五月に生まれた
その時私はたくさん泣いただろうか

明るい小さな窓のそばで
この身体に優しさの種を植えただろうか

育つたびに変わらない
心の水たまりは
やがてゆっくりと輪郭までを映す ....
相も変わらず
寂しさは私の身体を硬くし

時折に溢れる愛情は
それを許さない

狭間という地点で
一呼吸つけたらいいけれど

見つからない
まだ
真空に飽和している

我に返ればそんな筈がないことも
その後でまた我を失うことも

繰り返し繰り返しまた
繰り返しに知るばかり


私は何処へ往ったのか
それとも此処が私なのか
 ....
不器用な視線で
私の背中をなぞる人

その深海の底までひとすじに
繋がる台詞が浮かぶなら今


けれど
ただのひとつの言葉を
手繰るよりもずっと早く

分厚い波が途切れず ....
 その日ジリはキリカの部屋の近所の居酒屋で、キリカと一緒に夕食がてらビールを飲んでいた。
 近くに住む常連客が集まる、気取りの無い賑やかな店だ。

「なあ、キリカ一緒に住まないか?」
 アルコ ....
 ジリが山手通りを自転車で飛ばしている頃、キリカは水を張ったバスタブに腰まで浸かってぼんやり天井を見上げていた。
「ジリのヤツ遅いなあ。」
 ジリは山手通りを右折して、かむろ坂を登り始めたところだ ....
浅い夜の沖の辺りに
目を凝らせば

深い場所にじんわりと
普段は誰にも気づかれず

隠れてるものが
見えてくる


柔らかな
月の明かりの下でも

眩しい
日差しの真ん中で ....
こどものわたしの
ちいさなきもちは
いつもひとり

だれといても
どこにいても
おんなじきもちが
みつからない

おんなじきもちに
あいたいな


すこしおおきくなった
わ ....
やさしいひとの
やさしくあろうと
どりょくしているひとの
たましいにふれた


それはなにより
やわらくて
ここちいい


しごとができるとか
くちがうまいとか
おかねがある ....
小さな音で聞く
古い音楽のように

今日の何処かに住むような
哀しみであればいい


何より大切な光だと
思えた瞬間を

ふいっとこの手のひらに
思い出せればいい


東の ....
わずか一小節程の残像を残して
君は飛び立ってしまった

それは砂粒のように粉々に散らばり
私の生きる所々にふと
瞬間を運んでくる

まるで他愛もない他人との会話の中に
あてずっぽうに出 ....
子供が蹴りあうボールのように
想う度に僕らは不器用に
必死にそれを届けあう


色 形 音 感触 重さ 揺らぎ

届くとき
その全てが僕の思惑とはまるで
違うものだろう


そ ....
暦を焦がすようにして
君を忘れていきます

久しぶりに私の想像するところ
君は今でも顔の前で手のひらを上に広げて
風を乗せたり散らしたり
不明瞭な気配を集めたりして
今日を楽しんでいるの ....
ほろりと私が手のひらを開くと
ふわりと私の手のひらに
乗せられるものがある

それは夕暮れの太陽の熱のように
網戸越しの風に靡くカーテンのように
何気なくふとする感触で

手のひらを眺 ....
ねむたくて ねむたくて
ほんのちょっとだけって
目をとじたら

夜のくぼみに
ポチャンと落ちてしまった

うす目をあけて まわりを見たら
そこはとろんとした 夜がみちていて
ぼくは ....
知らないうちに
窓の外が雨になっていて

そして知らないうちに
雨は止んでいて

私は変わらず
想っている


雨が生まれる
辺りのことを

そこに住んでいるであろう
人た ....
光と水と土だけで
あとからあとからぴかぴかの
緑の葉っぱが生まれてくる


その葉はつるつる美しくって
どうしてわたしは
葉っぱに生まれなかったんだろ
なんて思ったりもしちゃう

 ....
国道の上で
灰白色の雲たちが
渋滞している

その下で
私の行先はどこにも
決められてはいない

恐らくそれは
初めから


私はひととき
歩みを止め

道の脇でそれぞれ ....
からだがあって

こころがあって

たましいがあって

ここに


となりあって

ふれあって

かさなって

いつも


さいしょは

しらない


さ ....
たくさんの夢を見た

それはまるでそこが故郷のような
戦時中の異国であったり

今はもういない家族と一緒に
得体の知れない大きな敵と戦ったり

全てを飲み込む水が押し寄せる街の中で
 ....
カラリと渇いた道の上に立ち
待ち侘びた時間の束を
そっと放つ

その影の尾が
通りの向こうへと細く消えて往くのを
私は呼吸だけを携えて
一筋に見つめている

明らかに失ったことを
 ....
昼に見上げた薄い月の
その不確かな存在感とよく似た
獣が私に住んでいる

恐らくそれはずっと其処で
私に気付かれる事を
待っていたのだろう

それにしても沈黙は余りに長く
お互いの黒 ....
渇いた瞼に浮かび上がる人影
昇り損ねた月が沈む辺りで

ひと滴の涙も見当たらない

ノックの響かない扉の向こう
風の通らない廊下で

お皿に並べた低音のハミング

半透明が重なる花 ....
私の影がそろりと
地表から剥がれる時
私はやはり独りで
遠く空を見上げているのだろう

そして夜毎夢の中で
出逢う死者たちは
いつもと同じ柔らかな手を
差し伸べるだろう

けれど彼 ....
昨日哀しみを突き放し
今日の瞼は何も隔てない

地表を渡る細波を
裸足でなぞり
葉の無い枝のように
四方へと手指を広げている

数羽の鳥が羽を休める
屋根の上には
ソーダ色の空が
 ....
水の中に両手を
そっと差し入れ
泳ぐ魚の影を
そのくねりを
掬ってみたいと
思うのです

光と私はいつでも
とても遠い場所で
落ち合うけれど
必ずまた会えることを
知っています
 ....
昔覚えたうたのような
還る記憶にうつ伏せて

包まる毛布の
裏葉色に眠ろう

小さな迷いがやがて
声を嗄らす前に

今宵のほつれた
カーテンの隙間にも

人知れず月は失わず
 ....
ぼくがいなくなっても
さみしくないように

きみのまくらもとに
ちいさなかみさまを
おいておくよ

あるばんにだれにも
はなせないことがあったら

ちいさなこえで
ちいさなかみさ ....
君が僕の詩を待っている頃
僕は君の声を待っている

賑わう街では肩を擦らせながら
人々が振り返らずに先を急ぎ

増殖した三角ポールは
国道の硬いアスファルトを齧っている

橋を渡れば ....
在る様に見えた向かいのプラットホームに
止まる列車ばかりを待っていた

落ちかけた陽に照らされ
辺りの羽虫も塵も金色に飛び交う中
次第に此処へと近づく車輪の音を聴いていた

けれどそれは ....
松本 涼(295)
タイトル カテゴリ Point 日付
文書グループ
12ヶ月文書グループ07/3/11
投稿作品
五月自由詩412/5/17 23:47
狭間自由詩211/2/2 21:02
自由詩210/9/15 22:11
分厚い波自由詩510/9/13 23:04
カバとキリカ散文(批評 ...710/6/4 20:31
ジリとキリカ散文(批評 ...510/6/4 20:21
浅い夜自由詩510/4/27 22:53
おんなじきもち自由詩110/4/27 1:32
やさしいひと自由詩510/4/9 21:32
チビ自由詩510/1/27 23:19
残像自由詩409/11/11 21:35
ボール自由詩109/8/19 21:22
手紙自由詩509/7/27 22:53
例えば自由詩409/2/3 22:29
夜のくぼみ自由詩608/12/28 23:49
自由詩108/10/16 1:40
葉っぱ自由詩108/10/2 19:46
行先自由詩208/9/29 0:05
暖かな宇宙自由詩808/9/8 23:33
自由詩208/6/4 21:23
時の影自由詩208/5/29 23:43
昼の月自由詩408/2/14 21:28
あぶく自由詩408/2/9 13:59
柔らかな手自由詩708/1/30 21:37
記号自由詩1108/1/2 12:34
プリズムホワイト自由詩807/12/28 0:23
迷い自由詩207/12/26 22:39
ちいさなかみさま自由詩1107/12/25 22:23
証明写真自由詩507/12/22 0:38
落陽自由詩707/12/17 22:41

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