初々しいと言えば
きこえはよいが
あのころの私はとても無知だった
結婚して初めて過ごす夫の実家でのお正月
おせちに「くわい」を炊くという
新種の宝石のような
淡い水色でつやつやの丸い物 ....
季節の車輪を転がしながら
時代の坂道下って降りて
さあ年の終わりと始まりのテープが切られました
あなたの目にはどんな時代が見えますか
世界は灰色にもバラ色にも染まります
....
世界平和なんて願わなくていい
家内安全、商売繁盛、合格祈願、恋人ができますように、何だっていい
目を見開き、そして願え!
指先から立ち昇る
煙の先の
窓際はすでに冬だった
確かすぎるほどの白い気配を
膝をたたんで見ていた
痛みの季節
救いはあるのかと巡らせれば
換気扇はまわりつづける
....
ゆっくり湯を沸かし
大きな器に ひとかきの飯を入れ
わずかばかりの具を入れて 雑炊をすする
これで いい
大晦日の朝は これでいい
主婦が三日寝込んだだけで
高く高く それは高く
見事に築き上げられた
お皿の山
洗濯物の山
子供が引っ張り出したガラクタの山
塵・埃・ゴミの山…
実家を離れて初めて知った
美味しい ....
「ねぇ、あずきちゃん、イチローはね、あずきちゃんに恋をしてるのよ。きっと……。」
え……、恋?
「そんなの、うそだぁー。」
「あっはっはっはっはっ……。」
外山先生とおかあさんがま ....
六月の朝に好きな人に会う。
新しいときの創造は過去を手放すことなのに、音をたてて崩れる国のまえで、いまは少しも淋しくなれない。
ほんの小さな単語たちにも特権は与えられる。神は完全な意味で公 ....
クリスマス以降
全くやる気が起きなかった
どうにか今日で仕事納め
やっと時間が心に追いついたのだ
裸婦像みたいな街路樹の肩にカラス
除雪車に削られた白い壁に車を着けて
ふ ....
まほろばが うたいはじめるのです
フライパンの中は カタクチイワシの まほろばなのです
心が自然と フライパンに降りてゆき
放物線をえがいて 炒られて対流する香ばしい香りに
うたいはじ ....
水色の瞳に黒が大きい
いつも獲物を狙う 鼻くそ模様をつけた うちの次男
血の繋がりのない拾った子供
アパートの下で必死でアピールしていた 健気な子
頭にコーヒーの染みつけた けれど匂いは獣 ....
夕焼けに向ける背中にいつも話しかける
あなたの白く暗い眼のなかに
今は何が映っているのか
細く響くラジオと
揺らすグラスの氷の音に
あなたはいつも
何を思うのか
わ ....
ひし形の歪んだ街に産まれて
時々、綿菓子の匂いを嗅いで育った
弱視だった母は
右手の生命線をなぞっている間に
左耳から発車する列車に
乗り遅れてしまった
毎日、どこかで ....
あたたかい
舌が落ちる
膜の内側
このまま
撃ち落としたい
叶わないけれど
愛くるしければ
朽ちる様を見たい
この左手を引いて
ひとときの
おわりのはじまり
夜たちと
あなたのことを考えていて
朝がきても
あなたのことを考えていた
世界は朝で
わたしは光の這う床に座り
あなたのことを考えていた
あなたの髪の毛や
皮膚や音を
....
何のことはない
君自身が落し物なのだ
たとえば君が左のエレベーターに乗る時
右のエレベーターから降りてくる
すれ違ってばかりの斜に構えた運命が
今日も君を捜してい ....
会社の発送所に荷物がいっぱいでフォークリフトも空いてないし
積むのを諦めて明日にまわす
帰りにブックオフによって金魚屋古書店のコミックを買った
105円のコーナーだからきわめて安上がりなクリ ....
外山先生はまた、立ち上がるとホワイトボードのまえでしばらく考えてから、青い字で、
わたしはここにいます。
……と、書いたの。
「たった、一行ですが、これでじゅうぶんだと思います ....
(ようやく、外山先生の絵本教室が始まった……)
鈴木さんの絵はおそろしくヘタだった。
画用紙だと思った紙はよくみると、カレンダーの裏紙で、そこにクレヨンと水彩絵の具でわけのわからな ....
良い人は扱いやすさで軽んじられる
良い人は時に利用されて捨てられる
良い人はもてない分だけ深みが増す
男女交際において
良い人という呼称は決定的なダメージの象徴だが
良い人が好きだ
....
ひらがな、が落ちてくるように
迷いながら雪が降ってくる
日本にちりぢりになった
あ、い
どれだけのあいの組み合わせが
あるのだろう
やがて
あ、と、い、は
溶け合って境界線をなくす ....
愛と云う概念を言葉にしたものは
明治維新までは日本にはなかった
そのためツルゲーネフの小説
「アーシャ」に登場する女性が言った
「I love you」を「死んでもいいわ」と
三日三晩悩 ....
きょうは月よう日。絵本教室の日だった。
夏休みも、もうすぐおわる。あんなにうるさく鳴いていた蝉も、けさはとても静かだった。おかあさんは朝からいそがしく洗濯していたから、わたしも手伝うことにした。 ....
今日も待ち針を刺す
心の縁に
ずれないように
歪まないように
一針一針
ゆっくりと
ただまっすぐに縫いたいだけ
私の心の裏側に
注意深く
ちくりちくりと
針を刺す
明日は真っ直ぐ ....
凍えた体を温めてくれと願ったのは、あたいの罪
躊躇なく温めてくれたのは、あなたの罪
そんな罪を、微妙なあたいたちは愛とよんだ
だれかが来たのかもしれない。わたしはイチローのあとを追いかけて、玄関のドアを開けてみたけれどだれもいなかった。イチローは玄関の前のしろい郵便ポストのうえに、すばやく飛び乗ると、ほそくて長いしっぽをま ....
封筒の右端に犬小屋を建てました。
赤いペンキで塗りました。
そこで手紙を書きました。
とても短い鉛筆で。
さいしょに友達の名前を書きました。
つぎに夜のあいさつをしました。
あたらしい ....
「吐きたかったら 吐いちゃった方がいいよ。
その方が気分が良くなるからね。
吐くと 体の中の悪いものが一緒に出るんだよ。
だから吐いた方がいいんだよ。
そう、上手に吐けたね!
偉い、偉い ....
砂をみるような静けさに
私の遺体をころがして
明日へゆけ
明日へゆけゆけと
祈ります
神でなく
鍵になるよな言葉だけ
書き記すことが
私の祈り
いい香りのするパンダに乗って
街を闊歩
驚くよね
もうおっさんなんだから
でも、ほら花屋の前に佇んでいる君だって
後ろに乗っったっていいんだよ
雨上がりの路上は、いくらふさふさの足と言 ....
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