さんざん笑ったあとで
壁はつめたく白く
空はかたむいて灰色だ
さんざん笑ったあとで
どこへも行かれずに
手をのばしては
見知らぬ肌をさがしている
なにひとつ最後までは
寄りそいきれなかったわたしに
あなたがいつものように笑いかけるとき
許しが
どれほど無意味なことかを知ります
あらゆるものが
どれほど無意味なことかを
....
くちの中が腫れて
ぎゅっと膿をしぼる
吐きだしていまいましいものは
いつもいつも私自身だったものだ
欠けている月をみれば
前髪が伸びたあなたを思いだす
あと何日かすれば
あなたの笑うのとおんなし角度に月がわらう
あんなに
やさしげではなかったけど
信じられない、と言うのが聞こえたあとにもう一度信じられない、と言うのが聞こえたので私は礫(つぶて)になってしまった。弾けて路傍。鮮やかなつま先であなたが私を蹴り上げる。信じられないと言う声がまだ胸 ....
なにかの腹いせに
捨てるように蒔いた種が
季節を無視して咲きはじめる
かみなりのなる夜に
濡れながら
裏切るように白く
うすべったい花びらが
いっせいに
いつまでも
あな ....
このまま朝も夜もなく愛し合って死なない?世界じゅうの時計の針を盗んでしまわない?ねえ大事な話をしているのにスープにラムを入れるのはやめてくれない?靴下が左右違うんじゃない?些細な問題にとらわれすぎなん ....
潤みながら飢えている目は
風の日に飛べそうで叩きつけられた原理と似ている
美しくなったら会いに行くわと言う恋人のために用意した指輪は痩せすぎた彼女の指から抜け落ちて朝が来ない
朝は来ない ....
こんなふうに甘い曇りの日には
痩せた烏賊が空で迷子になる
びっちりしたネオンの前で驚いてしまったら
うちへおいで
どこへも行かないから
花だったら
きちんと枯れたのに
人でいて
笑顔で腐れている
あなたを撫でると
わたしの花が枯れるようで
それだけが救いだった
それは
いつも夜でした
横たえたただしさに水をそそぎ
愛や嘘が流れる扉を背に
あきらめるように
また
生きることを決めるのは
まず目をとじる
つぎに手をひらく
そして想像してみる
捨てさることのできない
自分というもののなかに
ちいさく
しめってふるえている
自我を想像する
それを捨てる
目をとじる ....
きみが欲しがるなら
月と星のかがやくところを
ぜんぶとってきてあげるよ
夜が
このさき
永遠に真っ暗でも
かまわない
だれかが死んでも
終わりのある日々に
きれいな蝶 ....
いるのは
さよなら
だけだったね
人だらけのまちで
風が倒れるのを
ひたすらにまっていた
そして
ようやく出あった
ふたりに
のこっているのはもう
さよならだけだったね
....
蒼白い頬が好き。と言ったら気味悪がってそのあと一度も連絡が取れなくなった子もいたしなんでか食事を抜き始めてばかみたいに痩せてみたりしたひともいた。いろんなひとがいた。でもみんなどこかへ行ってしまった。 ....
台風という言葉はわたしをなつかしい気持ちにさせる。と思って、でも、よくよく考えたら、わたしは非常に多くの言葉になつかしい気持ちにさせられる。たとえば読書、と聞いても、小学生の休み時間のほとんどを過 ....
雨がふるので
膝を立てて
まがった指で
生理用品をつけかえる
角に立っている男たちが花売りを罵倒している
走り抜ける街の多さ
どれだけ降っても
給水塔はふやけない
雨が ....
人を
ただしい場面で
ただしい順序で
ただしい角度に
揺すると
泣く
そのただしさを
習得することを
愛とか技とか
呼ぶ人びとを
軽蔑し
憎んでいるわたしも
ただしい角 ....
出し入れするものがちがうだけで
会話になったり
セックスになったりする
不安
雨は降るし
音は流れる
あらがうものが
ないだけで
こんなに不自由なのに
愛されなんてしたら ....
可愛かった君が
台風になったと聞いて
かなしかった
あんなに可愛かった君が
なに食わぬ顔で
意味や 時間を
張り飛ばしていく
むかし
一緒にうたっていた歌を
はぐれた風に ....
空がすこんと抜けそこから夏と秋とが入れかわって鱗雲。日差しはどことなく丸っこくなって色もなんとなく赤っぽい、カーテンにハンガーのかげがうつっている、それとそれに吊るされている布たちと。
ここはほとん ....
毎晩
息をふきかえす恋情の手をにぎって
墓場へつれていく
そうして
同じようにして来たあなたと
抱き合ってから
墓を掘り返し
うめる
説明のつく気持ばかりをあつめて評価しようとしている。
きのうと今日はいろいろなことを台風のせいにした。
夕食の準備しなかったのも、本が読み進められなかったのも、洗濯も掃除もろくにしないで線 ....
ねむる人から
わずかに死がにおっている
うなじにくちびるをつけ
愛してやると
その背中に
にじむように命が動いている
ねむる人よ
安らかに
いまは死のふちをなぞっておいで
しかたなく押したボタンの副作用 瀕死のコイの心臓波うつ
往来へでて
てきとうな影をみつけては持ち帰るが
どれもやはりあなたではない
晴れた日には
いつもより多くの影が行き交うが
どれもやはりわたしではない
くもりの日
沸点をこえた ....
かすれたペンみたいな呼びかたで
わたしの名前をなぞるひと
ねころんで みえていた
溶けいりそうなまつ毛に
露のような気持を刺して
いっしょう
心がつぶれたまま
生きていけばいいの ....
後ろ手に曲を奏でて鳴りおわったらさよなら
咲いたまま首を落とす椿みたいな朝
コンクリートのうえで
べらぼうに
赤く
どうしても開いたままの花弁が風に
痛い
手のひらを
ひらいたとき
いくつもの時間が
そこで死んでいた
顔をあげると
いくつもの季節が
道路のすみで
凍えていた
ふるえる指で
拾いあげた
だれかの言葉は
死に ....
ほかでもないあなたと
どうしようもなくなりたい
雨の日に雨だれを数えながら飢えていくのもいいし
乾いた日に蟻をつかまえて拷問するのもいい
湿った毛布のなかで賞味期限の切れたひき肉みたいに絡 ....
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