凍り付く 空にかざした薄ガラス
ぽつ、ぽつり 浮かんで
じわり、じわ 滲む
淡色の灯
昨夏着られなかったままの
新品の浴衣の布地
それとも十年ぶりに焼いた
パウンドケーキ ....
或る日 小高い丘の草の間で
空まで貫く
甲高い叫び声がしたのです
「七十番と八十六番と九十八番が
逃げたっ!」
牧場の牛舎から飛んで出た
ファームのマスター ....
僕たちの距離が
この夜にさめざめと横たわる
月の光に傷つけられながら
この夜はあまりにも澄みわたるので
とめどない放射冷却――僕たちの
距離もまた冷えびえとして
けれど見つめている ....
ふだんの平凡な暮らしの中に
しあわせはある
しあわせは
何か特別なことではなく
遠くにあるものではなく
ふだんの平凡な暮らしの中にある
朝の木漏れ日
真っ青な青空
おはようのあいさつ
....
心が浮つく
紙に貼られたセロハンテープの
右上の部分だけが少しめくれている感じ
だのにひっぺがすことができない
してはいけないから
左手の薬指の腹で撫でるようにすると
奇妙に心地良かったり ....
山に登れば
僕は鳥になる
下界を360度見渡す鳥になる
山に登れば
僕は風になる
峰々を流れる爽やかな風になる
山に登れば
僕は子どもになる
父と歩いたころの子どもになる
....
ひとり山道を歩いていると大蛞蝓に遭った
私は呼吸も荒い中、足を止め
元気ですか――と、声掛けした
彼は特に気にするでもなく、じっとしていて
じっとしていることが最大の防御ですと言わんばかりに
....
噛み砕かれた
朝の死がいが転がっている
果実の並ぶ
健全な食卓からは
冬を裂く音が聞こえてくる
雪解け
のような発声で
猫が毛玉を吐いている
猫から吐き出された毛玉は
新たな猫になり ....
なんだか無性に
文字が書きたくなってしまった
こんな夜更けだけれど
こんなに寒いのだけれど
もう結構晩いじかんなのだけれど
それでもしょうがないじゃないか
だって文字が書きたくなってしまっ ....
僕が「右だよ」というと
ワイフが「左だよ」という
僕が「まっすぐだよ」というと
ワイフが「後ろだよ」という
それで車にナビをつけた
それでも「この道はおかしい?」と
時々いう
気の合わな ....
水を得た夜空です
夜には澄んだ真水がある
手をのばして
触れようとすると
逃げてしまうんだね
小さな星に隠れた
君の息づかいを聴いていると
とても静かな胸の内では
真水が溢れてくる
....
九州では初めての初日の出登山だった
日本百名山の韓国岳へ友人と出かけた
2時間弱で何回も登っている山なので
軽く考えたのが
まちがいだった
登山口から頂上近くまで
大雪が残っていた
とこ ....
足を組み
背筋を伸ばし
息を意識すると
いるべきところにいるような気持ちになる
座っていると妄想が次々と浮かんでくる
無心とは
程遠い
線香の灰の落ちる音まで
聴こえてきそうな気がする ....
ほんとうに、
たいせつなものは、
かたちを、
とらない、
いつも、
うしなって、から、
はじめて、
たとえば、
じぶんの健康のかけがえのなさ、
のように、
まるで病室の白いカーテン ....
冬のひんやりした空気
日が短くなって
沈みかけの夕日のせいで
影の世界になった
冷たい電車のドアにもたれかかる
昨日夜遅くまで
頼まれた
裁定者のアバターを作っていたから
電車に酔 ....
ときどき
胸がつまるような感覚に襲われ
苦心して 小さい毛玉を吐くのです
それから少し楽になって
ソファの 昨日と同じ場所に
まるくなります
窓の外が
この頃妙に明るいと思ったら ....
だいこんを抜く
よく太って近年にない出来映えだ
ぢの痛みを我慢しつつ植えつけたから
ご褒美なのかもしれない
この冬は
だいこん、たまねぎ、そらまめ、茎ブロッコリーが
畑で育つ
いつも ....
母を思うと
いつもおだやかな顔が浮かんでくる
黙々と大地を耕し種をまき作物を育て
三人の子どもを育てた
どんなに親父が口荒く言おうとも
大地のように耐えた
冬寒く夏暑いこの地で
貧しいな ....
三人分のメジナを
海から釣り上げる君の。
笑顔を思い出す夜に
家族という文字が
暗やみから落ちてきて、もう
もう泣いてもいいの。と耳打ちしている
染みわたっていくあたたかさの
ふかふ ....
心のようなものを失くした
裸になった
代わりに心になった
裸足になった
切なくなって
よろしくと言った
はじまりはいつもびぎん
じっとしていた
ヨーグルトになった
甘くなくて、懐 ....
まつげを抜く
心地が降り積もる
雪解け後の地面
立ち昇る
春の気
蔓が緑地からみ
逆上せ上がる自縛
体温伝わる手
生きているのか
これで生きている
生ぬるさの伝わり
気持ち悪い人 ....
こんな日に海風に吹かれたら
寒いことこの上ないだろうとは思いつつ
それでも大海原を眺めたいと
願ってしまうのは
水分が不足しているからだろうか
または青が欲しいのか
波の音が聴きたいだけか ....
とろりと金色の滴りは オリーブや椿や葡萄の種から得たもの
蓮から採った精の封を切り ボウルに張った油におとす
傷を いつくしむこと
じくじくと痛む恨みを切りひらけば
妄念の脂が現れ 穢 ....
金曜日の夜は心が躍る
明日と明後日がお休みだからという理由ではなく
金曜日というその響きが魅力的に聞こえる
金星も金木犀も
近未来も禁固刑も
金閣寺も錦華鳥も
金魚も禁猟区も
同じような ....
背伸びがしたい
若くもないけれど
アピールでもないけれど
頑張ってみたい訳でもないのだけれど
背伸びがしたい
無理したいのでもない
あとちょっとで手が届くとは思っていない
自信だ ....
(まさに、手を替え品を替え
といったところか
いろいろな声で鳴くんやなぁ)
飯食いながら、
網戸に両手で張りつくそいつを見ていた
「このっ、かわいくない
一ヶ月も餌あげとるのに ....
不思議であった
私の前にはいつも道があって
そこをしずしずと歩いている
ホウの葉とサワグルミの、落葉の上を
ソフトに足を進めている
まったくなんの期待もない山旅に向かったのだった
ただ、歩 ....
孤独である
関係を全て切断し
諦めている、静かに
幸せとか不幸せとか
ただ驚くのだ、
世界に自分に詩に一日に
オドロキは転がっているから
至るところに
オノレが在る、セカイ ....
ふとした陰りに
降り落ちてきた雨に
足元の不確かさに
救うように
連ねた文字列のその先に
わたしは生きている
温もりを失った瞬間に
光が差さない海辺に
沈みゆく夜の深さに
耐えが ....
青い空
わずかながらに流れ行く白い雲
軒下には
蜘蛛の巣に滴る雨粒が輝きを放つ
夏休みが懐かしく思い出され
向日葵畑の跡に立つ案山子は
夕陽に照らされ
土手に履き捨てられた
幼 ....
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