あなたみたいにゆっくり生きられたなら
そう呟きながら
その細い指先摘まんで額に押し当てる
ひんやりとした感触が
あなたの優しさなんだとわかる
私の指はどうやら幸せを掴むためじゃないみたい ....
雨が嫌いなくせに
今日だけは雨が降る予感に
嫌悪感が伴わない
子供の頃から認識している
七夕には雨が降ると
いつもそうだった
織姫様と彦星様が年にたった一度
会える日だから
今 ....
ねえ、さよならをしよう
後ろ向きに流れるメロディ
誰かが世界のしあわせを歌うよ
アスファルトを強く蹴る
自分ってなにか
求めすぎて自販機で炭酸飲料のボタンを押す
すべてが泡となって足元 ....
どこまで漕いで行こうか
こんなにも暗い夜だ
幽かに揺れている水平を
描いているのはいつの波紋か
この舵だけが覚えていることだ
銀の月が爛々と眩い
溶けているのだな、おまえ
うつくしく ....
十二月、空はひくい。
落ち葉の季節も過ぎた。
竹箒を立てたようなケヤキの並木がつづく国道。
鳥の巣が傾いたまま、
ケヤキの梢にひっかかっている。
いつ落ちてもふしぎではない、そんな気がする。 ....
うーん、とっ
斜めに傾いたような
だらっと弛んだ
秋の空はキライなんだ
アタシ
冷たい鉛色の
真冬の空の方がまだ心地いいな
冷気もキーンと引き締まってさ
落ちるんだか落ちな ....
青い闇の中に
うすく光って浮かぶのは
吊された
右半身だけの
白いレースの婚礼衣裳だ
その左半身を
纏って逃げ去った美しい少年は
そのまま白い流星と化したという
そもそもその衣 ....
血圧が低くなっているのを
眩暈を起こしそうになって自覚する
照りつける太陽の下
息が荒くなりつつあるのを
必死に抑えて歩き続ける
冷たい水を全身に浴びたい
そんなことしたら凍え死んでし ....
貴方の声が
虫のように耳もとにささやき
私の皮膚を穿孔して
血管の中に染み込むと
私の血流はさざめき
体の奥に蝋燭を灯すのです
貴方のだらしのない頬杖も
まとわりつく体臭も
すべてが私 ....
黙ってただ生きる
ということができない
永久に
見つけてもらえないから
暗いさみしい器の底で
発語したがる
別なあたし
世界中でたった一人の
ひとに向かって
そのひとだけに
....
医師の言葉に呼応して
治療を始めた
余命半年は拭えた
(彼女はどこ?)
3週間×13
ずっと増え続ける数字
たかが数字 だが重い
できる事はする
頑張れ 私の内臓
今では何処 ....
陽ざしが注いで
私の庭にも
優しい色の花が咲く
柔らかい雲が
少し動くと
空に向かって
胸を開いていた
白木蓮も
風に 花びらを
はらはら散らす
手を貸そうか、なんて
わたしが必要としていないのを知っていて言うんだ
1530円をレジで払おうとして
財布にない10円玉を探すふりをして
冷凍庫で乾いてしまったような伝言を
今更思い出した風 ....
あの日瞳に映った空は
きっと君のどこかに仕舞い込まれ
ときおり顔をのぞかせ驟雨となって
だれかに降り注ぐのでしょう
こころと身体は不可分です
ホイットマンが僕のどこかに
宿っていて欲し ....
米を研ぐ
それは繰り返される日々の儀式
手のひらにあたる米粒はかたく
米どうしがぶつかりあい
じゃっじゃと音をたてあう
このかたいひと粒ひと粒 ....
唇にできた黒い証を、
たくさんの指が掠めていった。
黒い証は、
誰の手にもぬぐいされはしなかった。
ある日、
舌に同じように、
黒い証を持つ人に出会った。
彼は私の唇を目で掠めていっ ....
叫びたい花の襞が、
指先を突き破る。
突き破られた、
指の皮膚から噴き出した、
花の汁が、
タールのように暗い、
色とりどりの世界を描いていく。
傷つけあうことで、
構築された暖か ....
わたしは
粒で出来ている
粒は
かなしみも
ぜつぼうも
知らないまま
ただ
あたえられた時間を
あたえられるままに
はずんでいた
ときおり粒は
とどこおる
たとえば寒い ....
誰にも見えない皮膚に、
がりり、刻印を刻む。
刻む音すらも、
拙いが深いカーブを描いて、
誰にも見えない私の皮膚を
構築していく。
まるで彫刻のように、
私の胸に、
痛々しくも艶やかな ....
火がないのに
いつでも
沸きたてのお湯が出てくる
昔、むかし
食卓の上に
魔法瓶という魔法があった
ただいまと
帰ってくる
冬のこどもたちのために
とても温かい飲み物が
瞬時に ....
自分のからだを抱きしめてみる
季節が逝こうとしていているから?
いいえ
この借り物のなかで
巡り巡っているものの温かさを
確かめてみたいから
けれど取り出したとたん
あっけなくそれは
....
寝息が
夜のカーテンを揺らす
いつくしみという
どこかに潜む母性が呼吸をはじめる
白い肌のわが子の
すーっと通る鼻すじに口づける
溶ける音がした気がした
抱きしめるものがある ....
ひとつの終わらない薔薇がある
幾重にも幾重にも
内面から開き続け
外側の花弁が枯れて
次々と散り落ちても
秘められた未知なるものが
沸き上るように 艶やかに捲れ
芳醇な色香を放ち続ける
....
そろばん屋の戸をくぐる
奥に小さな番台が設けられていて
主人がそろばんを弾いている
わたしがそろばんを見に来た旨を告げると
主人は顔も上げずに
今時そろばんでもないでしょう
とぶっきらぼう ....
私の手は汚れている。
いつも茶色く汚れている。
正しくは、化粧品の茶色い色だ。
爪もいつも、
黄緑色に淀んでいる。
顔のなかを蟻が這う。
私は痒さに爪をたてる。
その爪についた汚れが、 ....
武蔵野のクヌギ林にわけ入り
落ち葉の絨毯を踏みしめる
聴こえるのは小鳥のさえずり
静かな一日が過ぎてゆく
木の幹に耳を当てても
冬に水の音は聞こえない
ぼくは帰る路を忘れて
時計の森 ....
音楽が聴こえる
生まれたばかりのまっさらな音楽が
夜明け前の流星群
ふたり一つの毛布に包まって
星を摘んだね
明けの明星が強く輝いていても
私たちの歓びの涙にはかなわなかっ ....
図書室に夕日が満ちる放課後にそっと抜き取るような逢瀬だ
切ないという感情を愛しすぎて斜めに磨り減るヒールのかかと
あの人に抱かれるために降りる駅踏み外す白線が問うてる
タピオカをやさ ....
その日は朝からおおゆきでした
それがクリスマスらしくもあり
吹雪の空を飛んでくるサンタは
大変だっただろうなとも思う
夜になってから
おばあちゃんの命日だった事を思い出し
お花を買いに ....
一年に一度
ピアノの屋根は開かれて
確かめられる
狂っている、ことを
どうやら
人の営みから生まれるノイズが
そのうすぐらい闇の中にあった
木や羊が暮らす小さな世界を
ゆるがせなが ....
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