すべてのおすすめ
机の上に三冊の本を並べる。
一冊目を開くとそこは、
林の中の結核療養所。
若いふたりは窓辺に佇み、
夜闇に舞う粉雪をみつめていた。
二冊目の本を開くとそこは、
森の中のらい ....
今日一日の食事を得るために
精を出して働くことは
意味のあること
今日一日の家族を養うために
無理をして働くことも
意味のあること
それらは生きてゆくための
目的なのだから
....
お酒を飲んだのがまずかった
初めて会った男に処女を奪われてしまった
「きれいだね」と言い
男は私を抱く
タイムマシンに乗ってしまったみたい
目を閉じると
お母さんのおなかの中に ....
Gのベクトルを探してきて
今すぐに
わたしは ここで うたをうたっている
Fのサイレン拾ってきて
今すぐに
わたしは ここで うたをうたっている
Aのワルツ踊ってみせて
....
一.
戦争を俺は知らないんだと はじめて思い知ったのは
キプロス島に ある朝突然逃げ帰った妻が いつか話した
占領の話 地下室の話 息を殺して
あいつが真似た マシンガンの ....
何の間違いか
朝にこの世に出てしまった
しかもよりよって
大都会の大きな駅の改札口にだ
どういう原理でなのかは
こっちにいる科学者たちでも
解明できていない
ともあれ
普段は生 ....
せっくすの意味を知ったのは、
煙草を覚えた日だった。
せっくすの女が吸っていたのを、
もらってはじめて吸った。
だけどはじめてせっくすしたのは、
その日じゃな ....
空が大きいこの町で
小さな命が生きている
一つ一つは小さいけれど
空に負けないくらい純粋で
大きな意味を持っている
空が大きいこの町で
小さな命が笑っている
一つ一つは小さいけれど
....
わたしが生まれ育った郷里では
要らぬものを裏山に投げた
村外れを流れる川に流した
囀る野鳥の気配に誘われて
ひとり裏山を彷徨えば
要らぬものは朽ちて土となり
夕餉の支度でも始めたのか
潜 ....
黄昏が
哀しみの手をひいて
波打ち際へと運ぶ
きらきらと
波間に揺れるものを
幾度つかまえようと
泡と消えていくそれは
知るはずのない「永遠」
時計の針を止めても
季節は巡り ....
夜になってから急に
庭の倉庫に首を突っ込み
懐かしい教科書を次から次へと処分して
家の中に戻ったら
腕中足中蚊に刺されていた
それを見た母ちゃんは、言った。
「あんたはつよ ....
人が集まるコンビニに
どこからともなく一匹の
野良犬がやってくる
ドアの横に礼儀正しく
来客の邪魔にならないように
座り込む
空を見上げる野良犬の
その眼はどこか悲しげで
世の中の ....
切迫した最期の
夏の到来は
記憶の中でぶよぶよしつつあって
ゆっくり弛緩しつづける
こよりみたい
つづく夏を重ねるたび
もはや静止でも
昂ぶりでもなく
無為のまま指先にふれてる ....
理想というものは
一人一人にあるもので
それぞれが素敵なことを想い
それはとても美しい
理想というものは
一人一人が違うから
誰かが不満を言い始めたら
それぞれがわがままを言い出し
....
一.
俺の知らない赤で
雲が光の中で
死んでゆくんだ
今も
おまえの知らない青で
波が砂の上で
壊れてゆくよ
ほら
見ろよ
カモメの親子が今
俺 ....
そらには意地がある
意地があるので果てしない
ぼくは意地を見上げている
骨を精一杯反らせて
そらには意地の他にもいろいろある
事情は言えないけれど
複雑な家庭に育ったのだ
青くなるの ....
仕事から家に帰宅して
「ただいま」
と言ったら
「おかえり」
と昨日の自分が出てきた
相手の自分はいたって冷静
ものすごく驚いている自分だが
自分が落ち着いているので
自分も平静さ ....
かつてお前はあんなに
力強く 熱く燃える目をしていたのに
風のように自由で その歌声は若々しく
どこまでも駆けていけたのに
お前の炎はかくも色褪せ
かきならす竪琴は銀のささやき
お前は{ル ....
すべての事実を見たとしても
見ているようで何も見ていない
それは単なる感覚器官の一つが
脳に伝達したという事実に過ぎない
すべてのことを理解したとしても
理解しているようで何も理解し ....
水が割れるのです
いま
指先の銀の引き潮に
水が
割れるのです
うなじを笑い去るものには
薄氷の影の匂い
たちこめてゆきます
たちこめてゆくの
です
紫色の ....
月明かりだけで暗い森を分け入って
辿りついた小さな泉
濁りのない水は鏡の様に
僕の顔を優しく映す
清らかな水は月光を反射して
柔らかくきらきらと煌めく
光の中から小さく愛らしい妖精 ....
うんと強いウイスキーを頂戴。
赤いマルボロを灰皿に擦りながら女は言った
ハイヒールに収まった小さな足
指先に輝くネイルのスパンコール
私、恋愛には興味ないのよ。
赤くなった顔で女は言った ....
額の汗を無造作に拭うあいつより
きれいに畳んだハンカチで汗を拭う
そんな男のひとに憧れてしまう
えっと…そんなひとなら
細い指先に挟んだボールペンを
くるくる器用に回したりして
わたしのこ ....
時計が丸いのは
時間が丸いから
時間が回る
だから時計も回る
時間が回る
だから地球も回る
時間は丸い星だから
時間が回る
だから星も回る
時間は丸い宇宙だから
時 ....
これはもの、
こわれものだから。
とっても大切にして、
こわさないで。
生きてないの、
これはものなの。
こわれてしまうと、
もう駄目。
こわれ ....
探しものは
なんですか?
もしかしたら
「あの時追っていた夢」
ですか?
あ〜〜〜
残念っ
それならばもう
消費期限が過ぎて
腐ってるみたいです
もし・・
あきらめる事が ....
夜になると森の奥から
ピュー ピュー ピュー
と音が響いてくる
僕は竜のいびきの音だと思うんだ
大人達は森の奥の谷を抜ける風の音だと言う
でも僕は信じていた
森の奥には竜がいるって
....
人が創る地獄絵は
恐怖と醜さが鮮明で
人が想う天国は
幸福と美しさが不透明
人の批判は瞬時に知れ渡り
功績はすぐに消えてゆく
否定することはたやすい
ひとたび否定の沼に溺れれば
....
失われた街が視界のなかを流れる。
忘れられた廃屋に寄り添う墓標の上で、
目覚めた透明な空が、
真昼の星座をたずさえて、
立ち上がる高踏な鳥瞰図に、赤い海辺をうち揚げる。
繰り返し、磨きあ ....
うたたねをして目覚めると
一瞬 {ルビ黄金色=こがねいろ}のかぶと虫が
木目の卓上を這っていった
数日前
夕食を共にした友と
かぶと虫の話をしていた
「 かぶと虫を探さなく ....
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