ハーレスケイドにおける一都市、クーゲンドルの街中を、
ヨランたち一行はさまよっていた。一都市? ほんとうにそうか?
そこには見慣れない建物、科学時代の遺構とも呼ぶべきものが、立ち並んでいた。
「 ....
「今一度問う。お前は、わたしに従うか、従わないか?」
「ふん。その結果を見たいのであれば、今すぐわたしを釈放することだな。
 そこに、お前の見たい結果も見えてくることだろう、魔導士よ」
「わたし ....
「ふふ。罪人ごときが何を言う。今、俺がお前に従うふりを見せたとして、
 本当に俺がお前に従うと思うのか? エインスベルよ。
 世界とは、為政者の知恵によって成り立つものだ。理性によってではない」
 ....
「魔導士を殺すだと? どうやらお前はとち狂ったらしいな。
 我が宿敵はアイソニアの騎士。剣だけでも奴を倒せる」
「しかし、お前は負けたではないか。わたしは、
 お前が何を望み、何を目途としている ....
「わたしはお前の拘束を解こう」エインスベルは言った。
「そして、再度クーラスの暗殺を命じる」
「ふん! 命じるだと? お前はいつから国を代表する者となった?」
「この国の代表はクーラスだ。だから ....
「お前は何を知っている?」フランキスは問うた。
「何も」エインスベルは答える──「しかし、
 お前がこのエイソスの妻を誘拐しようとしたことは、知っていた。
 クーラスの差し金なのであろう?」
 ....
「おかしなことを言う。だいたい、なぜお前がここにいる?」
「それは、わたしが牢から放たれたからだ」
「それは誰によって? そこにいるエイソスではあるまい」
「そうだ。エイソスの手によるものではな ....
「ふん。千人隊長でもない一魔導士が、わたしに何を言うのか?」
「お前は虜囚だ。口の利き方に気を付けるが良い」
「口の利き方? 魔導士風情が大層なことを言う」
「その魔導士が、お前を捕縛しているの ....
窓から光が射している。それは、まるで明るい闇のようであった。
フランキス・ユーランディアは、ふいと目を覚ます。
そして、明るい日差しに目を背ける。今は自分に、それはふさわしくないと。
そこへ、幾 ....
「あそこに虹の魔法石があるのだな!」アイソニアの騎士が勢い込んで言った。
「お待ちくださいませ、騎士様。突出されることは……」と、ヨラン。
「ふん。弁えている。戦いとは、味方あってあるものだ。
 ....
言葉しか、綴れないよと言っていた。その言葉すら、手のひらから逃れ。

この痛み、続くのは幾月か。病のなかに、ふと訪れる安らぎ。

階段を降りて、母と二言三言。犯すべくなき、領分があり。

 ....
「おい、何をしている、盗賊。行くぞ!」
アイソニアの騎士が、重い背嚢を取り上げた。
それに従って、エイミノアも重い腰を上げる。
オーマルは、まるで人間ではないかのように平然としていた。

( ....
その一方で、ヨランは別のことを考えていた。すなわち、魔法素子について。
(魔法素子が生き物であれば、いつまでも大人しくしているものだろうか。
 {ルビ魔導士=ウィザム}は魔法素子を自由に使う。それ ....
アイソニアの騎士の憤りも、もっともだった。
彼は、アースランテの千人隊長なのである。それが今では、
ヨランという盗賊風情と契約した身である。いかに、
エインスベルを救うための旅とは言え、彼は支配 ....
再びの危機は去った。シーゲンサの群れはことごとく屠られた。
アイソニアの騎士、エイミノア、盗賊ヨラン。その思いは一つでも、
その思惑は、彼らそれぞれで異なっていた。あるいは、アイソニアの騎士は、
 ....
(予感は的中した)と、ヨランは思う。(もしや、エランドルは、
 このヨースマルテで誰もが魔法を使える世界を目指しているのでは?)
いやいや──そうではないかもしれない。ヨランは逡巡する。
(しか ....
砂の下から現れたシーゲンサが、一行を円で取り囲む。
先ほどのエビ・グレイムほど、シーゲンサは強力な敵ではない。
しかし、屠っても屠っても、シーゲンサは砂の中から現れた。
「きりがないな。こんな時 ....
そして地面は、ざわざわと揺らいだ。
オーマルが言ったように、一行を次の魔物たちが狙ってきたのである。
「シーゲンサ!」オーマルが叫んだ。
「何! シーゲンサとは何だ?」

砂の中から、無数の ....
「ヨラン殿の言うとおりでございます」その時、オーマルが口を開いた。
それまで、彼女は一言も発さずに沈黙していたのである。
「その根拠とは?」アイソニアの騎士は、オーマルのほうを振り返った。
「そ ....
ヨランたち一行は、三日の間砂漠を旅していた。
オーマルに取りついたエランドルと話して以降である。
皆の喉が渇く、しかし、不思議に食欲は感じられなかった。
そして、三日という時間も彼らの体感時間で ....
「さっきの化け物を葬った魔法か? あれは、お前の手柄だった!」
アイソニアの騎士は呵呵と笑ったが、ヨランはすっかり怖気づいていた。
「笑いごとではございません。誰もが、あのような魔法を使えるように ....
「話せば長くなります。ですが、ヒントはエランドル様の言葉にあります」
「エランドル? さっきこの女に取りついた亡霊のことか?」
「俺は知っている。世界を滅ぼした男だな」と、エイミノア。
「それは ....
「しかし、クーラスはすでに虹の魔法石を持っているのであろう?」
「そうでございます。ですが、多分彼は使い方を知らないのです」
「虹の魔法石の……か? それはあり得ぬ。あの狡猾な男のことだ。
 き ....
「そうでございます、騎士様。先ほどの魔物は、エビ・グレイムと言います」
ヨランは、アイソニアの騎士から言葉を引き継いで言った。
そして、説明をする。「この本、オスファハンの手書きのメモによれば、
 ....
「なぜ止める、ヨラン? そのエランドルという男がまことに
 このハーレスケイドの支配者であるならば、この男を倒さねば、
 虹の魔法石は手に入らないのではないのか?」アイソニアの騎士は訊いた。
「 ....
「あなたは本当にオーマル様なのですか?」ヨランは尋ねた。
「わたしたちの『導き手』の……」と、続ける。オーマルは、
「わたしはいかにもオーマルと申す者。始めにその名を告げたはずだが……」
「承っ ....
「やはり、これは罠だな?」アイソニアの騎士は、オーマルを睨(=ね)め付けるように言った。
「大方、俺たちのような厄介者を、ドラゴンに食わせようというのであろう?
 その手は食わぬ。そもそも虹の魔法 ....
「それは、エインスベル様の命でございます」と、ヨランは言った。
「当たり前だ! 俺たちは、虹の魔法石を求めて、ここへ来たのだ!
 それがエインスベルを救うと、この盗賊が言うからな!」と、アイソニア ....
「単純な話だ。生きとし生ける者には、霊魂が存在する。
 そして、世界は一つの心を持っている……。
 わたしは、このことを数十年の年月の末に確かめたのだ。
 わたしを導いたのは、魔術という一種の道 ....
「そんなものが、この地に満ちているのですか?」ヨランが愕然とした。
目に見えぬ生命があるなどと、ヨランは理解できなかった。
しかし、科学が崩壊する以前の文明であれば、それは当然の話だった。
「こ ....
朧月夜(879)
タイトル カテゴリ Point 日付
クーゲンドルにて(一)[group]自由詩1*22/10/15 16:13
明るい闇の中で(八)[group]自由詩2*22/10/9 22:58
明るい闇の中で(七)[group]自由詩2*22/10/9 22:58
明るい闇の中で(六)[group]自由詩1*22/10/9 22:57
明るい闇の中で(五)[group]自由詩1*22/10/8 22:46
明るい闇の中で(四)[group]自由詩1*22/10/8 22:45
明るい闇の中で(三)[group]自由詩1*22/10/8 22:44
明るい闇の中で(二)[group]自由詩1*22/10/7 21:03
明るい闇の中で(一)[group]自由詩1*22/10/7 21:02
砂漠の行軍(十)[group]自由詩1*22/10/7 21:02
自由律短歌雑詠(2022年9月)短歌4*22/10/6 20:16
砂漠の行軍(九)[group]自由詩2*22/10/6 19:39
砂漠の行軍(八)[group]自由詩1*22/10/6 19:38
砂漠の行軍(七)[group]自由詩1*22/10/6 19:37
砂漠の行軍(六)[group]自由詩2*22/10/5 19:32
砂漠の行軍(五)[group]自由詩2*22/10/5 19:31
砂漠の行軍(四)[group]自由詩2*22/10/5 19:31
砂漠の行軍(三)[group]自由詩1*22/10/4 19:18
砂漠の行軍(二)[group]自由詩1*22/10/4 19:15
砂漠の行軍(一)[group]自由詩1*22/10/4 19:15
世界の真実(十八)[group]自由詩2*22/9/30 18:10
世界の真実(十七)[group]自由詩2*22/9/30 18:10
世界の真実(十六)[group]自由詩1*22/9/30 18:09
世界の真実(十五)[group]自由詩2*22/9/29 18:02
世界の真実(十四)[group]自由詩2*22/9/29 18:01
世界の真実(十三)[group]自由詩2*22/9/29 18:01
世界の真実(十二)[group]自由詩1*22/9/27 20:47
世界の真実(十一)[group]自由詩1*22/9/27 20:44
世界の真実(十)[group]自由詩1*22/9/27 20:43
世界の真実(九)[group]自由詩1*22/9/26 19:18

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