逆巻きなさい、酒巻よ
我らが主人公の名は酒巻である。これを読んでいるあなたの氏姓が酒巻であったとしても、またあなたのお住まいが埼玉県行田市酒巻であったとしても、それは単なる偶然の一致に過ぎないの ....
私の庭は荒れています
ほとんど手入れをしないからです
桑の木の下にはほら
すっかり黒ずんだ実がいくつもいくつも落ちていて
むくどりたちが啄むのです
ときどきひよどりもきます
あたりまえ ....
原宿の真上を仰ぐ桃色に太陽の位置を忘れてしまった
歩道越え眩ませる目の橙に目黒通りに抜けつきる記憶
遠くまでがらんと大崎ただ一人つくった嘘のばからしいこと
秋葉原地球丸呑みテラバイト ....
富士の樹海にこもって
ひょっとこの面に
草刈ガマをもって
自殺しにきた女共に
のっかりたい
一枚岩のうえで受精したい
生命を宿す
ハッピー。
木のうえに住んで
悪魔をみせよう
....
鞄の中に 一匹のカブトムシが蠢いていた
しかもヘラクレスだ
数日前は ぶよぶよとした白い固まりだったのに
いつのまに そんな立派な角を得たのだろう
窓から 彼を外に放した
少し黄色がかっ ....
独りの部屋で
暑い、暑い、とつぶやきながら
服を脱いでしまった
裸になってしまった
シャワーを浴びようと思ったけど
面倒で動けなくなってしまった
今日はとても疲れた
エアコンをつ ....
梅雨ってどうしてこうジメジメするのかしら
{ルビ通=つう}ってどうしてこう自滅自滅するのかしら
ほんとうよねえ やっぱりお小遣いの話、けんかになったわあ
混沌よねえ やっぱ ....
みにくいきもちは
みにくいまちのはずれの
みにくいしょうきゃくじょうのかたすみにすんでいて
みにくいごみにしみこんで
まいにちまいにち
みにくいほのおでやかれた
みにくいえんとつからた ....
お前がアイツが奴等が笑顔で
心配
この二文字顔に括り付けてる
どうも湿っぽいのは苦手なんだ
だから
笑って いつもの様に「じゃぁな」
さらば 友よ 俺は行く
見えもしない大地へ ....
すっと
ミントのような そよ風すべる
{ルビ前髪=かみ} 瞬き
瞳 連れ添う
ベランダの袂から
ぐーんと伸びやかな庇に
土くれた妻壁
斜めに線を曳いている
切り取られた
屋根 ....
わたしは窓から身をのりだして
身投げのような夕陽を見ていた
消える 消える と小さな声が
両手をあげて泣き顔で
通り過ぎる祭を追った
わたしは高すぎて
わたし ....
1
はがき一葉
舞いこみ、大要、
「言語障害が発症しているようです。発作もなく、突然電話中に失言症になり、思う通り表現できなくなりました。脳血管障害なら軽い症状で、希望が持てますが、アル ....
僕は、いつものように、
かのん、と救急車に乗っていた。
かのん、は三つで
救急車はキライで
でも、救急車のおじさんはヤサシイ、
って言う。
透明な酸素吸入マスクのゴムがきつくて
イヤイヤ ....
まず守りたいものを準備します。それはなんでも構いません。個人情報でも他人情報でも不倫の証拠でも消したい過去でも悪い成績でも仕方なく結婚した配偶者でもなんでも結構です。それをまず、柔らかい布で丁寧に包 ....
あなたは流されて来たのだと言う
ただ水のように流されて来たのだと
このちっぽけな私の元に
私は湖のように静謐でもなければ
私は海のように寛大でもない
どうしてあなたを受け入れよう
....
郵便屋が大きな声で歌いながら
手紙を一通
白いペンキのはげかかった郵便受けに
置いていった
さっきのは春の歌だったなあ
と思いながら
熱い夏の太陽の下
僕は草をむしり続けた
....
草むしりの昼下がり
庭の芝生に紛れる
名も知らぬ青く小さな花
ひとつ。
ぼくは 一瞬の迷いもなく
それを引き抜いた
玄関の前の電柱の下
にも
と、思ったら
たんぽぽで
....
廃校の壊れた椅子に腰かけてひとり君待つ四学期かな
朝礼で神を失う君を見てはるか昔のあの地を思う
漆黒の絶縁テープ巻きつけてアルバム燃やす十月の夜
体育館裏の壁際いつまでも ....
ラ・ヴィ・アン・ローズ 人生はバラ色
パリの空の下 古いレコード店から
軋むように 歌が流れる
日本からここに辿り着いた初老の男は
晴れた日には セーヌの流れを聞きながら
カフ ....
浜辺には
夕陽に淡く染められた
煙草が2本寝そべり
1本はまっすぐ横たわり
笑って空を仰いでいた
もう1本は砂にねじこめられた傾きで
しょげていた
あの日君が
「棄て ....
−計測−
重さではなく
距離を測りたい
大きさではなく
熱さを測りたい
姿ではなく
真意を測りたい
−引力−
ひかれあうのではなくひきあうの ....
愚痴ってのは自分を疲れさせるんだな
今日 判っちまったよ
口にするのは久し振りだからか?
今日 判っちまったよ
くすくすくすくす…
ほぅら 影に引っ付いた幾つモノ弱音
きりきりきり ....
あまりの暑さにクーラーをつける
よほど暑かったのだろう
いろいろな動物たちが家に集まりはじめ
またたくまにいっぱいになった
長い部位をもっている動物はそれをたたんだ
肉食動物は捕 ....
ごうごうと響かせる飛行機と
大小不揃いの草むらの間
用途不明の建物が
誰かに忘れられてそこに居た
穴だらけの屋根はもう屋根じゃなく
その上でロケットみたいな煙突が出っ張っていて
いつか ....
水晶の針の折れる音を聞いたことがあります
ピキンとも
ピリンともつかぬ微かな音
聞こえない音を確かめたかったのです
音がするものならばと
指先で二つにしてみたとき
まさか聞きとれるほど ....
1
ビデオテープの町には
あの頃のままの
恋人がいて
老人は
画面に張り付き
色の雨粒を見ている
2
空と地面に一本の線が伸びる
その端っこを
紙コップにつなげて
い ....
ゆふぐれに君とふたりで春の墓地ここでひととき幽霊しようか
「五千年前の約束忘れたの?」花火しながら妹が問ふ
昆虫がふたりの為の出会いなど知らづに運ぶ花粉かな
警報機こわし ....
雨作りが砂丘をトボトボ
酸っぱい雨はもう流行らない
少し涙が滲んでくる雨作り
そして涙はこぼさないように!
ラクダの膀胱でこしらえた雨袋へ入れる
もう少し泣かないと町もできやしない
町作り ....
この世界のどこかに
わたしにならなかったわたしがいて
やはり ひとりで歩いているなら
おそらく わたしは
声をかけることができないので
せめて すぐ前を歩いてゆく
少しで ....
あなたの好物を作ろうと
夕暮れ
サンダルを引っ掛けて買い物にでる
昨夜の 些細ないさかいの 償いに
海老の殻を
無心でむけば
いとおしさに変わるような気がして
という
無邪気な ....
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