「旅は、まだ始まったばかりですよ? アイソニアの騎士様。
 そうは言っても、エインスベル様の命のことを考えれば、
 それほどのんびりもしていられますまいが……」ヨランが悩んだような表情で言う。
 ....
世界とは、常に変化流転しているものである。
いつかわたしが語ったように(わたしが一体何者であるか、
それはここでは、未だ伏せておくことにしよう)。この世界は、
三千年前に起こった「言語崩壊」によ ....
周りを見回せば、古代神殿のような柱。そして、空を見上げるような建物。
アイソニアの騎士は、(ここは我らが知っているような世界ではない?)
と疑った。それは、エイミノアにしても同じことである。人為的 ....
「アイソニアの騎士よ。あなたは、幽冥界というものについて、
 あまりにもよくご存じありません」アイソニアの騎士が何事かを言い出す前に、
盗賊ヨランは、まるでみずからがリーダーでもあるかのような、
 ....
「ここでございます」と、ヨランは、本の一角を指し示した。
それは、ヨランが背嚢から取り出したメモ書き、『ハーレスケイドについての報告』
という一冊の、一つの書物の、そして一つの考察の、
「ハーレ ....
「これは、ヨラン……」エイミノアは息を呑みながら、言った。
「あの牢獄の床に描かれていた文様なのか? わたしは気づかなかったが」
エイミノアは、焦っていた。この、エインスベル様の一介の従者、
臆 ....
「まず、アイソニアの騎士殿。あなたは、わたしを疑ってはなりませぬ。
 この旅が世界を変える旅だと、エインスベル様を救う旅だと、
 そのことをお忘れなさいませんように。もし、それを忘れたならば、
 ....
「{ルビ白墨=チョーク}を」と、盗賊ヨランは要望した。
その場にある誰も彼もが、と言っても、ここには三人しかいなかったが、
ヨランの唐突な物言いに、そして唐突な要望に戸惑った。
しかし、彼はそれ ....
「意外な人物だと? それはまさか、エインスベル……」アイソニアの騎士の心が騒ぐ。
「どうぞ、お焦りなさいますな。それは、エインスベル様ではありません。
 彼女の生存の如何は、この旅の結果として現れ ....
「ううむ」と、アイソニアの騎士は唸る。盗賊ヨランが、
ある種の決意を持って、この邸宅に忍び込んできたことは間違いあるまい。
しかし、彼の言うことが正しいとも限らない。この旅は単なる失敗に、
そし ....
「お前の言っていることはよく分からない。いつもそうだった。
 お前は単なる盗賊ではなく、賢者のような知恵を持っている。
 どこからその自信が現れてくるのか? この旅における目的と確信とは?」
ア ....
「わたしたちは、虹の魔法石を探そうとしております」ヨランが言う。
「エインスベル様は、この虹の魔法石によって、監獄に封じられているのです。
 わたしにも、実は確信はありません。これは一つの賭けなの ....
「ヨランよ。お前はいったい何を思っているのか。勝算はあるのか?」
アイソニアの騎士は、逡巡しながら、盗賊ヨランに問いかけた。
約束の二日間が、すでに過ぎていた。傍らにはエイミノアもいる。
人間と ....
「いいでしょう。行ってきなさい、アイソニアの騎士よ。
 アースランテ王朝の貴族の娘、イリアス・ナディとして、
 あなたに命じます。あなたのなすべきことをなしてください。
 この国、アースランテは ....
イリアス・ナディは、ほっと息をついた。
「それでは、あなた様は必ず、わたしの元に戻って来てくださるのですね?」
「ええ、必ずです。わたしにとって、女性と言える存在は、
 今ではあなただけなのです ....
「ははは。あなたの思われることは、杞憂ですよ。
 わたしは友人を救わねばならないのです。そして、
 必ずあなたの元へと帰ってきます。きっとです。
 そのころには……あなたはずっと大人になっている ....
「イリアス殿。わたしは決してあなたが思うような、清廉な人間ではありません。
 幾多の血を流して来ました。それは、正義の戦いとはほど遠いものだったでしょう。
 わたしは単なる傭兵なのです。アースラン ....
アイソニアの騎士は居室で佇んでいた。そこに取り縋った者があった。
イリアス・ナディである。彼女は言った、
「グーリガン様、あなたは今どこへ行こうとしているのですか?
 あなた様は、わたしにはいつ ....
「あなた様には、二日の猶予をさしあげましょう」と、ヨラン。
「いいえ、猶予などと不遜なことは申し上げますまい。
 二日間の間、じっくりと考えてくださいませ。世界のことについて」
「世界だと?」ア ....
「お前はここで何をしている?」アイソニアの騎士は、腰の剣に手をかけた。
祭祀クーラスがエインスベルを処刑しようとしている今、
クールラントの裏切り者であるアイソニアの騎士に対して、
刺客が振り向 ....
「馬鹿な。アイソニアの騎士は裏切り者だ。
 いつ世界を裏切るやも知れぬ、悪党だ」エイミノアは切り返した。
「一人の悪党にも、五分の魂というものがあります。
 わたしはそれに賭けたいのです」ヨラン ....
「お前の言葉には、根拠というものが欠けている。
 お前はすべてを自分の思惑通りに、そして、感性に従って、
 行動しているのではないか?」エイミノアの疑念はさらに増した。
「いいえ、あなた様にも分 ....
「そうです。ここはまぎれもなく、アイソニアの騎士の私邸です。
 あなたも薄々、そのことは感じていたのではありませんか?」
「なんと言うことだ、一度ならず二度までも、他人の家に侵入するとは……
  ....
瞬く光が、ヨランとエイミノアとを包み込んだ。
「これは何か?」、エイミノアは恐れと懐疑の念とに捕らわれた。
(四肢が溶けていくではないか? いったい何事が起ったというのか!)
そんなふうに恐れる ....
その時のオスファハンの怒りは、静かながらすさまじかった。
それは憤激とも、恩讐の念とも言えるものだったろう。
ライランテ戦争の際に、エインスベルが放ったヒアシム・カインの魔法。
それをまだ、オス ....
しかし、ヨランとエイミノアが再び地下室への通路へと潜ろうとしていた時、
一人の来訪者があった。それは、魔導士オスファハンである。
「ねずみがかかったな。わたしの書庫を荒らしてどうするつもりだ?」
 ....
ヨランは、その暗視の能力を活かしながら、次々と書物のページをめくっていく。
いい加減に、エイミノアは忍耐心を失いつつあった。
それは、オークという種族の特性であろう。
エイミノアを始めとしたオー ....
盗賊ヨランとエイミノアは、地下室からの狭い抜け穴を辿っていく。
二人とも、這いずりながら四つん這いの姿勢である。
「おい、盗賊、これが本当に出口へと通じるのであろうな?」
「もし、この穴が単なる ....
「もっと詳しく話せ。お前は、その他にここでどんなものを見つけた?」
エイミノアが明らかに焦った表情をして、言う。
盗賊ヨランは、ただ漫然とここに捕らわれていたわけではなかったのだ。
(なんたる不 ....
「ご覧ください。これは木切れではありません。燐寸と言うものです」
ヨランは静かに言葉を続ける。
「燐寸? それは何かの魔道具なのか?」
「いいえ、魔道具ではありません。科学の道具です」

「 ....
朧月夜(879)
タイトル カテゴリ Point 日付
ヨランの挑戦(五)[group]自由詩1*22/8/23 1:55
ヨランの挑戦(四)[group]自由詩1*22/8/23 1:54
ヨランの挑戦(三)[group]自由詩1*22/8/22 1:43
ヨランの挑戦(二)[group]自由詩1*22/8/22 1:42
ヨランの挑戦(一)[group]自由詩1*22/8/22 1:41
ハーレスケイドへの旅(三)[group]自由詩1*22/8/20 16:45
ハーレスケイドへの旅(二)[group]自由詩1*22/8/20 16:43
ハーレスケイドへの旅(一)[group]自由詩1*22/8/20 16:42
盗賊ヨランとの契約(五)[group]自由詩1*22/8/14 18:02
盗賊ヨランとの契約(四)[group]自由詩1*22/8/14 18:01
盗賊ヨランとの契約(三)[group]自由詩1*22/8/14 18:01
盗賊ヨランとの契約(二)[group]自由詩1*22/8/13 17:05
盗賊ヨランとの契約(一)[group]自由詩1*22/8/13 17:04
アイソニアの騎士の決断(六)[group]自由詩1*22/8/13 17:04
アイソニアの騎士の決断(五)[group]自由詩1*22/8/12 16:55
アイソニアの騎士の決断(四)[group]自由詩1*22/8/12 16:55
アイソニアの騎士の決断(三)[group]自由詩1*22/8/12 16:53
アイソニアの騎士の決断(二)[group]自由詩1*22/8/11 16:29
アイソニアの騎士の決断(一)[group]自由詩1*22/8/11 16:28
アースランテのヨラン(四)[group]自由詩1*22/8/11 16:28
アースランテのヨラン(三)[group]自由詩1*22/8/10 1:51
アースランテのヨラン(二)[group]自由詩1*22/8/10 1:48
アースランテのヨラン(一)[group]自由詩1*22/8/10 1:47
閃光と跳躍と(五)[group]自由詩1*22/8/8 0:19
閃光と跳躍と(四)[group]自由詩1*22/8/8 0:18
閃光と跳躍と(三)[group]自由詩1*22/8/3 12:22
閃光と跳躍と(二)[group]自由詩1*22/8/3 12:22
閃光と跳躍と(一)[group]自由詩1*22/8/2 7:50
地下室のヨラン(六)[group]自由詩1*22/8/2 7:49
地下室のヨラン(五)[group]自由詩1*22/7/27 16:43

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