妻は月に一度か二度
四、五日ずつ実家に帰る
その度に
暗い家に帰る度に
僕は何故ここに居るのかと問う
知らない土地と言葉
何をして居るのかと問う
湿気を吸い込んだ紙の様に
心が少しずつ ....
そしてやっぱり日々はつづき
宙返りした空が浮いたり沈んだり
それにあわせておれたちも浮いたり沈んだり
眼の覚めるような光の降る街!
けだるさや
ちょっとした絶望を明るく照らして
お ....
夜空から剥離した星明かり
星騒に眠られぬ夜
人知れずやってくる 孤独は、
ただ一人でいることでも
まして、理解されずにいることでもないのです
それは、答を待ちわびるということ ....
幸せな 人見て吾が身 嘆く我が
いやらしかなし ゆく日の気配
よっつ並んだヨットの四番目って
ふざけてあなたは教えたの
私たちの乗るそれは
秋の光りにぴんぴん尖がって
海からたちあがってみえました
大橋がみえる展望台へ続く山道を登る
山頂まで後1 ....
秋のイチョウ並木道
枯れ葉を踏む音が哀しい
でもこの音が好きだ
リズムが少しずつ元気をくれる
だから哀しさはあっても
寂しくはない
夏の命の抜け殻となってもなお
心に響く木々 ....
エコごころ、少し違えば、エゴごころ
泣き顔が
僕の世間の片隅で
次第次第に数が増え
しかも奴らはでかい顔
僕の居場所を奪ってく
泣き顔が
僕の世間の真ん中で
どんどんどんどん数が増え
しかも奴らは湿っぽく
僕の顔も ....
明るい心臓の奥深くに
私のかたちに似た木が一本
ひっそりと佇んでいる
その木は、
常緑と呼ぶにはいささか
難解で
落葉と呼ぶにはいささか
陽気である
そし ....
埃っぽいよね
埃っぽいよね
埃っぽいよね 埃っぽいよね
埃っぽいよね
....
雨に流された街は、
洗礼を受け
軽妙なステップを踏む猫が
聞き覚えのある昔の歌を
口ずさんでいる
秋はもう病んでしまっていたのです
倒れたショウカセンは、
( どんな英語の綴り ....
眠さにかまけて、課題を放りだす
そんな私を見て「バーカ」と言ったのは娘だ
私はそんな娘に「休憩してるだけ」と嘯いた
妻はそれを見ながら「二人とも馬鹿だろ」と言った
それを聴いた ....
硝子張りの塔
空を突き抜けて
人類は何を目指したのだろう
地を這いずり回ることへの抵抗
重力からの解放
自由という名の挑戦
空中都市に想いを馳せ
天上人を創り出す
古代文明に預 ....
ずっと寄りかかっていた
揺るぎない背もたれとして安心しきって
あなたが感じている重たさも
慈愛で受け入れて
融かしてくれているのだと思っていた
いま、青に導かれて去ろうとしている
....
真っ直ぐな道は歩きづらい
かと言って迷路みたいでも困るのだけど
適度に曲がりくねっていて
ちょうど昔ながらの畦道のように
赤い帽子によだれかけしたお地蔵さんが祀られているとか
時には肥だめみ ....
とりとめのない物思いに
舞い降りた芳しい栞
見上げた梢から零れる
オレンジ色のはにかみ
とりとめもなく高い空を
自由飛行したがる意識
ゆるやかに誘うような
オレンジ色のためいき
眉間に堰き止めて ....
親分が死んだ
翌日は
空がどんよりしずみこんでいて
さかんに落ちる公園の黄葉たちをみていた
車内の
十月
か。
なやまされていた
か。
....
橋の所に咲く花は
来る川の水を見ていたし
ゆく川の水も見てた
橋の所に咲く花は
泣く私も見ていたし
笑う私も見てた
秋の風は香りを運びますねと
語りかけても
ひとりたつだけ
....
寝汗に三度、着替える
暑い分けでは無くむしろ肌寒い
電車内のエアコンの意味が解らない十月
寝起きに力が入らない
奥さんは今までになく早朝から働く
子供の泣き声に這いずる
消耗戦
薬を切ら ....
トゥクトゥクの傍らで赤い夕日を待って
犬は
なにもしていない真昼
なにをしているのだろう、そこで
みずからの首に首輪をつけ
ひもをつないで
犬って
なにも ....
絶望的な奴って
絶望的な奴と何かを食べることは出来ない。
栄養を取る必要がないからです。
絶望的な奴と勝負事は出来ない。
失うものが何も無いからです。
絶望的な奴と酒を飲めない。 ....
空は悲しみ色に染まり
やがて激しく泣き出した
あえて僕はそれを浴びよう
僕の錆びついた鉛の心
純粋な悲しみ色で塗り替えて
きっとその方が
素直に泣けると思うから
水銀みた ....
母が私の靴をはいて出てしまった。
『せちがらい世の中です。どうか探さないでください』
朝起きると母の書き置きがあった。あまりにも淡白なセンテンスだった。私は泣きながらトーストをかじり、泣きなが ....
臨海線を越えれば
また一つ忘却の朝が 時計仕掛けのようにやってくる
未だ
ためらいのない無残なライトの明かりを車たちは放ち、
散水車の水のはねる音に
まどろみを破られた
わ ....
昔 うちの父さんは
カレーライスにソースをかけて
スプーンをグラスに突っ込んで
上から下までぐるぐる混ぜて
それはそれはおいしそうに頬張っていた
ある日 それを友達に
なにげなく話した ....
「ばかものよ!」
なんて言い切れるなら良いのだけどね
「もしかして」
そんな枕ことばで思いの丈をごまかしたり
まるで何事も無かったかのように
飼いはじめたばかりの小鳥の世話を焼い ....
要らないものを棄てる
何の感情もなく棄てる
これでいいのだ
生きることはそういうものなのだから
Old leaves fall from maple trees.
それが生きるこ ....
正解も、間違いもなくて
それでも答えがほしくて
君を待ち焦がれた
向かい合った瞳を見つめ
その手の暖かさを想像し
きれいに笑えず、うつむいた
抱きしめる代わりに声を
口付ける代わ ....
この世のうわずみを
あらかた舐めてしまった
僕は
もう
面白がらなければ
何も面白くないし
欲しがらなければ
何も欲しくない
この世のうわずみは
どれも同じような ....
(私はいつも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ます)
その日天井のしみは、妹のクラスメイトの顔だった
昼下がりに学校を早引けしたきり妹は姿をくらました
(私はいつも仰向けで寝入り ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29