天使の人形 
服部 剛

コンクリートの壁に囲まれた 
独房のような病室のベッドの上
路上に倒れていた男の 
ふくらはぎに密集して肉を喰う
すべての虫を布で拭き取る 
白い服の老婆 

「 マザー・・・  
  道端の獣のようなわたしを 
  なぜ拾ってくれたのですか・・・? 」 

痩せてくぼんだ瞳に 
老婆は黙って 
まなざしをそそぎ 
直立の人形になった 
病人の傍らで 
折れ釘の小さい背を丸め 
一匙ひとさじかゆを口に含ませる 

病室の 
小さい窓から 
ひとすじの夕陽は射し 
唇にふれた 
匙が光る 

「 マザー・・・ 
  これでわたしは 
  遥かな国へ 
  帰れます・・・ 」 

陽は暮れて 
男が瞳を閉じた後 
老婆は静かに部屋を出る 

やがて夜は明け 
小さい窓から射す
朝の日溜りが広がるベッドの上 
痩せた男の顔はほころび 
二度と瞳を開かぬ 
天使の顔になっていた 





自由詩 天使の人形  Copyright 服部 剛 2007-09-23 18:01:32
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