「 詩人の窓 」 
服部 剛

その頃田舎で独り暮らす老婆は
畳の部屋で湯飲みを手に 
炬燵の上に置いた
一枚の白黒写真をみつめていた 

身に纏う軍服と帽子の唾下から
時間を止めたまま今も微笑む 
あの日の息子 

若かった母の頃 
愛する息子を戦地に見送り 
毎朝仏壇に白い両手を合わせ 
( もっとよか世がきますように・・・ ) 
祈り続けた昔の日々 

二十一世紀の街を往く人々は 
銃弾の無い戦地に 
青ざめた羊の顔で今日も彷徨う 

遠い昔の戦中も 
アメリカの傘が薄れる戦後も 
何処にも よか世 は現れず 
人波に紛れた
独りの詩人のこころの窓に 
おぼろな光に包まれた 
よか世 がぼんやり映っている 

詩人のこころの窓を覗くと 
薄青い空の広がりに 
謎めく男の黒影が浮かび 

高層ビルの立ち並ぶ 
二十一世紀の空虚の街に 
無数の透けた手紙を蒔いていた 








自由詩 「 詩人の窓 」  Copyright 服部 剛 2007-11-12 21:29:00
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