明日の僕は
春の舟に乗るだろう

川の両岸につらなる桜並木は
咲いているのか、いないのか
わからないが
僕は自らの中に
ようやく唇を開き始めた
小さな{ルビ蕾=つぼみ}に、手をあてる
 ....
窓外の夜空をめぐる、星の配置と
食卓にならぶ、料理の配置は
密かに呼応するという

互いの杯を交わし
秘密の物語を語らう
一期一会の{ルビ宵=よい}

君と僕の存在を、結ぶ
糸の{ル ....
人のからだに宿る
{ルビ硝子=がらす}の魂
密かな通路は
小宇宙へつながる
 
私の中にいる一匹の苦虫君
コイツがなかなかやっかいだ

うずを巻く感情は
日々の暦を{ルビ捲=めく}るうちに
凪いだものの
誰かのたった一言で
むくれた顔の苦虫君が
いつのまにやら居 ....
鼠が地面に落ちた
餌を食べる 午前〇時の新宿

家の無いおじさんは
幸せそうな笑みを浮かべ
北風に凍える僕の傍らを通り過ぎ
バケツの残飯を探す臭覚のままに
繁華街の路地へと
消えていっ ....
若くして人生を終えた
友が住んだ街を
久々に歩いた

駅前にある
薄明かりのパスタ屋で
白ワインのグラスを傾ける

向かいの空席に
あの日から齢をとらない
透けた面影を浮かべれば
 ....
私は、とある田舎の
ガソリンスタンドの部屋に
長い間 置かれた
ストーブです

日々まばらにも
旅人が給油にきては
この部屋を訪れ
目の前の椅子に 腰を下ろし
両手をあてて はあ…  ....
暗い部屋で
{ルビ胡坐=あぐら}をかいている
私の上に

 ?


ひとつ
浮かんでいる

なぜ人間は
言葉を語り
言葉に悩み
言葉に{ルビ温=ぬく}もる
のか

た ....
流れてゆく
流れてゆく
二度と無い今日が
流れてゆく

僕は今夜ここで
(小さな舞台で朗読する
 新宿ゴールデン街の老舗「ひしょう」で)
何を待とうか

星の無い夜空を仰ぎ
あて ....
アスファルトの下に張り巡らされた
地下鉄を降り、改札を抜けて
無表情な仮面の人々とすれ違う逆流は
生ぬるい風になり
この頬をなぶる

だが、視える

人波の間を分かれゆく
目の前の道 ....
一枚の額縁に収まる
植木鉢の紅い花

蕾だった奥に
花を咲かせるものがある

私の奥にも
私を咲かせるものがある
長い間 探した虹は見つからず
今日の行方を、風に問う

僕の内面にある
方位磁針は
今も揺れ動いている

風よ、教えておくれ
ほんものの人の歩みを
日々が旅路になる術を

群衆の ....
無人島の浜辺に
置き去りの切り株を運び
堤防に置く椅子にして
腰を下ろす

竿を手に
糸をしゅるる――と無心で放ち
午後の凪いだ海の水平線に
目を細める

阿呆らしい日々は
遥か ....
ドアを開くと
幾十年も変わらぬ空気の
Piano Bar Lyon

カウンターに腰を下ろした僕は
ピンク色のグラスを傾ける

ピアノの周囲には
いくつかのアコーディオン達が
寂れた ....
植木鉢の
{ルビ萎=しお}れたシクラメンに
水をそそぐ

日中は出かけ、帰宅すると
幾本もの首すじはすっと伸びて
赤紫の蕾がひとつ 顔をあげていた

先週、親しい伯父が病に倒れ
ふい ....
小袋を開けて
柿の種を食べる
{ルビ掌=てのひら}にのせ
柿の種に混ざるピーナツを、数える
――この組み合わせは二度と無いだろう

夕刻 ダウン症児の息子の
小さな手をとり
川沿いを歩 ....
風の招きに集められ
ひとつの夜に出逢う僕等は
互いの盃を交わす

この胸から
静かに踊り出す…心音の行方に
物語の幕はゆっくり上がる

誰にも知られぬ遠い夜よ
{ルビ蹲=う ....
私の中に
永い間眠っている
マグマ

涼しい顔してほんとうは
体内を巡る真紅の血が
いつも渦巻いている

そろそろ目を開く季節だ
あの空、葉脈、
一本の水平線を
( ....
まぼろしの人は戸口を開けて、歩いていった
後ろ姿が遠のいてゆく
夕映えへ連なる… 小さな足跡

――それを誰かは数珠と云い
――それを誰かはロザリオと云い

      *

木漏れ ....
年老いた男は独り、犬をつれて
遠くから
石畳の道をこちらに歩いてくる

犬は、主人を引っ張り
主人も負けじと、犬を引っ張り
ぎくしゃくとした歩調は 近づいて

石畳の道を歩く
ふたり ....
世を去って久しい、彼女は
開いた財布の中にいた

先日ふらりと寄った
懐かしい店の
薄桃色のレシート

ちょこんと、折り畳まれ
あまりにも無垢な姿で
誰かが蹴とばした丸石が
転がって
僕の爪先にぴたり、とまる

――丸石は、{ルビ囁=ささや}いた

空っ風が吹いてきて
一枚の枯葉は{ルビ喋=しゃべ}りながら
アスファルトを、撫でてい ....
吉祥寺の老舗いせやで
鳥の小さな心臓を食べた

今日でトーキョー都民になって、一週間
せっせと外へ運んだ
古い家具たちに手をふり
四十三年培ってきた
自分をりにゅーあるすべく
串に刺さ ....
我よ、時を忘れて真空管の中を往け。   僕の部屋に友を招いて
ゆげのぼるお茶を飲みつつ
「マイナスをプラスに変える術」を
語らっていた

 どすん どすん

窓の外に、切り株の落ちるような
物音に耐え切れず
腰を上げて、外 ....
今日はわたしが生まれた日
まだ{ルビ仄暗=ほのぐら}い玄関の
ドアの隙間から
朝のひかりは射している

幸いを一つ、二つ・・・数えて
手帳の{ルビ暦=こよみ}を
ひと日ずつ埋めながら
 ....
久々の実家に泊まり
ふと手をみれば
爪はのび
父と母はよたよた、歩く
ゴールデン街の飲み屋には
色褪せた「全員野球」のお守りが
ぶら下がり
小窓のぬるい風に、揺れていた
妻が財布を買ってきた
古い財布と、中身を入れ変える

小銭と幾枚かのお札を、入れて
レシートの束を、捨て
ポケットの空洞に
旅先のお寺で買った
お守りをそっと入れる

その日から
 ....
三日前、一度だけ会った新聞記者が
病で世を去った
一年前、後輩の記者も
突然倒れて世を去っていた
彼の妻とは友達で
今朝、上野の珈琲店にいた僕は
スマートフォンでメッセージを、送信した
 ....
服部 剛(2150)
タイトル カテゴリ Point 日付
春の舟自由詩219/3/23 20:58
星めぐり自由詩419/3/20 23:59
自由詩219/3/7 22:58
苦虫君自由詩019/3/7 22:47
新宿駅・午前〇時自由詩119/3/5 23:56
再会自由詩319/3/5 22:48
旅人とストーブ自由詩219/3/1 19:16
五十音の石自由詩419/2/20 20:48
この夜が明けたら自由詩219/2/9 21:29
風の道自由詩119/2/9 21:11
花と私自由詩519/2/4 17:04
靴音自由詩919/2/3 23:59
無人島にて自由詩119/2/3 23:40
Lyonにて自由詩019/1/30 20:49
花の分身自由詩119/1/29 22:02
夕方の散歩自由詩319/1/3 23:59
布石自由詩418/12/31 19:20
或る午後の変容自由詩318/12/31 19:12
いのり自由詩618/12/17 21:20
異国の道自由詩418/12/13 22:17
再会自由詩218/12/12 23:53
石の合唱自由詩118/12/7 23:18
鳥になる自由詩118/12/7 23:12
一行詩 6自由詩018/12/7 23:05
野球少年自由詩318/11/4 19:58
祝福の日に自由詩218/10/31 17:56
実家にて自由詩418/10/20 8:32
お守り自由詩4*18/10/13 0:28
財布の中身自由詩918/10/6 22:13
光の欠片自由詩1218/9/18 17:54

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