地下鉄はきらいだ
そとは暗い
こんな朝に
あいさつを
したいのに
*
このうすいからだの皮膚に
染みだしたような
うわずみのような感情が潤んで
それを掬おう ....
春の水を取り
渓流に足を浸すと
新緑の夏は
そっと 足元を潤す
木漏れ日の交響を 響かせて
汗 拭く 額は生きつづけた
未だ来ぬ 時を
遡行する 魚にたとえ
君は詩を 夢 ....
階段が出港する
上る人も下る人も
その時だけ水夫になるのだった
ドラを打ち鳴らす男、今日も支配人
石の庭に椅子を出して座ると
どちらが本当の笑い話か
ほとんど区別がない
流行のウイルスは たちが悪いみたい
君のことだから 不用心なんだろう
満月だからといって 明るいからといって
女がひとり夜道を 歩いちゃ行けないよ
....
幼い頃
誰かに見つめられて
動けなくなったことがある
逃げるので精一杯だった
不思議な目だった
そんな記憶を思い出しながら
公園のベンチでうたた寝をする
家でちゃんと寝ようと思って
....
境界のあやふやな 一日は
爪の間から 鱗が生えてしまう
空をつかむ その指には
退行の刻印のニキビ跡
夕暮を透かして 茜色
山の稜線が
青く 遠のく
空に雲は置か ....
誰かを好きになって
結婚して
こどもを産んで
ごく自然ななりゆき
なんだけど
それを人間らしさと言えるのだろうか
赤ちゃんを抱いた
お母さん
しあわせそうに見えるけど
割 ....
もうすぐ
九百九十九年になります
その頃には
ひまわりも咲いているでしょう
絶望から生き残った
藁のような人びとが
ゆらゆらとゆれているでしょう
咲いてしまうことに
罪はなくて
咲い ....
黒縁の眼鏡をかけた教授の講義が一段落すると
スクリーン上に映し出されたままの
夏の星座がゆっくりと回転し始める
古びた校舎の窓側を覆う暗幕は
その歳月 ....
素潜りで
{ルビ鮑=あわび}を密漁する
丹後半島の
夜明け
海で生まれた太陽と
山に入る月の夢、
肩がこる
髭の男が少年や
座礁した五月
白身のま ....
1997
ひらいているのか
ひらいてないのか
ラムネの瓶から転がりだした目で
すべての皮膚が内側からはちきれて
剥かれた/剥いた
滲む赤い体で
そのひとつの透明な血袋が
なににも触れな ....
自分の中にある
忘れてしまっていた
言葉のアルバムを
ふと開いてみる
何でもなかったことを
こんな言葉で表したのかと
苦笑いしながらも
あのときの自分には
その言葉が似合っていた
....
噴水の仕組みがわからないから
それはもうじっと見ているしかできなかった
一定の水が噴水の中にはあって
それがどこかで汲み上げられて
吹き上げられている
そして落ちて回る
それくらいはわかる ....
ちょうど そのあたり
アンドロメダ星雲が巡らす 圧
頭蓋の上で
鈍く 光り 渦巻く
髪の毛の 微細な一本一本が逆立ち
体が 透けて 軽くなり
小鳥のようにさえずりながら 空を切る
....
真っ黒な雲の中から
大きな目を開いた瞬間
ものすごい声がする
その声だけで家の窓が
殴られている
窓ガラスが割れそうだ
家が震えている
今度はぼくが雷に殴られる
胸からずしんと
体全 ....
我らは 語るべきだ
海潮の輝き
午後のけだるい 陽光を
夜は 底で 眠り
目覚めの朝露は打ち震えると知っている
我ら 踊る 身も心も捧げて
熱狂は 明日を作る
汗は額を流れ
濡 ....
部屋のいたるところが
軋むほどに 精神を集中し 観る
カンブリアの石化は どこへ
アンモナイトを見送り どこへ
羊歯を茂らせ 三葉虫の明滅に
石炭石油へのメタモルフォーゼに酔う
愚 ....
昨日もまた
日めくりの暦が一枚消え
昨日を生きた言葉たちが
静かに眠る
昨日一番生きた言葉は
土の道だった
でこぼことした
それでいて不安定な小石の上を
靴底に刺さるかのような痛み ....
Ser immortal es baladi;
menos el hombre, todas las criaturas lo son, pues ignoran la muerte;
lo ....
若葉の月の頃
風を聞きて静かに思へば
生を愛す心をぞ知る
時は絶へずして流れ
われもまたその一つ
緑薄き葉を見やれば
命の底から伸び広がらむさま
時が開くがごとし
いつしか葉も心も
....
部屋のいたるところが
軋むほどに 精神を集中して 観る
カンブリアの石化は どこへ
アンモナイトを見送り
羊歯を茂らせ
石炭石油のメタモルフォーゼに酔う
愚なる 夢見がちな 大地 ....
昨日もまた
日めくりの暦が一枚消え
昨日を生きた言葉たちが
静かに眠る
昨日一番生きた言葉は
空だった
そこには故郷がいた
忘れていた思い出が
空の中に浮かんでいた
みんな幸せそ ....
秘められて
冷ややかな 驟雨に
浄化の断片は 陽性を示す
振幅の激しさは
吉祥の香
雨の甘き 音
又 驟雨 来ぬ
ヒイラギの曲線 美に
閉じ込まれた 世界 雫
垂れて ....
嘘じゃなかった
嘘じゃなかった
嘘じゃなかったんだ
叶うことはなかったけれど
嘘じゃなかった
嘘じゃなかった
嘘じゃなかったんだ
僕はもうすぐなくなるけれど
....
昨日もまた
日めくりの暦が一枚消え
昨日を生きた
言葉たちが静かに眠る
昨日一番生きた言葉は
虹だった
雨が止む間際の
ほんのわずかな時間だけ
光の芸術は空へ浮かび
心に架かる
....
鈍い 実直な たゆたう
深紅の古びた 出血のような太陽光
陰華の花
その厚い 花弁
暖かな 風に 涙 こぼす
原生の森
分け入る 先の広野
極楽鳥の お導き
しっとりとした ....
飴玉を噛み砕くように
その{ルビ皹=ひび}のはいりかたのように
割れてしまうのは
誰で
何故なの
五月だ
熱くも冷たくもない
こんなふうにあるだけの季節に
遠いからうつくしい
空はそ ....
ふと机に落ちてきた虫の
羽が綺麗に光っていた
いつもは黒く見えていた羽は
さわやかに透明だった
何の因果があって
ここに落ちてきたのか
少なくとも自分に
わずかな命の存在を
教えてくれ ....
大切なもの 見えなくなること ときどきあって
失ってから 気づいてしまって 泣くこともある
悲しい想いは したくないの
寂しい瞳は 見せたくないの
どこまでも空 ....
・
初夏の山は
いいにおいをしたものを
たくさん体の中に詰めて
まるで女のように圧倒的な姿で
眼の前に立ちはだかってくる
たまに野良仕事をしている百姓が
山に見惚れていることがあるが
....
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