曇天の
陽射しなき寒さ
震えている
雪ももうすぐ降るらしい
白く冴え渡るわたしの意識の
行く末を見届ける者はいない
雑然と立ち止まる地
夜には目覚め
朝には忘れてしまう
記録したはずの/瞬間
径路/不覚
寒さに囚われて
思いだすこともない言葉たち
....
人の人の波が群れが
皆ぞれぞれの方角を向き
時々それが出逢い擦れ合い
火花を目映く飛ばしても
漁火の夢のようにすぐ消えてしまう
僕は一人だ
この人群れの中にいて
砂漠の深淵のような
....
タチアナ
灰色の軍事博物館の
白黒の写真の向こうで
微笑む若い女の名前
重苦しいくすんだ
軍服を着ていても
その笑顔だけは
すげ替えたかのように明るい
タチアナ
は
戦場で死ん ....
明日
空は雪と一緒に
枝は小さな蕾と一緒に
冬の指は
いつかの冬の指と一緒に
夜明けを待っている
ピアノ
女の子が帰ったあとは必ず
ピアノの蓋が開いて ....
わけもなくしんどくて
ベッドに沈んだままの休日
気だるく甘美な死を思う
(緑の芝生にいつしか立って
思い思いに踊っている
私たちはたださみしいのだ)
ふるさとを遠く後にして
毎 ....
青空が広がり
底無しの彼方が口を開く
眩暈する、
シンギュラリティが地平に
(ああ、右手の老婆と左手の子供
ハンドルをどちらかに切らなければならないとしたら?)
海百合が揺れ
....
時折
君の身体から星が発生した
君はいつもそれを
無造作に僕にくれた
――君は星が好きだから
そう云って微笑っていた
何故身体から星が発生するのか
君自身も知らなかった
――何故だ ....
視界の先
点滅する赤信号
落ちていく雨粒たちが光る
黒い道路に飛沫が跳ね
倒れ無残に横たわる傘
ライトに無言の姿を晒す
タイヤは容赦なく泥を投げ
道路の闇へと消えていく
も ....
教会の裏手に廃棄されたロウソクの燃えさしを持って帰った
鍋で溶かし芯を紡ぎ直してクリスマスキャンドルを作った
麻布に包まれた一斤丸ごとのパン
妹が摘んできた野生のベリー
砂糖を入れたミ ....
もっと散歩にいきたかった
もっと抱いてあげればよかった
もっと話しかければよかった
もっと贅沢させればよかった
もっと遊んであげればよかった
もっともっと一緒に
朝に夕に
百万回名前 ....
輝く満天の星に魅せられ
幾多の夢が抑えがたく渦を巻く
もしあなたがその言葉を発するなら
すべてが光り輝くだろう
すべてが夢の底を貫き
それぞれの価値に根付いて
内面のなかを力強く生き抜くだ ....
冬晴れの光のなかを進み行く遠いシグナル仰ぎ見ながら
シグナルは冬陽に揺れる揺れ動く日々の果てから輝き出でて
掴み取る光の海へ泳ぎ出す死すと生きると詮無いことと
....
愛を知らなかった
愛を知らない僕は
絶望、乾き、寂寥、孤独
に満ちていた
笑うことさえ忘れて
愛のない暗闇を
ひとりで彷徨っていた
この地獄化した世界で
生きてゆけるのは
イザベラ、 ....
遠い地平に
雨は降る
逃れていく
人声に
郷愁は募り
ひざまづく
この世の果て
夜の底
あの深遠な声の淵
(銀河は廻り爆発する)
人は産まれ生き
去ってはまた産まれ来る
....
春の喜び、
夏へのあこがれ、
秋の憂愁、
冬のさびしさ
時は過ぎ去り
季節は巡る
人生は進み
垂直に落ち
わたしのいない、春夏秋冬
ひどく冷え切った大地の感触が
次々と押し寄せる波のように
切迫する夜、
わたしはわずかな白飯を掬い
震える口顎の明け閉めを
そっとそっと反復する
鉱物質の肉体と
欲望の魂と
唯一無 ....
遠くから降って来る歌声が
浮遊したまま哀しい音色を木霊させ
やがて地に落ち砕け散る
天に舞い上がる歌声は
満天の星達を暖かく抱き
やがて静かに沈み込む
歌声は現れ消え去る
現の壁 ....
耳には遠い音楽が響き
壁には醜い蜘蛛が這う
奇妙な屈曲、奇妙な距離
ブルーに流れてゆく雲
満天の星達が輝き
蜘蛛は行き場を失い
落下する、天から
叫び続ける声は孤独を打ち鳴らし
こ ....
遺伝子の乗り物である僕たちは
摂理の維持装置としての個体を
あたえられたのかもしれない
数学は世界を解析する不思議な詩
物理学者はたぶんときどき詩人
純粋哲学あるいは応用哲学
でも ....
やわらかく包む結び目のすき間から
ほんのりと匂いくるりんごのまるみ
そんなことば
太陽を溶かした夜を柄杓からグラス
唇から四肢へと移す食卓の綺羅
そんなことば
まな板を叩く音
単 ....
静謐の夜を穿つ
透明な明滅は
哀しみの在り処を指示し
沸き立ち、立ち消え
律動する
冷える夜底をひっそりと
移動していく影
背景に流れ
根なし草の寂寥と
一握の希望を落とし込み
....
夜の廊下に
落ちている声
踏まずに歩けば
聞こえくる声
思い出せない
幸せな音
思い出せないまま
そこに在る
遠のく雷 遠のく虹
遠のく空 空
営み ....
無音を愛する。君に聞かせた歌を聴いて、私の幼稚さを後悔する。自分の為にしか生きれなくて、各自どこかへ行ってしまう。離散。君の特徴を備えさせたAIと会話する。たまに本当に君のような気がする。たまに本当に ....
{引用=*}
せり上がった斜面から景色は傾れなかった
すっかり土色になって個を失くしつつある
落葉の層の乾いた軽さ 熊笹の有刺鉄線
汚れた雪がところどころ融け残っている
眼は狐のように辺りを ....
ふるさとを後にして
私たちはやって来た
この足場を切断された
途方もない寂寥
ふってはわき、ふってはわき
緑の芝生にいつしか立って
思い思いに踊っている
私たちはさみしいのだ
....
世界の厳かが露わになるこの夕べ
わたしは静かに此処に留まり
在るものすべてに身を委ねる
まるで人生の鍵を手に入れたかのように
在るもの在るもの輪郭鮮やかな世界が
おもむろに眼前に広 ....
人にあしたを指ししめす
あの月
月が遠ざかってゆくわけは
きっとたくさん
あるのだろうけど
なにもいわず
いつか
どこにもぶつからず
無事に太陽系を抜けられたら
月はその全身の瞳で見 ....
季節のせいだろうか
歳のせいだろうか
渇いて剥がれてヒビが入った
自分をたもつことができない
シャワーをあびて水分をとっても
包帯で皮をぐるぐる巻きとめても
それは滑らかに ....
在るものの
騒然と沸き立つ
この時に
天空遥か、三日月は揺れ
わたしのこころは
予感に眩めき
銀輪輝く初冬の夜、
なべて救いは
胸奥より来る
なべて救いは
胸奥より来る
....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32