平日の空いた車内に腰かけて
「記憶のつくり方」という本を開いたら
詩人の長田弘さんが、見知らぬ町を旅していた。

喫茶店に腰を下ろした詩人は
ふぅ…と溜息をひとつ、吐き出し
哀しい歴史を帯 ....
夜の人気無い交差点で
暗闇の赤信号の中
ひかりの人が立っている。

ゆるぎない姿勢で
こちらに何か、云いたげな
未知の国から訪れた旅人のように。

かれは
赤い世界に包まれた
情熱 ....
染色体の一本多い、3才の周が
初めて言葉を発した
「それ…」
僕は身を乗り出して、聴き直す
「え、なに?」

目が覚めた――(なんだ、夢か…)
布団からひょっこり顔を出して
周はまだ、 ....
机に置いた
一人のどんぐりが
ランプに照らされ、光ってる
胸に心があるように

誰かが云った
(どんぐりの背くらべ)である中の
彼こそが
何かを識っているように  




 ....
雲は、風の吹くままに
落葉は、川の流れるままに
我もまた
自らに内蔵された方位磁針の、指すままに

旅の鞄を背負い
腰かけ石から立ち上がる
我が影は
更なる一歩を日向へと、踏み出さん
 ....
知覧の草は、さやさや…{ルビ哂=わら}う
川のせせらぐままに、身を揺らし

昔――ここから近い滑走路で
戦闘機に乗り、飛び立って
眼下に広がるいちめんの
海の彼方へ

 お母さん…!
 ....
きみは、掴まねばならない
その手をまっすぐ、明日へのばして

耳を澄ませば――確かに聴こえる
言葉ではない、不思議な呼び声

黙したまま私達を待つ
二十一世紀の霧の向こうの、{ルビ朧=お ....
母ちゃんが、洗濯物の皺をのばして
竿に衣服を干している。

実家を離れて久しい
娘についての深い悩みを
ひと時、忘れて。

日にましろく照らされた
タオルを
丹念に、のばして。

 ....
無数の雨達はアスファルトに、跳ね
世界を覆う
ざわめきを鼓膜に残して
私は夢から、目を覚ます。

布団から身を起こし、のびをする
朝のひと時。

夢の中で、瞬く間に
姿を消す雨達と
 ....
一つの苗を手にした、僕は
じぃ…っと屈み
{ルビ水面=みなも}に手首を突っこんで
柔い土に、苗を植える

どんなに風が吹こうとも
どんなに雨が降ろうとも
どんなに陽が照ろうとも

い ....
昨年、天寿を全うし、肉体の衣服を脱いだ
山波言太郎先生の御魂に捧ぐ手紙を綴り
我が家の神棚に、お供えした。

妻が蝋燭に、火を点けた。
少しして、じいぃ・・・と言って
火は、消えた。  
 ....
朝の信号は、青になり
盲目のひとは白いステッキで
前方をとんとん、叩きながら
今日も横断歩道を渡ってゆく

日々の{ルビ道程=みちのり}を歩く
惑い無き後ろ姿は
人混みに吸い込まれ
段 ....
遠藤文学講座の後に、皆で語らう
この店で僕は、受洗を決意した。
この店で僕は、息子の障がいに泣き崩れた。

四ツ谷の地下の珈琲店・エルは
奇遇にも
遠藤先生の命日である、今日
四十五年の ....
白球は時に、燃えている。

ふいに巡ってきた
体調不良選手の、代役出場。

3回表、2アウトランナー2塁のピンチ。
1年中ぱっとしなかった、彼の
守るレフトの後方に
打者の打った白球が ....
丸い月を映す池の、{ルビ水面=みなも}はゆれ  
草の露に宿る月も、風にゆれ   

僕が苦手と思っていた
あの人の瞳の奥にも
もしや
僕に似た心象の水面に、ゆれる

月のひかり  
 ....
2013年・2月に行われた
渋谷Bunkamuraで
美術館の入口に、足を踏み入れ

ぬうと目の前に現れたのは
1760年頃描かれた
白隠禅師の自画像で
ぎょろり開いた目玉は、僕に云う
 ....
或るロシア画家の
画集をぱらぱら、捲っていたら
苦悩する女の肖像画に
薄っすら滲む
イエスの顔があらわれた


神や仏はいつも隠れている
画家の描く、キャンバスに
彫刻家のほる、木の ....
公園広場の人だかりに囲まれて
学ラン姿の少年は、笛を吹く。
指をぴろぴろ躍らせて
黒い瞳は{ルビ魚=うお}のよう。

楽しいメロディ奏でつつ
耳はだんぼに開いてる。
身も心も空っぽにして ....
太陽は常に西の空へと往きますが
この地球上に立っていると
まるで停まっているようです

花はゆっくり開いてゆきますが
開花はまるで、魔法です

孤児を育てる里親さんは、言いました
「親 ....
親父の血管は動脈硬化で、か細くなり
心もとないこれからの日々を思い
深夜にぱっちり目覚めた、僕は
汗を拭って、身を起こす

今頃、隣町の空の下
親父はすやすや寝ているだろうか?
気が気で ....
君はちょっと人より黒目が、大きいね
君はちょっと人より睫毛が、長いよね

今夜も、薄ら目を開いて眠り
夢見る二才の君は
人より染色体が一本多くて
まだ喋らないし、歩かない

ちょっと風 ....
ふだんは優しい女房が
時折、般若の顔になり
言葉の弾丸は
だ・だ・だ・だ・だ
だ・だ・だ・だ・だ
だ・だ・だ・だ・だ
柳のような面影で
げっそりとした
僕の髪を靡かせ
遠い彼方へ通過 ....
それは二度と帰れない季節
それは{ルビ陽炎=かげろう}の向こうの想い出

もう、手の届かない恋があり
これから手を伸ばす、夢があり

{ルビ永遠=とわ}に年齢の無い旅人のまなざしで
今日 ....
遠い夕陽の揺らめく畑で
夫は手にした鍬で土を耕し
赤子をおぶる妻はそこへ
種を蒔く

貧しい日々の暮らしに
俯きあう
ふたりの野良着は
仄かな金に縁取られ

夕陽に瞬く無数の種は
 ....
その人は大きく息をついて、腰を下ろした
――これは、何段あるんですかね…
――二百八十七段です、どちらからですか?
――高知です
――遠いですねぇ…僕は横浜です

傍らに、古びたリュックが ....
{ルビ久遠寺=くおんじ}の山門を潜り
巨きい杉木立の間に敷かれる
荒い石畳の道を抜けて
前方に現れる
天まで続く梯子のような
二百八十七の石段

緑の山の何処からか鳴り響く
{ルビ団扇 ....
風が、頬を撫でていった
仰いだ空を、雲は流れた
この道を往く
我は旅人
風の想いの吹くままに  
ぶわっと窓から風は吹き
カーテンははらり、膨らみ
空気の塊りに
部屋のドアが、開いた

人生のドアを開く
風も
思いがけずに、訪れる  
私の重みで、凹んでいる
タイヤの椅子のブランコが
ぎっしり…ぎしり…と{ルビ軋=きし}んで、ゆれる

軋んで、ゆれていくほどに
ぷらたなすの樹は、詩いだす
ざわつく若葉も、踊りだす

 ....
あなたの手にする
てるみーという不思議な棒は
香の煙をもくもく漂わせ
熱を地肌に{ルビ擦=こす}りつつ
体の痛みを和らげます

私の妻が
顔をしかめた腰痛も
止まらなかった咳さえも
 ....
服部 剛(1982)
タイトル カテゴリ Point 日付
旅の列車にて自由詩614/11/28 23:23
夜の信号自由詩314/11/28 23:21
朝の日記自由詩12*14/11/9 22:56
どんぐり君自由詩214/11/9 22:26
日向の道ー武家屋敷にてー自由詩3+14/11/6 23:58
草ノ声ー知覧にてー自由詩214/11/6 23:53
霧の時代自由詩614/10/28 20:25
洗濯日和  自由詩514/10/28 19:58
雨の合唱自由詩614/10/22 23:07
茶碗のゆげ自由詩314/10/22 22:53
夜の来訪者自由詩414/10/22 22:48
盲目のひと自由詩614/10/5 21:42
机上のワインー珈琲店・エルにてー  自由詩514/10/5 21:26
燃える男自由詩214/9/17 20:39
夜の池自由詩514/9/17 20:17
旅人の靴  自由詩314/8/30 20:22
遍在する顔 自由詩314/8/30 20:04
笛を吹くひと  自由詩614/8/23 23:15
地球ノ時間  自由詩11*14/8/14 20:21
形見の杖  自由詩314/8/14 19:51
夢の木自由詩414/8/4 23:56
姉さん女房に捧ぐばらっど自由詩614/8/4 23:46
陽炎の道  自由詩114/8/4 23:19
夕景自由詩614/7/18 23:29
旅人の会話  自由詩214/7/18 23:00
身延山にて自由詩314/7/18 22:29
旅  自由詩514/7/10 18:17
自由詩214/7/10 18:12
ぷらたなすの樹  自由詩614/7/8 21:24
不思議な棒自由詩414/7/8 20:34

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