黄昏の街を駆けて行く影法師
眩暈にも似た既視感に
いつまでも立ち竦んでいた
きっと夜はまだ遠い
*
退屈な雨の午後
迷宮のような街を眺めていた
陰鬱な気持ちを弄ぶように
霧雨が ....
トーストセットを注文すると
今は春のキャンペーン期間中だそうで
赤い三角くじを引かされた
「お目出とうございます。当選です」
グラマラスなウェイトレスが言うには
姪っ子が一人当たったのだ ....
乾いてる軒下暮らし梅雨の日もそれが定めとうな垂れて
ほんとうに美しい玉葱の芯どうしてもほら泣いてしまいます
玉葱の玉を採ったら葱だらけでもそれは夢{ルビ二兎=にと}を追うひと
玉葱の ....
そうだ アフリカへ行こう!!
そう言って父が
長年勤めていた会社を依願退職したのは
定年への秒読みが開始された
梅雨の明けきれない
じめじめした蒸し暑い日だった
それ以来
キッチンに ....
少し横顔を見せただけで
思わせぶりに去っていく夏
雨が 家々のトタン屋根から
ライラックの葉の一枚一枚から
信号機の黒ずんだカバーから
夏を洗っていく
雨が 夜更け ....
谷中ぎんざの通りには
石段に腰を下ろした
紫の髪のお婆さんが
せんべいを割り
群がる鳩に蒔いていた。
向かいの屋台は
木の玩具屋で、おじさんは
「ほれっ」とベーゴマを ....
彼女さえ太ってなけりゃ夏の海
休みの日の朝、6月
旅立ちを目の前にしたツバメの鳴き声よ
レースのカーテンを透した
陽光に包まれし温もりよ 子供たちの歌声よ
コンビニでプリンをひとつ買った
代金を払って待っていると、 ....
トウキビの葉がゆれている
昨夜の雨に濡れたまま
まだ膝くらいの高さだが
すぐに背丈ほどにもなるだろう
トウキビはうまい だが
そんなに食べたいとは思わない
年に一度も食べられれば十分だ ....
思い出を一番から五十六番まで
USBメモリに移動して
一息
私のディスクは空(から)になる
空(から)になった空(そら)に
星が一粒
もう一粒
繋がって
絵を描く
尺取り虫が
一歩 ....
肌に艶のある小母さんが暖簾を掲げている
くいっと曲がり
小さな路地に入っていくと
木のこっぱや削り粉が雑然と置かれていて
いい匂いがする銭湯のうらっかわ
すぐ右手には
古びた人気のない ....
コーヒーショップに夏が来て
向かいの席の女子高生が
ブルーソーダを飲み始めた
青い液体をストローでチュー
コップの中身が減っていくにつれ
女子高生は足先から海になっていく
水位は下腿から太 ....
れんちゃんは犬なのに
お手もできない
ある日
このぼくにできることを数えてみた
あれと、
これと、
それに、
三日数えても尽きなかった
それで
ふと、気づいて
そうだ
ぼくに ....
遅い帰り道は
雨に濡れててらてら光る
路側の白線に沿って歩くと
導かれているようで
なんだか安心する
怖いものは何もない
たとえば気づかずに
かたつむりを踏みつぶしていた
なんてこ ....
「水の中の六月」
錆びた鉄の味のする手摺を伝って
空っぽの水槽を満たそうとする早朝
浸水された浴槽の縁を滑らないよう歩く
生まれた時から水に溢れていた
「駆け落ち」
....
今夜の月は何か変だ
と 思ったその時
小さく ひびが入り
――欠片が落ちた
何かが動いている
えっ ひよこ?
一生懸命
殻をつついて
転がりながら
可愛いらしい姿が
....
トラウマを数えていたら時間切れ
ぷらすちっくの小さな筒型の編み機には
五つの突起がついていて
人造絹糸を星のかたちに結わえたら
それが
りりあんの始まり
食べ散らかした夏蜜柑の皮
白黴の生えた白パン
蟻の住処は大洪 ....
水の匂いのする
あなたの
指先の和音で
おどりだす
初夏の背表紙は
水溶性の文字たちの
ぽつぽつと吐き出す気泡で綴じられてゆく
垂直に
落ちてくる六月の
浸透してゆく
素直 ....
おまえんちで幕府開いてやろうか
梅雨の雨に打たれても
冷水のごとく頭を冷やしてくれるでもなく
ただじっとりと皮膚細胞の表面を融解させていくだけなので
五月雨には稀塩酸が溶けている。
猫は命が九つあるというが
命を七つく ....
ともだちが予言してた、エリちゃんは爪が割れたらAV女優なるんだよって、それ、ほんとうだった。
教室でエリちゃんの爪が割れてほんのすこし血がにじんだ、エリちゃんは痛くないですよって顔をして ....
錦鯉南海ホークスのキャップ
18:59自慰を終えて手を洗い顔を磨いて街を見上げる
ここは窖三時の方角に細長く湿った痣が座り
痣の向う側から湧水のように女ばかりが産れて来る
18:59雨は降り爛れた時間を量り売る
....
小さな小さな箱の中で
僕は不快な虫になった
それはとても静かな箱だけど
時折川の流れの様な音が聞こえたから
多分、人が捨てた河原のマクドナルドの箱の中
僕は小さな虫だから
箱を開ける事 ....
六月の曇天のむぎばたけをななめに歩いていく
にせぼうずと
うすみどりのワンピースの生物学者のむすめ
向かい風の中のふしぎな生き物である
腋のほくろがかゆいわ
いつからだ
男はたばこをとりだ ....
閉じられた瞼は
眼球にやさしくかけられたさらし布
或いは
フリンジのついた遮光性の高い暗幕
時折
なにかに呼応して
波打つように
揺れる
ベビーカーのハンドルに止まったちょうち ....
あたたかく降り積もった雪の下に埋めた
女になってしまう前の、
何でも言葉に出来ていた少女のわたしを
女になるというのは
自分が一番遠い他人のように感じる生き物に
なる事なのだ
女になっ ....
洗い髪いまは妻ではない女
渋谷のあちこちにハチ公
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