夕餉の煮物に入った 
れんこんのきれはしを箸でつまむ 

「れんこん食べると(先が見える)よ」
というお婆さんの言葉を思い出すと  
3っつの穴がぼくに笑った 

 ....
わたしはいつも欠けている 
あなたもいつも欠けている 
欠けた互いがむきあうと 
こころのさびしいすきまには 
風のふしぎが吹きぬけて 

別々だった 
あなたとわたしは 
ひとつです ....
昔より少しやわらかい指で 
通勤バスの「降車ボタン」を 
押すようになった 

力むでもなく 
緩むでもなく 
ほどよい緊張で 
ともにすごす
誰かとの間にたゆたう 
絆の糸を結べる ....
「 無 」の風が吹きぬける 
わたしの胸のましろい空洞から 
ひとり・ふたり・・・と 
かけがえのない人影がこちらに歩いてくる 
きょうというひのできごとの 
いいとわるいを 
きめるのはやめよう 

え? ということも 
あとで よかった になる 
はからいのふしぎをおもいたい 

わたしのひとみに 
うつる ....
中年サラリーマンの膝上に 
大事に抱えたバスケットの{ルビ蓋=ふた}を開け 
ひょっこり子犬は顔を出す

うたた寝首を垂れている 
飼い主の顔を{ルビ覗=うかが}い 
時折子犬は体を反らす ....
ほんものは 
かぜになびいた 
いなほになって へりくだる 

わたしはいつも 
ささいなことでいじをはり 
いなほになれず そりあがる 

じょうしきてきな 
じょうしのこごと 
 ....
机の上に置かれた 
飲みかけの水がゆれるグラスに 
一粒の太陽がひかる 

パスタ屋の2階から見下ろす 
銀杏並木の道を 
まっすぐに人々は 
みえないものに押されるように 
それぞれ ....
「 愛してる 」 

男が100回言ったところで 
女のこころはみたされず 

男は花屋へ駆けてゆき 
3000円の花束を胸に 
女のもとへ舞い戻る 

花束を手渡す時に 
互いの ....
{ルビ昨夜=ゆうべ}の仕事帰りから 
だいぶ冷えこんで参りました 
少し背を丸めて街ゆく人のなかに 
首に巻くマフラーを風になびかせ 
ひとりの老婆が杖をついていました 

手袋をして 
 ....
ペットボトルのゴミ箱に貼り紙一枚 
「ラベルははがしてすててください」 

点線に沿い 
びりっとはがそうと思ったら 
なかなか切れずにはがれない 
意固地な自分を脱がない 
がんこ者の ....
目の前に 
清らかな川の流れがあった 
両手ですくった水を飲むと 
足元の小さい花がゆっくり咲いた 

村に戻り 
壺に汲んで運んだ水を 
器にそそいで皆にわけると 
口に含んだ人のこ ....
「 誕生 」という地点から 
「 死 」へと結ばれる 
一本の糸の上を 
わたしは歩いている 

頼りなく両腕をひろげ 
ひとりきりのサーカス小屋の舞台上を 
よろよろつなわたる道化とし ....
朝食のバナナをほうりこみ 
口をもぐもぐさせながら 
ねぼけまなこで 
汚れた作業着をはく 

ポケットから取り出した 
昨日の悔しい仕事のメモを 
丸めてゴミ箱にすてる 

窓から ....
その頃田舎で独り暮らす老婆は
畳の部屋で湯飲みを手に 
炬燵の上に置いた
一枚の白黒写真をみつめていた 

身に纏う軍服と帽子の唾下から
時間を止めたまま今も微笑む 
あの日の息子 
 ....
江ノ電の窓辺に{ルビ凭=もた}れ 
冷たい緑茶を飲みながら 
ぼうっと海を見ていた 

突然下から小さい手が伸びてきて 
「かんぱ〜い」 
若い母の膝元から 
無邪気な娘がオレンジジュー ....
    彼は文学館の一隅に再現された、今は亡き作
    家の書斎に立っていた。木目の机上には白紙
    の原稿用紙が一枚置かれ、スタンドの灯りに
    照らされていた。

    まだ ....
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
蜜柑の木陰 〜鎌倉文学館にて〜 自由詩4*07/12/4 18:48
父の両手 自由詩207/12/3 22:25
「 優 」未詩・独白0*07/12/3 22:10
いつかの少年自由詩6*07/12/2 23:55
誕生表 〜太陽の花〜 自由詩4*07/12/2 19:40
( 石 )自由詩007/12/2 19:28
風のこころ 自由詩207/12/1 21:01
人間の味 自由詩2*07/11/30 20:54
自転車の唄  自由詩7*07/11/29 21:46
夜ノ糸  未詩・独白6*07/11/29 21:21
檻の犬 自由詩4*07/11/29 18:45
シャドウボクサー自由詩607/11/26 1:01
風のふしぎ 自由詩507/11/25 9:17
れんこんの顔 自由詩307/11/24 21:47
( 無題 )  自由詩307/11/24 21:37
日々の劇場 自由詩307/11/23 19:42
「 ○ 」 自由詩407/11/23 19:24
ふしぎな道 自由詩3*07/11/21 19:57
飼い主と犬 自由詩2*07/11/20 20:32
ふぃぎゅあまん 9.99 自由詩6*07/11/20 19:32
一粒の太陽 自由詩2*07/11/19 20:31
言葉の花束 未詩・独白2*07/11/19 20:18
あたらしい季節 〜ある友への手紙〜 自由詩107/11/19 8:24
空の器 自由詩207/11/16 21:14
水のふしぎ 自由詩8*07/11/15 20:07
彫刻の顔 自由詩6*07/11/14 19:24
緑の芽 自由詩4*07/11/13 19:50
「 詩人の窓 」 自由詩3*07/11/12 21:29
ウルトラマンの人形 ー江ノ電にてー 自由詩7*07/11/8 21:44
ルーアンの鐘 自由詩1*07/11/8 20:32

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