蜜柑の木陰 〜鎌倉文学館にて〜 
服部 剛

蜜柑の木々が生い茂る 
庭園の芝生に立つと 
山の緑の間に 
遠い海はきらめき 

枝々の無数の実は 
青みがかった光を帯びて 
自らの歓びを 
天に捧げておりました 

冷たい風が吹いて来て 
茂る葉群はむれはざわざわ震え 

見上げた木陰に 
ひっそりと身を隠し 
細い枝に吊るされた 
独りの蜜柑がありました 

木陰に揺れる 
蜜柑の顔の幻影は 
在りし日の詩人のように 
黒いシルクハットを被り 

 生きるでも 
 死ぬでもない 
 時を忘れた虚ろな瞳 

いつまでも 
こちらをみつめておりました 





自由詩 蜜柑の木陰 〜鎌倉文学館にて〜  Copyright 服部 剛 2007-12-04 18:48:46
notebook Home 戻る  過去 未来