おとといは仄かに薫ったキンモクセイ
昨夜の雨で濡れた路面に、花びらの星は散らばり
しゃがんだ僕は呟いた
――今日という日の、星を探そう  




  
二ヶ月前に保育園で講演すると
個性の強い息子に深く悩むママの揺れる瞳が
僕の心象に灼きついた――今日は運動会
手を繋ぎ走る母子の背中に、エールを贈る  




  
職場のデイサービスに来るお婆ちゃんは
僕の駄洒落にいつも笑ってくれる
入所施設が決まり、最終利用日に家まで送る
立ち去る僕に「またね」と語った、遠いまなざし  




 
今年で二十回目の「遠藤周作忌」
オープニングの黒人霊歌の合唱は
皆を郷愁に誘い、温かな気配に僕は涙ぐむ

某作家のイタズラされた思い出話に、会場は湧く  
喪服の参列者の前に立ち、老師は語る
酸素吸入器をする妻の最期の伝言
(あ・り・が・と・う) 帰る前に僕は
老師の手を握り、子等の頬に涙は光る  
徐行する細道で、フロントガラスの前方から
前の職場の老人ホームで今もボランティアの
おばちゃんの姿は…近づき、五年ぶりの再会に
窓を開ける――あらっ元気?と、カナリアの声  
友の家の玄関を開けば、ひょっこり顔を出す
新妻とすでに五才の少年は、知ってる顔!
友がぎたあで弾き語るアンパンマンの唄を
BGMに祝杯のワインを啜る、幸福な夜  




  

 ....
初老の吉田先生と、四十一歳の僕が
久々に語らう鎌倉の地下の珈琲店
――今、人生の岐路にいます
そっと頷き、眼鏡越しの瞳は優しく潤む  
鉄格子の間に坐る、あなたは
じっと――待つ
小さい窓から射し込む
一条の光にふれる、あの瞬間を

旅人の静かな足音は
やがて…遠くから響き
あなたはゆっくり、立ちあがる

(深く澄ん ....
秋の夕陽のふりそそぐ
歩道の人々に紛れて
ひとりの妊婦が傍らを、過ぎた。
――そっと僕は祈る。

遠い背後から
ポプラ並木の囁きが
さわさわと…夕凪に運ばれて
僕の靴音は、密かな幸いを ....
函館山の{ルビ麓=ふもと}で腰を下ろし
遠い山間から、昇る
夜明けの太陽に瞳は滲み

ぼくは呟く。
――ほんものになりたい、と。

積丹半島の神威岬に、独り立ち
遥かな楕円の水平線に、 ....
今日
私は知った。
私は私であり
私ではない。

明け方の
山の彼方にゆらめき昇る
あの太陽により

産声をあげた日から
棺に入る日迄
我が心臓は、脈を打つ  




 ....
遠い山々の緑がくっきり浮かぶ
夜明け前
烏等は唄を交わし始める。

旅の宿の眼下に広がる風景
明るみゆく教会の隣に
洋風の家があり
朱色の屋根の下に
昔――亀井勝一郎という
文士がい ....
あの頃、彼の人影は発光した
暗闇に跪き、両手を組んで
あの頃、彼は両手を差しのべた
背後の照明に、照らされて
顔の無い客席へ

歌だけを残して
若い彼が世を去った
あの日から――僕は耳 ....
いつの時代も
人は飛ぶことに憧れ
長い時の彼方から
語り継がれた、鳥類の夢

――DNAは体内で目覚めを待ち…

僕は羽ばたきたい
でも、翼は無い
されど往こう

モノクロームの ....
曇天に覆われた地平を
旅人は往く
遥かな場所から呼びかける
金の炎の稲穂等が
肩を並べて、かれを待つ
あのVisionの方角へ  
薄い霧に覆われた
<幸福の谷>で
幻の羊等は草を喰み
牧場に響く  
あの鳴き声は
昔の恋の傷口さえも
…そっと覆ってゆくだろう  




  
二度と無い(今日)を刻印しよう
ないふのエッジの上で
両腕の翼を広げいつのまにやら、綱渡っていた
無重力な――小人のぼく!

ぎりぎりの日々を
あんのんと{ルビ胡坐=あぐら}かいて
呆け ....
その少女の瞳には
空白の明日を覆い隠す…不安と
不安の奥底にゆるがぬ
一本のすじが、通っている

少女はすでに、聴いている
得体の知れぬ煙の塊を
明日へ投げ去った時

ふいに訪れる、 ....
僕の部屋には
あの頃のBensCafeの朗読会で
幾千人もの詩人が
笑いと涙の肉声を語った
黒い小さな舞台が
壁に、立て掛けてある。
所々に薄くペンキのはげた
その聖と醜の混濁した
皆 ....
どうかしちゃってる、俺
どうかしちゃってる、俺
でも、でも、ほんとはネ
ほんとーにどうかしちゃってる
どうしょうもない情けなぁい、のは…
「みぎにならえ」の、俺!
は、{ルビ跪=ひざまず} ....
梅酒に酔っ払い
…鼓動は高鳴り
(一本の染色体が、視える)
細いひとすじに
今夜、雷鳴は閃くだろう

わたくしという存在の
只中に  




  
路面に無数の石は埋もれ
ひとりひとりの石の顔は
瞳を閉じて、哀しみ唄う

この街には色がない
(透きとおったビルの群)
この街には声がない
(透きとおった足音の群)

いつからか
 ....
本当に行きたい道を往く人は
この世の中になかなかいない。

人の目を気にして
敷かれたレールに乗ることで
平均台の上
両腕を翼にして…一歩を、進める
あの醍醐味を、久しく僕は忘れていた。 ....
日々の些細な場面の中に
潜んでいる


――花よ、世にたった一人の、花よ

0歳の蕾
40歳の蕾
100歳の蕾

いつかドラマの
年老いた主人公はTV画面の中から
私の目を見 ....
風呂場には蛇口の摘みが、二つある。
「青」と「赤」の{ルビ捻=ひね}りを、調整セヨ。

ある日、老父は云いました。
「クールヘッドとウォームハートが、処世術」

(目に見えぬ人のこころの調 ....
人々の賑わう風呂屋の食堂で
ハイボールのジンジャー割りを
ぐぃと飲み、机上に置く。

ジョッキの内側に広がる
琥珀の海に
細かな気泡が…昇ってる。

この世には重力というものがあり
 ....
夏の夜の旅先にて
ふらり、身を入れた店で
フォアローゼスの水割りを傾けながら
もの想う

もうずっと探してる
あふれる時を

氷がからん、と合図して
ようやく僕は、目を覚ます
瞬き ....
今も昔も旅人は
長い橋を渡るだろう

――{ルビ何処=いずこ}から何処へ?

傘に弾ける豪雨に身を屈める日も
雪の坂をずぼり…ずぼり…上る日も
灼熱の{ルビ陽炎=かげろう}ゆらめく夏の日 ....
はらはらと…桜舞う
花冷えの夕空の下
隅田川に浮かぶ、屋形船。
賑わう船内に
{ルビ三味=しゃみ}の音は鳴り

柱の影で
芸者は男に、酒を注ぐ。

少し離れた柱に凭れ
旅人は独り
 ....
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
十月四日(火)朝自由詩216/10/9 1:57
十月一日(土)午前自由詩116/10/9 1:55
九月三十日(金)夕自由詩116/10/9 1:53
九月二十九日(木)夜自由詩016/10/4 22:49
九月二十七日(火)夜自由詩016/10/4 22:45
九月二十七日(火)朝自由詩016/10/4 22:39
九月二十六日(月)夜自由詩116/9/30 23:55
九月二十六日(月)午後自由詩116/9/30 23:46
旅人の手自由詩316/9/20 20:47
ポプラの唄自由詩316/9/16 23:59
日向の本自由詩216/9/16 23:56
いのちの音自由詩216/8/26 9:04
函館山の麓にて自由詩316/8/26 8:56
始まりの人自由詩316/8/17 23:33
鳥のひと自由詩116/8/12 21:52
呼び声自由詩016/8/12 21:42
羊の声自由詩116/8/12 21:38
鳥人間自由詩116/8/9 23:37
揺れる、瞳自由詩316/8/8 3:01
僕等ノ星 自由詩116/8/8 2:58
人間発電所自由詩116/8/8 2:49
ひとすじの光自由詩116/7/28 0:59
透明の街自由詩216/7/26 1:55
人の翼自由詩116/7/19 0:56
ひとの蕾自由詩016/7/15 23:34
湯けむりの夜自由詩116/7/15 21:01
琥珀の水自由詩216/7/15 20:18
夢ノ声自由詩316/7/14 0:05
旅人の橋自由詩416/6/23 19:30
春の屋形船自由詩016/6/23 18:58

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