時には
仕方無いこともあるが
私は
選んだのだ
命を
すすきの穂が暮れ終わって
秋が もはや殆んどない
御寺の緑に
ふとこぼした涙は何処へ行ったのか
荒々しい血汐のざわめきが
遠い日のことであったと
気附いたのか
一 ....
寂れた町の匂いのする
季節外れの席でビールを飲む
砂粒だらけの赤い足で、
板張りの床を踏んでいた
濡れた髪の女の子が
ハンバーガーとポテトを運んだ
台風が去った跡の景色が、
そのままこの ....
そよぎゆらぎ
煌めく葉群れ
ひかりの匂い
引き締まる気
囀ずる鳥達の
響きに絆紡ぎ
界の木霊に人
震わせる言葉
慈悲とつれあって深夜のスーパーを歩いた
あるいは慈愛とつれだって萩の花をばらまいて歩いた
おれたちにとっての幸運が猫のしっぽであったような、
あるいは取り残された者たちの最 ....
ありがとう
空よ
私の至らない部分が
人のこころを傷つけてしまうのは
私が至らないからです。すると
みんなが至らないよ、と
空は
青ざめてくれる
空よ
ありがとう
いくつかの雲は ....
ライナスのナイフは安心ナイフ
あの時ナイフがあったから
血は流れなかった
ライナスのナイフは安心ナイフ
言葉は役立たずだったから
血は流れ続けている
ライナスのナイフは安心ナイ ....
リハビリ中
リハビリなか
なか‥‥シホ
苦悩というものについては、ぼくは、よく知っているつもりだった。しかし、じつはよく知らなかったことに気がついた。ささいなことが、すべてのはじまりであったり、すべてを終わらせるものであったりするのだ。た ....
あの日の雨は
もう降らないのかもしれない
もう降っているのかもしれない
明日
海を見にいこうと思う
海を、見にいこうと思う
辞書の文字が夕焼けに溶け ....
何でも無い午後の風と
悲しい思いがする そんな
毎日の中を流れている
公園の前で
何でもない日々にある
今は そんな 感覚と
意識の中で生きている
電子工作の手を止めて
....
リビングで 朝
外の光がもれこんでいる廊下の床に驚いた
玄関が 開いているのだ
シルエットの人影
何故だかすぐに 母だと分かった
どうして 敷居を跨がないの?
....
リズムから溢れる符牒符合をかき集めては
かき集めてはため息ばかりついていないで
今にさよなら半歩先昨日にあばよと階段を
詩を書くことの出来るよぼよぼ歩く老人の
ご老体の影のマス席で韋編三絶繰り ....
〇
玩具のミニカーに乗りたい、と
息子が言うので
助手席に乗せてあげた
エンジンが無いと動かない仕組みを
なるべくわかりやすく伝えた
息子は勉学に励み
大人になって
ミニカーに ....
動画クリエイターの橋本美千夫さんが、拙詩集『ソナタ/ソナチネ』所収の一篇「夏の水」を見事な「映像詩」にしてくれました。
朗読は詩人・画家の印あかりさん。使用音楽はショパンの練習曲作品25-1《エオリ ....
何も言葉を無くしたらどうなるだろうと、思いつつも牛乳をコンビニで買ってきた。知り合いのいないこの街で。川だけが友達のような気がする。履き慣れた靴を僕は履いていた。その存在すらも忘れていたような気がする ....
{引用=直視できない静物}
しっとりした朝だ
一夜で山の色味はずいぶん変わり
黄ばんだ光の川底
紫陽花は
くすんだ化粧の下
よく肥えた死を匂わせる
寡黙な季節の形象を前に
ついこと ....
手はさわり
落ちていく
あたらしく
たどりつく波
その波のかたち
平日の空気を
涼しい寝台特急は泳ぎ
車体を残して
溶けていく
あなたは積木の
手本をしている
手は繰 ....
日の暮れ方の川辺り、{ルビ湯女=ゆな}の手の触るる神の背の傷痕、
──その{ルビ瘡蓋=かさぶた}は剥がれ、金箔となつて、水の中を過ぎてゆく……
({ルビ魚=いを}の潰れた眼が、光を取り ....
すべての夢が燃え尽きたあと
僕と君とはふたたび会うだろう
そこには静かな風と
穏やかな光があるだろう
そして僕は
もはや語らないだろう
叶った夢のこと
叶わなかった夢のこと
た ....
観葉植物に餌をやり忘れて
餌はやらなくていいんだよ、と
言葉で教えてくれた人がいた
階段のよく晴れた踊り場のあたりにも
エタノールの匂いがしていて
その間、何本かの準急列車に
乗り ....
或る 雨の朝
しぶきに打たれる鋪道の
流れる水の勢いを 感じながら
あなたを久しぶりに思った
夏の始めの山は緑だから
美しいし
君は 緑の年 ....
あの人の まなざし深く静かな
群青色は列をなして
宙を見つめている
人類の亡んだ地球の岸で、
あの人の亡霊が釣りをしている
風はそよそよと光り
空には雲が
ぽっかりぽっかりと浮かんで ....
いつしか秋の色もしみじみ深く
高くさはやかな空のすきまには
うまれなかつた光のかなしみなど
きよくちいさくはりつめてゐる
こんな日はきみとはなしてゐたいなあ
いつしよにあをぞ ....
からっぽの手紙が積まれてゆく
借りてきた言葉ならまだしも
狩られているものは人の心じゃないのか
彼との間さえも誤魔化し
軽んずるためだけの言葉が連なる
綺麗なつもりでいて
嫌いとい ....
洗濯物は洗濯機が創る。
噂は風が創る。噂話は君が創る。
伝わる。沈黙が伝わる。宇宙は大騒ぎだ。
技術は待っている。手探りを。
呪縛。
人生はproject。Mission。何処に産まれようが ....
{ルビ蟇蛙=ひき}よ、泣け。
泣くがいい。
ぎやあろ、ぎやあろと
泣くがいい。
父は死んだのか、
母は死んだのかと
泣くがいい。
....
1
葉がふと 落ちる
はな れ て
ゆく
おとなしい
終りが
始まる
それにそなえて
私を 消す
2
浮き出た血管のように
夜を
青い星 ....
ひとつひとつ
背中が消えていく
街は少し
そのようなところ
空っぽのエンジンを載せて
車がいつまでも
変わらない信号を待っている
きっと
そのようなところ
駅前で酔った
....
昼間の夢と云つたら海の色した童話ばかり。
流線形を解いて身を楽にすると
このかがやきは永遠の答案のやうに姿を消して
はかながる薔薇を秘めた僕らの仲らひに
束の間の雨滴は ....
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