敷布に押しこまれた
  あなたのからだは私が
  思ったよりはるかに固かった
  きたない床をつま先でやりすごす
  垢のういた日々が私たちの居場所だから
  言葉のなかにかくさ ....
  秋の町は、
  くれないのさざなみ
  思い出はずっと乾いていた
  ポケットのなかの木の葉



  あのひとからはもらい損ねた
  微笑みの匂いがする
  きみと帰る ....
  ボンネットに
  縞模様の葉と夕日がはずむ
  萌えゆく色のストッキングに
  つつまれた腿をにらむ
  どんな味がするのか
  あなたとの愛は
  歓びはなかった
  とはいえ哀しみもなかった
  わたしたちはベンチを分け合って座り
  冬の始まり、辺りに人影はなかった
  言葉はさっきまで……あった
  今は沈黙さえ、ない ....
  せめて、
  あなたには桃を食べていてほしい
  朝のかなしい光のなか 窓のあたりに椅子を置いて



  それ以外なにも望まない
  古い歌があなたの心に絶えず降ってくる
 ....
  蜻蛉は交尾をおこないながら
  我々の視界に掻き傷を残して飛ぶ
  川沿いに歩きつつ、我々は幾つかの砂州を見る
  明日にはまた違う形に変わっているだろうか



  まだ我 ....
  敷き詰められるように並んだ
  黒い車たちは、なにものかの無意識の
  先遣隊としての役割を負っていた
  砂の詰った頭蓋で老人が嗤うが、
  可笑しなことは殆どひとつもない
  ....
  飛び降りてみるのもいいかもしれない
  きみの昔話は、ちょうど開けた土地を過ぎ
  ひどく思い切りのいい 崖に着いたところだった
  足もとで禿鷹が喰っているのはなんの屍肉か
   ....
  恰もみずからが
  一つのテーゼであるかのような
  岩の静けさ……けれども
  誰にも触ることのできない
  あおい歌が、あおい、うたが
  きみのなかでふるえているのをしって ....
  夜の芝生で
  いるかは一度だけ跳ねた
  手に拾えそうなほどの光が今日、
  とおくの月やら星やら町やら、そんなものから
  迷いこんできていたから、けれども
  そのなかを泳 ....
  なかば開かれた窓の傍ら、
  揺り椅子で膝を抱えあなたは風を舐めている
  なにもかもが 透明なジャッカルと化して
  あなたの内なる屍肉を貪っているのだろうか
  みどりいろの西 ....
  土嚢でも背負っているのだろうか
  きょうの町は、肩の辺りが硬く強張っている
  木陰のところで音楽は重なりあって死んでいる
  物欲しげな野犬は吸い殻に鼻を近づけやがて立ち去った
 ....
  しろい頬をこちらにむけて
  月が肩をふるわせている
  窓の外から、じっと
  石でできた町がぼくを見上げる
  けれども雨がふっているのはまだ
  きみの瞳のなかでだけ
  ....
  入り口の方にあなたが立っていたが
  出口の方にも同じようにあなたが立っていた
  べつに邪魔をしているわけでなくただ立っているだけのこと
  そういえばそのような薬物をわたしはどこ ....
  暗号は箪笥にしまわれていたが
  防虫剤の匂いに毒されもう使い道はなかった
  幼少期に誰もが熱をあげやがて棄て去った玩具同様
  為されるべきことは二、三あったものの
  その手 ....
  一日中、
  こわれた雨樋をみていた
  網戸にささって死んだ虫をみていた
  あなたがこのよにいきているなら
  わたしがしぬことはぜったいにない
  わたしたちのなかで 言葉 ....
  そこの膝掛けの上に置かれている
  一匹の沢蟹なのだが、
  数日前にある男が用いた
  あわれな比喩の成れの果てだ
  今となってはその詳細は思い出せない
  それに彼は十中八 ....
  夏影を
  蛇の身がなぞる
  あおじろくつめたく
  すべての陽がきえていく
  汗が鎖成す、おまえの鎖骨
  はきつぶされた靴は
  あなたの手にひろいあげられ
  鳶の影は 青い空を円の形に縫う
  午後、けれども其処彼処の綻びから
  光は果物のように落ちてくるのだろう
  宇宙船は庭にうかんでいた
  宇宙船はトマトのように赤かった
  宇宙船は言葉のようにつめたかった
  どうでもいいが窓際でティッシュペーパーをしいて
  二週ぶりに伸びた爪を切っ ....
  酒の肴がほしいか
  窓から家が見えるだろう
  そろそろ竣工をむかえそうだ
  犬の舌がながくのびている
  それでも私の声が聞こえるなら
  醤油差しをとってくれないか
  陽の光があふれるところで
  あなたのからだを抱いていた
  影は こまかい枝のようになって
  わたしたちに踏まれている
  世界から背をむけてまで
  夢見ることを手放してま ....
  シャツの色をわすれた
  自転車を仲よくならべた
  川沿いの道にいつもあった
  だれのものとも知れないさびしさ



  三日月にすこし濡れた
  きみの膝こぞうをそっ ....
  硝子に映った一頭の駱駝は
  あなたのまわりのどこにもいない
  オアシスには細かい霧の粒が浮かび
  かれの毛並みを気高く妖しくみせているが
  大きな{ルビ二瘤=ふたこぶ}にか ....
  コールタールの
  夕ぐれは さびしい匂い
  潮風のながれを瞳にうつしながら
  ちいさな犬を飼いたいと思っているあなただ
  窓に背をむけて
  なにかを書きとめていた
  あなたに小さく呼びかけた
  微かな灯りのともる夏、
  砂のまじったわたしの思いは
  野良猫のとなりで寝ていた
  わたしの心が
  くらげのかたちになったら
  会いにきてくれますか



  手のひらに月をすくい
  くちびるを歌でみたし
  むかえにきてくれますか
  わたしの心 ....
  猿は黙って登ってくるのだ
  かれらにしかみえないおまえの
  躯に穿たれた釘を伝っておまえの頂まで
  それでも数匹は諦めて引き返すし
  また数匹は手を滑らせて落ちてしまうし
 ....
  きみの手についていた指は
  たしかにきみの手についてはいたが
  なんだかきみのものじゃないみたいに
  肩におちた長い髪から 夕暮れの光をとりわけていた
  わかることも わか ....
草野春心(1149)
タイトル カテゴリ Point 日付
雑巾[group]自由詩514/10/13 21:07
さざなみ自由詩414/10/12 22:28
ボンネット[group]自由詩314/10/4 21:50
街路樹自由詩614/9/28 21:59
望み自由詩514/9/28 19:55
砂州自由詩214/9/21 18:41
先遣隊自由詩214/9/21 14:18
崖にて自由詩314/9/14 22:50
あおい歌[group]自由詩314/9/14 21:15
夜の芝生[group]自由詩714/9/7 22:30
嗤うジャッカル[group]自由詩414/8/31 20:04
移住自由詩814/8/24 9:50
砂の城自由詩514/8/23 17:12
悪魔[group]自由詩714/8/20 21:43
我々の暗号自由詩714/8/17 22:22
雨樋[group]自由詩814/8/10 14:50
あわれな比喩[group]自由詩414/8/3 21:31
蛇と鎖骨自由詩514/8/3 11:48
綻び自由詩514/7/25 23:22
宇宙船[group]自由詩414/7/24 23:33
自由詩114/7/21 23:03
醤油差し自由詩214/7/21 22:04
からだ自由詩514/7/21 18:46
恋は三日月自由詩814/7/20 11:04
硝子に映った駱駝自由詩414/7/19 23:01
コールタールの夕ぐれ自由詩314/7/13 20:57
野良猫自由詩4*14/7/13 10:57
わたしはくらげ自由詩814/7/12 0:17
登る[group]自由詩514/6/29 23:01
よその猫自由詩514/6/29 19:53

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