空に埋もれた巨きな鳥を
指でたたいて確かめる音
少し傾いだ雨になる
片足を尾のように動かして
屋根の音を追っている
何もない日の生きものの笛
水のなかで抱く ....
八月十五日になると
毎年訪れる浜辺があって
太平洋に面したそこへ
母を連れていくのが
夏の慣例だった
『砂上の手紙』
空襲で
顔面に火傷を負った母は
ひどい弱視で
....
庭に雑踏が茂っていた
耳をそばだてれば
信号機の変わる音や
人の間違える声も聞こえた
ふと夏の朝
熱いものが
僕の体を貫いていった
雑踏は燃え尽きた
かもしれないが
庭 ....
幕をおろして 劇をはじめる
中枢神経に 花がさくとき
ほんのわずか きみの頬をそめる
熱量が欲しくて まいばん
星の軌道を めぐってくる
今年も裏のおばあちゃんが
墓参りに来てくれた
深いしわの刻まれた
掌を合わせて無言で立つ
墓前は静かな自然であった
先日おばあちゃんは
墓を綺麗にしていった
まわりの草も ....
窓の外から落ちた緑が
床に白く焼きついて言う
おまえはここから
進んではいけない
線に阻まれ
家をさまよい
見たことのない部屋に着き
水の流れと粒を聴く
舟 ....
キレイなアヒルを撫でました食べました
星のいのちと人のいのちが競争をしました亡くなりました
星の無い世界が来る前におじいさんの無い世界が現れて
また葬儀屋が求人広告ですアルバイト可で ....
牛がこない
遅れるなよと言ったのに
メールさえ返ってこない
電源を切っているのだろう
遠くに
うすちゃ色のまーぶるがみえる
きっとあれだ
おーい、と呼ぶ
MOO―、と感情を長くのば ....
へそにあけたピアス穴は、梅雨が開けるころには閉じていたんだよね
彼女は制服の下でハリを落としながら
鼓動を確かめていた
くるぶしを雨にひたして
たまらなく冷え切った、梅雨の朝だった
....
怪談をひとつも話すことなくて盆を迎える死者はいづこに
迎え火も送り火もなき軒先にちいさくあかく煙草の明かり
花火消えて火薬の匂ひ漂へるここは戦場明日は戦場
左手をなくさなかった砲兵が ....
見上げれば 猛暑の獅子が じりじりと
路面から 陽炎あがり 蜃気楼
心から 想う人では なかったが
遠い日の 記憶のままの お爺ちゃん
幻は 儚く去った 夕暮れに
....
そろそろ
世界が終わりますと
アンゴルモアが
満面の笑みで
ニュースで伝えている
外に出ると
風が吹き荒れて
エメラルドが
散乱している
人の寂しさでこしらえた、
円形のど ....
わたしたちの目の前で
落ちるブルー、ブルー、ブルー、
*
ブルー、ブルー、ブルー、
いちにちの、落ちる、朽ちる、空はやがて
静かに液化して海となり、闇となり
ざ…、 ....
光がきれいだといいますが
朝日が夕日がきれいだといいますが
太陽で人は死ぬんだと思うわ
....
海岸線沿って定規で空を引く色鉛筆で画け得ぬ青
深く深い場所まで熱せられていくオーバーヒート前の打ち水
おしなべて心を乱す約束と雲の行方をだれも知らない
....
ツミヲとおちんちんは、
いつも電車に乗ってやって来る。
ツミヲの棲み家は、
ここから二駅と四つ離れた駅から、
徒歩五分の閑静な住宅街の一角にある。
ツミヲはそ ....
八月が終わらなければいいと
願っていた
そのときわたしは
小学五年生で
朝顔を上手に育てることが出来なかった
そして
支柱にぴよぴよと巻き付いた
枯れた朝顔に
まだ毎朝ぼんやりと水 ....
ぼくたちが童貞だったころ
汗で肌に張り付いた
女の子たちの制服の白いブラウスは
未踏の大陸の地図のように見えた
街角の薬局の店頭では
小箱に入った不穏な計画が
巧妙にカムフラージュされ ....
空も高くて
青いから
遠くまで出かけようと
二歩歩くと
三歩目を降ろすところに蟻がいて
踏みたくはないので
停まろうとしたが間に合わず
足を上げて見ると
蟻の腹は空き缶のように潰れてい ....
見上げれば星屑が眩ゆすぎて
さすらえば闇が深すぎて
若いぼくらは歓喜で眠れなくて
そんな国があった
言葉でもなく指きりでもなく
確かめ合った
赤い木の実を食べて
甘い草の根をかじ ....
070810
意味無し芳一の日記を読んで
日記を書こうと思った
中学二年生の夏
暑すぎる日はプール
雨の日はごろ寝
晴れたら自転車に乗って
....
テーブルに置き忘れたメモが朝を捉え損ね
誰かの起こした風に遊び散る
それは断層にしがみついた学者の手の中で
ありふれた三葉虫や瑪瑙にうまれ
ひとつとして同じ気配でないが
またとない程の発 ....
夏ごとに
おしゃれになってゆくおまえが
自慢のミュールで前を行く
{引用=
(なぁ、おまえが選んだっていう
(このお父さんの水着
(ちょっと
(トロピカル過ぎやしないか
}
いつか
....
答えだけが
求められるから
今日は太陽が沈むでしょう
そのたびに
遠ざかっていくのです
飛鳥の石舞台は夕日に
廬山寺の桔梗は夕日に
やってくる未来を信じないにしても
....
「ラブアンドピース」緑川ぴの
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=128847
アオザイの揺らめきはあのときのままではない。アオザイは民族衣装なので ....
潮のせいでくちびるの端にこびりついた砂を噛む
違和感
そのついでに日記にも砂をかませる
八月はつめたい
指先で這った波の曲線は
私の中では体温を持たない
数 ....
台風一過の夕焼けには
いつだって
涙を浮かべて
手を振ってしまう
『台風のクジラ』
僕は台風の前日には
落ち着かない子供だった
ずんずんと迫ってくる
雲の足音や ....
この手が
いくつもいくつもあったなら
泣いて光をうしなっている
あの子の
背中を
なぜてあげたい
頬にこぼれるものを
ひろってこの川に捨てたい
この手が
いくつもいくつも ....
イーダちゃん
62年目の朝が来ました
日本には あなたを苦しめた
原爆は 落ちていません
だけど この地球上で
戦争によってばらまかれた
放射能で
殺され 傷つき ....
真夏の陽炎の向こうから
短い編成の列車はやって来る
そのいっぱいに開かれた窓から
ショートカットの後ろ姿が見える
列車の外から
車両の様子は
ありありと伺えて
制服の脇に置かれた ....
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