父が釣りに連れてってくれた
それから数日後か
数ヵ月後か
数年後なのか
忘れてしまったけれど
近所のおじさんか
同級生か
はたまたいもしない
兄なのか
とんびなのか
カ ....
父さんが
なれなかった父さんに
なろうと思う
父さんは
自動車が好きで
僕は
自転車が好き
自転車に乗る
父さんを
僕は見たことがないし
自動車を運転する
僕を父さ ....
アメリカを好んだ
わたしから
アメリカを除くと
わたしだけが残った
アメリカが
わたしなのではなかった
フロリダも
シスコも
ロスも
わたしが好む何かではなくて
それは ....
あちらのお客様からです
とウエイトレスが運んできた
飲み物には
温度があった
冷たいものも
温かいものも
ひとたび口にすれば
喉を通っていく
あちらのお客様からです
と ....
生きている頃
机があった
その上に
人が寝そべるための
ものではなかった
机の上には
鉛筆とノートがあった
どうでもいいことばかり
書いていたけれど
今は本当に
どう ....
いつも僕の背中を見ていた
祖母がお日さまを見るように
僕の背中を見ていた
僕が祖母のお日さまだなんて気づく必要もなく
その眩しそうにしてる目に気づくこともなく
あるがままに輝いて ....
ほしいものも
いらないものもない
とあなたは
いったけれども
パンツをはかずには
いられなかった
ぼくらのまっしろな
そのむこうにある
ここにはたしかに
ちがうところがあ ....
こびとの ふねが
ちいさな おおきな ふねが
たそがれの
うみへ きえてゆく
いま みたばかりの
まど まど まどが
そこからみえた
ゆうやけの
ひとつ ひとつでも
....
ふと鏡にうつる
その男を
街にやってきた頃
わたしは見ていた気がする
街に来た母と
ある居酒屋で飲みながら
いつか海外旅行に連れてってやると
豪語した
そのカウンターの ....
このからだの中に
海がある
真っ赤な血が
夜よりもくらい暗闇で
波打っている
今も確かに
沖のかもめが
今鳴いた
わたしの中で
確かに今
浜辺から続く道を
手 ....
くるしいの
とたずねると
くるしくないと
こたえていた
あなたはもういない
いたのかさえ
もはやわからない
いまがいまにそまって
ただとりのさえずりが
くるしくな ....
あることも
ないことも
ぜんぶある
あのひとは
ほんとうは
ぞうなのだ
そのひとたちには
みえている
りんごをつかむ
ながいはなも
むしをおいはらう
ほそ ....
この季節になると思い出します
行きも帰りもバスでした
山奥の芋煮会場に着くと
澄んだ風が吹いていました
肌が乾いてなつかしい気がしました
網目になった体を
すうすう吹き抜けてい ....
ろくでなしの父親が
息子が来年
六歳になる頃には
幼稚園に行かせてやると
飲みながら大ぼらをふいて
株価を上げようとしている
職場では
仕事をどんなにこなしても
それが ....
お正月
母の実家から見える
山脈の麓にスキー場があった
数キロ続く田の先にある
駅前の街のそのさらに数キロ続く
田の果てに
スキー場が見えていた
とても遠いところなのに
....
操られた体が
わたしに還ってくる
ある夏の日に
今日は何しようかと
思うことができた朝
父に誘われて釣りに行った
帰り道
あの日と同じ夕日を
今は息子と見てる
明日の ....
息子が生まれた日のちょうど一ヵ月後、
わたしはそれまで勤めた職場を辞めてきた。
午後四時半頃だったと思う。
いつもより早い帰宅に不穏な顔をしてる妻、
わたしはアパートのドア ....
交差点でおもう
もしもわたしが信号だったなら
赤で人は止まるだろうか
そして青になったとき
人はわたしを通過して
行ってしまうのだろうかと
青に変わって
信号待ちの人が
....
階段を昇降する足音が聞こえる
非常口を開けると足音は止み
階段も非常口もないことに気づいた私は
宇宙空間にただ一人浮かんでいるのだった
かつてそこで生まれて死んだ
惑星の欠片のよ ....
鳥のなかに
からだごと入ると
母のようにあたたかい
まだ生きている
わたしのように
鳥も飛び
わたしも鳴く
父が死んだように
湖になって
空を映している
わたしも映る ....
命がひとつあった
命なんていらないと
思ったときもあった
命がふたつあった
どちらかの命が
残ればいいと
思った恋もあった
命がみっつになった
みっつすべて
残ら ....
落書きが欲しくて
お金を渡すと
気軽に売ってくれた
壁のような人が
また何かを遮るため
無表情のまま立っている
それを見ている
人のような壁が
落書きの中にいた
壁のよ ....
川がある
命の川だ
ありもしなかった
そこをいつからか
川が流れている
今そこにしかない
川を見て
見届けている
私がいる
うすぐらい部屋の隅で ....
庭の外に
泣いている人がいる
君の友達だったかもしれない
それは秋の虫だ
りんりんと
しんしんと泣いている
まだ死にたくなかったのだろう
泣く声は、鳴く声になって
いと ....
港のにおいがする
海ではなく
人間くさい
暮らしがあるところに
海ちゃんがいる
死んだはずなのに
どうしているのだろう
首をかしげると
首がないことに気づく
わたしの耳に ....
http://www.youtube.com/watch?v=xYJEzzhvj0E
このドラマ、知ってますか?
僕が子供の頃、とても好きなドラマでした。
こういう懐かしいも ....
ひさしぶりに
裏庭を見ていた
貝殻や
魚の死骸が
たくさん漂着していた
いつのまに
海が来ていたのだろう
命はまだ
こんなにも
満ちているのに
干潮の砂浜を ....
こうちゃんがいる
淹れたての
紅茶の湯気の向こうにいると
寝言を言って
祖母は祖父を追うように
逝ってしまった
けれども祖父は
こうちゃんという
名前ではなかった
....
姿がないほうが
生きている気がして
その声さえ失い
わたしは言葉になって
あなたを待っている
言葉を読む
あなたにはきっと
姿があるだろう
形を維持したまま
温度を上 ....
生まれたばかりの
息子の写真を
四歳になったばかりの
息子に見せて
これは誰
とたずねていた
すると
赤ちゃんとこたえる
でもこれがおまえだよ
とおしえると
にわか ....
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