「これは、わたしのもたらす罪だ。祭祀クーラスは、
あなたとアイソニアの騎士の妻を盗むことで、
あなたたちにわたしを殺させようとしたのだろう……。
最愛の人のためであれば、あなたたちも手を汚 ....
ここで言う堕落というのは、世間一般での堕落のことではない。
エインスベルを「魔の道へと貶める者」のように、
エイソスは、アイソニアの騎士のことを考えていたのである。
リグナロスと同じく、エイソス ....
「久しぶりだな、エインスベル」
その日が、たまたま非番だったエイソスは、
屋敷の応接室に二人を迎えに出た。
その顔つきは、つとめて表情を抑えているように感じられた。
「いつ以来だ?」と、戦 ....
門番の一人は、二人ともう一人の門番とを残して、
屋敷のなかへと消えていった。そして、二ヤールほどの時が経つ。
そして、神妙な面持ちで一行の前へと帰ってきた。
「どうぞ。エイソス様はお二人にお会い ....
「ここを通す前に、聞かなくてはならないことがある。お前は何者か?」
「わたしは、エインスベル。戦士エイソスの古い友人だ」
「友人? エイソス様には多くの知己がいらっしゃる。親しい者から、
信用 ....
エインスベルとリグナロスは、門番の前に進み出た。
門番たちの表情がこわばり、彼女たちを牽制する顔つきになった。
「どうにも反応が良くないようです……」
「{ルビ魔導士=ウィザム}は嫌われているか ....
エインスベルは、リグナロスとともにエイソス邸の前に立っていた。
それは、クールラントの千人隊長にふさわしい、瀟洒な屋敷だった。
戦士エイソスは、クシュリーと結ばれて以来、一家を構えていたのである。 ....
「そうだな。転移魔法が使える場所へと、急ごう。
わたしは、戦士エイソスの元へと向かう。彼は、
今でも中立の姿勢を保っているに違いない。正義を信じているのだ。
しかし、わたしにとって正義とは ....
「ヨランよ、お前もわたしの敵になるのかもしれないぞ?」
アイソニアの騎士とヨランが立ち去った後、
エインスベルは独りごちた。それを、リグナロスだけが耳にする。
「エインスベル様……?」
リ ....
(祭祀クーラスも、エランドルも、世界をどのように変えて行こうとしているのか、
今はまだ分からない。ライランテの戦争は間近に迫っている。
アイソニアの騎士は、アースランテの側に立って戦うだろう。 ....
そうして、アイソニアの騎士とヨラン、そしてエインスベルとリグナロスは別れた。
迷いに駆られたエインスベルは、再び虹の魔法石を見つめる。
(この監獄において、虹の魔法石はすべての魔術を無力化した。
....
ヨランがエインスベルと別れる寸前、
彼は、ひとつの言葉をエインスベルの耳元で囁いていた。
「エインスベル様。エランドル・エゴリスは、あなたを利用しようとしています。
彼は、もしくはこのヨースマ ....
明るい、明るい心を探していた。切り刻まれた自己は、けっして元には戻らない。ああ、どうして? 天気はこのように移り変わって(天気予報を無視して)、わたしの上に雨を降らせる。晴れた空ではなく、雨が救いに ....
「では、行きますよ。アイソニアの騎士様。
これで次元跳躍は……三度目ですね」と、ヨラン。
「おいおい、俺は次元跳躍なんてしたことがないぞ?」
「お忘れですか? ハーレスケイドへと行くとき。帰る ....
「甘い、というのは遺憾だな、エインスベル。俺は……」
「黙って」エインスベルは、アイソニアの騎士の唇を指で押さえる。
「これ以上は何も言うなというわけか。良いだろう。
俺は、イリアスの救出に行 ....
「おい、エインスベル。奴の目的は何だと思う? 奴というのは、
もちろん祭祀クーラスのことだが」アイソニアの騎士が苛立たし気に言った。
「分からない。事を有利に運ぼうとしているのは、分かる。
....
「分かった。俺は俺の妻を救いに行こう。おい、ヨラン!
次元跳躍の魔法は使えるのだな? 彼女の前に跳躍してみせろ」
「何とおっしゃします、騎士様。あれは、この身をすり減らすものなのですよ?
滅 ....
その時のエインスベルの顔は、美しかった。
切れ長の目が、その端に涙を湛えている。
アイソニアの騎士と、二度とは会えまいと思っていた、
そんな心情が顔つきにしみ出しているように思われた。
「 ....
その時にエインスベルが見せた表情。それは、いつにない柔和なものだった。
ヨランは、エインスベルの心理について思いを寄せる。
(未だ、この人はアイソニアの騎士を愛しているのだな)と。
しかし、それ ....
「俺には礼を言ってくれないのか? エインスベル」
アイソニアの騎士が、咳払いとともに、憮然とした表情で言った。
「あなたは、敵を倒すのが仕事。今現在の行いも、
あなたの通常業務を外れるものでは ....
「虹の魔法石は、それを所持している者に対してのみ、
魔力を与えるということか。そして、それ以外の者の魔力は吸収してしまう」
たった今得た知識を、エインスベルはなんとか形にしようとしていた。
し ....
「ヨラン、一つ確かめておきたいことがある。
これは、本当に虹の魔法石なのか?」エインスベルが重い口を開いた。
「先ほどの魔法、通常の魔法と異なっているようには見えなかった」
エインスベルは、ヨ ....
「エインスベル。いや、事は俺たちがここを脱してからだな。
しかし、エインスベル。祭祀クーラスの企みを許してはならぬ!
奴は、再びライランテに戦争を起こそうとしているのだ!」
「アイソニアの騎 ....
「ところで、エインスベル様。このごろ、気になった話があるのです」
リグナロスは、エインスベルに振り向いて言った。
「実は、祭祀クーラスが良からぬことを企画していると……」
エインスンベルは、きつ ....
「よくご覧なさいませ。ここは、過去の時代の神殿でございます。
神殿には、そこに捧げられた武具というものがあるもの。
お探しであれば、あなた様の武具も見つかりましょう……」
「必要以上の敬語は ....
「次元跳躍を使いましょう、エインスベル様」ヨランが言う。しかし、
「待て、ヨラン。次元跳躍は、今は使えない。リグナロスがいるのだ。
次元跳躍は、その手に触れている者にしか、効果は発揮されないのだ ....
エインスベルの前に、いくつもの屍が積み重なった。
それは、彼女が望むところではなかったが……仕方がないのである。
彼女は、クールラントの未来を背負った身、祭祀クーラスとは、
異なる道を歩むべき存 ....
看守たちの血が迸る。ヨランは、顔を青ざめさせた。
リグナロスもまた、剣で監守たちに斬ってかかっている。
(わたしだけが、逃げるわけには……)ヨランは心のうちで思った。
しかし、看守たち向けて、エ ....
数人の男たちの駆け足の音が、聞こえてきた。
看守たちが目を覚ましたのである。
「そこな女、そこで何をしている!」勇ましい声が響いた。
リーリンディア監獄の監守たちの声である。
エインスベル ....
一つの答えの予兆だった。この世界は、クーラスに支配されてはならない。
もちろん、エランドルによってもだ。
エインスベルは、この世界を支配する者の存在を許さない。
人とは、自由であり、己が道を己で ....
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